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第六話 うずまく陰謀

「随分とやつれてますけど、どうしたんです」

翌朝、有った途端にレナさんから心配された。そんなに俺の顔が変だったのだろうか。

確かに昨日は大変だった。

あれからホークさんにも鬼丸にもやれどこまでいったんだとか、結婚する気はあるのかだとか、果ては姫様とお嬢がどの位素晴らしいのかに至るまで、延々と否応なしに語られ続け、しかもこちらの意識が遠のくと途端に容赦ない攻撃が襲ってくるものだから、おちおち寝てもいられなかったのだ。おかげですっかり寝不足だよこんちくしょう。

「いや、ちょっとね」

万感の思いを飲み込み、俺はそう答えるに留めた。多分言ったら殺されるし。別に怖かったとかそういうわけじゃないんだからね。

「はあ、まあどうでもいいですが。静かだとそれはそれで気持ち悪いですね」

「何だと」

「冗談です」

もうレナさんの毒舌にもいちいち反応を示すのも面倒になってきた。これはこういうもんだと思えば案外どうとも感じないものだ。というよりも色々ありすぎてもう大抵のことでは驚かなくなってしまった。これで良いんだろうか。

「いや、駄目だろ……」

「どうかしましたか?」

「あ、いや別に……」

レナさんは深く触れることはせず、そのまま無言で廊下を歩き出した。こうして見ていると、さっそうと歩いている彼女は随分と画になった。全く、黙っていれば美人なのにどうしてああも口が悪いのか。

「今、何か失礼なことを考えませんでしたか」

「いえ、とんでもございません」

レナさんは怪訝そうにこっちに顔を近づけてきた。何故だろう。やましいこともないのに、何だかこう、どきどきしてきた。忘れてた、レナさんは口はきついけど、黙っていたら美人だったんだ。

「熱でもあるんですか?」

掌をこちらの額にくっつけようとするレナさん。おい何だこれ。何でこうも何のためらいもなく、男の額に手なんて当てられちゃうの?積極的過ぎてちょっとどきどきしてきちゃうよ。どうしよう、もうすぐレナさんの手が、こちらの――

「何しとんのじゃワレ」

急に後ろから冷たい空気が流れ込んできた。できるだけ振り向かないようにして、目玉を必死に横へ向ける。

「あれ、鬼丸じゃないですか、どうしたんです」

「お嬢、お早うございます。いやあ相変わらずお嬢はお美しいですねえ……ところでそこの馬鹿とは一体何を?」

段々声を低くしながら、足音は徐々にこちらに近づいてきた。やがて俺の肩にぽんと手が置かれると、足音が止まり

「おい、昨日自分は人の話を聞いとったんかい、オ?」

「いや、俺はその……」

「彼が挙動不審だったので熱でもあるのかと思っただけですよ」

レナさんが横から口を挟むと、鬼丸はますます歪んだ笑いを浮かべた。

「のう、熱でもあるならワシが測ってやろうか、え?」

「いや、結構です」

「何を遠慮しとるんじゃ、お前、まさかお嬢じゃなきゃ嫌だなんて、そんな下心があったわけじゃあるめえ、うん?」

「そりゃありませんけど……」

「一体どうしたんですか、二人して」

レナさんがかがんでこちらの様子を窺おうとするが、鬼丸はにやにやと笑ったままクルリと後ろを向くと、ドスの利いた声で言った。

「のう自分。お嬢相手に何か間違いでもあったら……分かるな?」

ええ、そりゃあもう。痛いほどに承知しております。ですからとりあえず手をどけてくれませんか。

「ちょっと二人ともいい加減に――」

「宮廷弁務官殿!」

レナ様が一歩を踏み出すと同時に、衛兵が廊下を声を上げて駆け寄ってきた。

「何です、騒々しい」

レナさんはいつもより若干苛々したように応える。衛兵の方はそれに気づいたのか、畏まった様子で、それでいてどこか慌てたような様子で敬礼のポーズを取った。

「それが城下に魔物の死体が出たと、屯所の者が申しておりまして……」

「死体、ですか」

レナさんは手に顎をちょん、と乗せる。相変わらず黙り込むと無駄に画になるなあ。

レナさんが目をちらりと鬼丸へと向ける。

「鬼丸、どうですか」

「どうって……死んだ奴なら気配なんてありませんしなあ……」

「相変わらず使えませんね」

ぴきりと凍り付く鬼丸。気の毒な奴だ。

「とはいえ鬼丸に分からないとなると伏兵の可能性はなし、と。行っても問題はなさそうですね」

「恐縮です」

「本来王都の治安維持は騎士団の仕事だと思うのですが」

「申し訳ありません」

衛兵は静かに頭を下げた。それを見ると、レナさんは小さくため息を一つついた。

「……ちなみに、陛下と団長閣下はどこに?」

「それが、貴族との緊急会議とのことで……」

成程、とレナさんが頷く。昨日そんな話はなかったような気がするが、一体何のことだろう。

「会議?」

俺がそう尋ねると、レナさんはこちらを向いた。

「おそらく二日前の襲撃者のことでしょう。アンドリュー卿は彼らの中心的存在ですから。何が何でも取り返そうという魂胆でしょうね」

「そんな人が俺のところに来たのかよ、貴族なんだから人を雇うとかすればよかったのに……」

「勇者を始末するのに自分たちの信頼できる実力者を使いたいというのは、まっとうな感覚だと思いますよ。まあ、あなたがこんなに弱いなんて予想外だったでしょうがね」

「ぐっ……」

ついさっきまで罵倒されるような空気じゃなかったのに。何でこんなことになってるんだ。

「……」

隣を見ると、鬼丸がさも嬉しそうな顔をしてこちらを見る。やかましい、こっち見んな、笑うな。

「いずれにせよ、ホーク卿があちらにいらっしゃる以上、騎士団が動けないのも仕方ありませんね……行きましょう」

そう言って、レナさんは歩き出した。俺たちも慌ててそれに続く。

「魔物の死体……一体どうして……」

歩きながら呟くレナさんの声はどこか暗かった。



広場には既に人だかりが出来ていた。

「……凄い数だなあ」

「王都ですから。この国で一番人が多いんですよ」

「田舎モンが、これで驚いてたら中央に行ったらやってられんぞ」

「中央」

「何ボサッとしてるんですか、行きますよ」

人の波をかき分けてレナさんが進んでいく。俺と鬼丸も慌ててそれに続いた。

「ご苦労様です」

人だかりを抜けると、衛兵がびしりとこちらに例をしてきた。慇懃にレナさんが手を振ると、衛兵も敬礼を解く。

「それで魔物の死体というのは」

「あれです」

衛兵が指さした先には、何か生き物のようなものが横たわっていた。少々赤みがかったような褐色の肌。頭には小さなこぶのようなものが二つ。くぼんだ目に光はない。間違いなく死んでいる。

「鬼……?」

レナさんが黙って首を振る。

「鬼はもっと巨大ですし、何よりも強い。これはただのオーガでしょう、それでも妙なのに変わりはありませんが」

「何か不自然なところでもあったんですか?」

「死体自体に不自然な点はありません。しかしオーガがこの周りに群生しているという話は聞きませんが……」

確かにアルシエルの城に向かう途中、こんな魔物の姿は見たことがなかった気がする。

「街道が整備されていれば当然、魔物も人の気配を感じ取って近づいてきやせんからね。賢く、強い魔物程手前の縄張りから出ない」

鬼丸が死体に近づいた。付近を眺めてふむ、と呟く。

「血がねえな。となると死んだのはどこか別の場所か……」

「誰かが死体を運んだってことか?一体何のために……」

「ンな事、俺が知るか」

そりゃそうだ。

「何者かが運んだとすれば事は深刻ですよ、魔物の死体をわざわざこんな往来に晒すなんて一体何を……」

レナさんが少し顔を歪めながら考え込む。鬼丸は鬼丸で、そんなレナを黙って見つめていた。

と、その時。

「奴らの仕業だ!」

どこからか、そんな声がした。

「魔王軍の残党共が勇者がいるって知って王都に攻め入るつもりなんだ!」

その声は決して大きなものではなかった。しかし、独り言と言うには大きく、人々が無視することができるような音量ではなかった。

「おいおい、マジかよ」

「要するに勇者様のせいってこと?」

「何てこった、今すぐ逃げないと……」

パニックは容易に周囲に伝染する。ただ何となく抱いていた不安がまるで現実のものにでもなってしまったかのように、人々は周囲の人間とひそひそと話している。

「まずいですね」

レナさんが爪を噛んだ。確かにあまり良い状況ではない。このまま民衆がパニックになればその矛先は、まず最初に俺たちに向くだろう。

「……お嬢、ここは引き下がりましょう、長居するのは危険です」

鬼丸の提案にレナさんは静かに頷いた。確かに今はこれ以上情報が得られそうな様子もないし、下手にことを大きくするよりも、さっさと民衆を静めた方が良い。その為には、俺たちはいない方が賢明だろう。

「すみませんがここは頼みます、死体は騎士団の方に。団長閣下には私から話を通しておきますから」

「かしこまりました」

衛兵は敬礼をすると、そのまま民衆の方へと向かっていった。それを見ると、レナさんはそのまま歩き出した。鬼丸と俺も、それに続く。

後ろから聞こえる囁き声が、少し大きくなった気がした。



「……厄介なことになったな」

リヒテンブルクの王、アルフレッドは、廊下の窓から外を覗いて、そう呟いた。聖剣広場にできた人だかりの中には、衛兵たちによって閉鎖されている中央を何とか覗こうと背伸びをしたり、衛兵に突っかかる者の姿も見える。先ほど高等弁務官と勇者の姿が見えたが、すぐに消えた。おそらくパニックを警戒したのだろう。今は衛兵が大声で何かを言っている。皆が静まるのに、そう時間はかからないはずだ。しかし、それでも事件そのものを解決しない限り、皆の不安が根本的に解決されることはあるまい。そのためにしなければいけない仕事の数を考えて、アルフレッドは顔を歪めた。

「……面倒臭え」

「だから言っただろうが。勇者にはさっさと勇者らしく旅にでも出してしまえば良かったんだ。」

隣からホークが口を出す。元々この男は勇者にあまり良い印象を抱いていないようだった。他の人間には気が付かないだろうが、長い付き合いのアルフレッドには心当たりがあった。

「あいつそっくりだもんなあ、お前に」

今度はアルフレッドが顔を歪める。おそらく図星だったのだろう。相変わらず顔に出やすい奴だ。にやりと笑うが、眼下に広がる景色をもう一度見て、黙り込む。

「どうする気だ、このままでは厄介なことになりかねんぞ」

「そうさなあ……」

アルフレッドは頭をがしがしと掻いた。困ったときのアルフレッドの癖だ。いくつかの案が浮かんでは消え、案ごとの方策を思い浮かべる。

「取りあえずはアルシエルに会うか。奴に確認せんことにはどうしようもない」

「誰を連れていく」

分かっているのだろうが、一応ホークは形ばかりの質問を返す。自分の口からはあまり言いたくないのだろう。

「そらあ勿論」

「これはこれは陛下、こちらにいらっしゃいましたか」

アルフレッドの声を塞ぐようにして、廊下を背後から男が歩いてきた。ゆったりとしたローブに身を包み、禿げた頭をてらつかせている。赤い絨毯を踏みつぶしながら歩いてくるその男の名は、

「オム神父……」

「おお陛下、こんなところに……」

「さあ、そろそろ会議を始めましょう」

オム神父の後ろから続々と老人たちが現れる。皆不健康に太っているか、ひどく痩せているものばかりだ。そしてその目はどれもひどく窪み、輝きを失っていた。人を貶め、自らの権力を守ることしか考えていないような、そんな連中の目だ。

しかしその中でひと際異彩を放つものが一人。

「陛下」

「レスター卿……」

レスターは老人たちの中でも特に年老いていたが、しかしその肉体は彼らの中で最も逞しかった。当然だ。何せこの男は先代の王の頃、領土拡張に多大な貢献をした、皇国軍の生きる歴史そのものなのだから。

「……お元気そうで何よりでございます」

「そっちこそ、まだ死んでなかったんだな」

「陛下」

ホークがたしなめるが、構うことはない。元よりこの程度で怒るような器の小さな男なのではないのだ。周りの貴族たちは鼻白んでいるが、どうせ何も言い返しては来ないのだから。

「気にするな。こいつは昔から私相手にはやたらと噛みついてくるのでな、餓鬼が何を吠えようが、老人は何も感じんよ」

レスターが貴族たちに釈明する。このような不遜な返しが許されるのはこの男だけだろう。

「吐かすじゃねえか、死にぞこない」

「喚くな、小童」

不気味な沈黙が二人の間に横たわった。それは文字通りの殺気。権力闘争のための腹の探り合いなどではない。純粋な、相手を殺すというこの上なく単純な意思。

鈍感な貴族たちも二人のただならぬ様子に、少しばかり不安げな様子を見せる。しかし、二人はそれを気にすることなく互いににらみ合っていた。

と。

「止めんか馬鹿たれ」

そんな空気にも動じない者が一人だけ残っていた。隻眼の騎士、ホーク・バーンズその人である。

ホークはぽかりとアルフレッドを殴りつけた。アルフレッドがたまらず頭を抱える。

「でっ……ホーク何すんだよ」

アルフレッドの言葉を無視して、ホークはレスターに頭を下げた。

「申し訳ありません、閣下。これには私から言って聞かせますので」

「お前は俺の母ちゃんか」

「うむ」

「おい無視すんな」

王が歯ぎしりをしている様を見て、皆も落ち着き始めたのか、貴族に愛想笑いが浮かぶ。相変わらず場の空気を読むのだけは上手いものだ。アルフレッドは顔をしかめた。

「さあ、会議を始めましょう、すぐに終わるかとは思いますが」

オム神父がそう言いつつ、アルフレッドを追い越した。貴族たちは動かない。当然だ。この国の人間が王の前を歩くなど、あってはならないことなのだから。しかし神父は例外だ。この国の臣下ならばどうとでも料理できるが、教会直属のあの男を裁けるのは教会だけ。アルフレッドにとって、目下一番面倒な敵だった。

「すぐに終わるのかねえこれ……」



「今日こうして参上したのは陛下に申し上げたいことがあったからなのです」

テーブルに座ると、貴族の一人が、そう切り出した。

テーブルは部屋の殆どを占めるような縦長なもので、その一方には貴族たちが、そして反対側にはアルフレッドが座り、その横にはホークが静かに立っていた。

アルフレッドは貴族に返事をする代わりに机に肘をつき、手を顔の前で組んだ。そうして貴族一人ひとりの顔を見る。己の勝利を確信し、笑みを浮かべるもの。報復を恐れ、怯えている者。様々な表情が目の前にある中、レスターだけは何の感情も、表に出してはいなかった。

「ご存知のように、アンドリュー卿が現在捕らえられております。しかし彼とて無辜の民の命を徒に奪おうとしたわけではない、どうかその辺りを汲み取り、何卒ご容赦を……」

「公道で魔法をぶっ放しておいてそりゃあ厳しいだろ。証人だっている、巻き添えで誰かが死んでもおかしくなかったんだぞ」

往来で魔法を用いることは、安全面から禁止されている。特別な場合を除き、魔法を使うこと自体が違法なのだ。特別な場合とは自らの命が危険にさらされている場合、そして王からの特別任務を与えられた場合のどちらかのみ。そして、アンドリュー卿の場合、そのどちらにも当てはまらない。法的には隙無。ならば特例として釈放せよと、そう言っているのだろう。

「ええ、承知しております。ですが彼の行動も国を思ってのことであると、ご理解いただきたい」

「国、ねえ」

果たしてそれは、一体誰のための国なのであろうか。そんなことは言えないので、取りあえず質問で返しておく。

「勇者を殺すことが、どう国益に繋がるのかね」

「分かり切ったことだろう」

強引に割って入ってきたのはレスター卿だ。しかしその声は静かだった。捕まったのは己の部下だというのに、ひどく落ち着いている。

「先代を見たことのある者なら、あれがどれだけの力を持っているのか、分からんはずがあるまい、あれは兵器としてはあまりにも危険なものだ。周囲に無用な挑発をすることになりかねん。」

「生憎だが我々に勇者をどうこうする権利はない。彼は俺の部下でも何でもないのだからな」

「では教会はどうする」

アルフレッドは黙って目を細めた。それを見てもレスターは何も言うことなく先を続ける。

「知っての通り、聖剣は教会の教義そのもの、教会にとって勇者とは、聖剣の簒奪者だ、まして先代の勇者は神敵、教会がその首を賞金を懸けているような男だぞ?そんな奴が残した聖剣を教会が今まで放置していたのは、今までそれを誰も引き抜けなかったからだ。錆びているうえ、誰にも扱えないような鈍らであったからこそ、彼らは黙認していた。しかし聖剣を抜いたものが現れたとなれば、彼らは直ちに返還を要求してくるぞ、教義として、聖剣の価値が認められれば、それはもう教会の所有物なのだから」

成程。所在を確認でき、それが役に立たないうちは放置していたが、有用となれば話は別。教会としてはそれを手元に置いておきたいと言う訳か。

となればその真偽を確かめなければなるまい。

「……それが教会の総意なのですか、オム神父」

オム神父は穏やかな笑みを浮かべた。

「いえいえ、今回我々教会は、まだ勇者の動きを見定めておるところです。彼が我々に協力してくれる可能性だってありますからなあ……」

しかし、とオムは続ける。

「ただ、面白い情報がありましてねえ、何でも勇者殿が魔族のアルシエルと接触したとか。こうなっては我々としても見過ごすことはできません。勇者が危険であると言わねばならないでしょうなあ。そして、現状彼に接触している人間は少ない。となれば、我々としても多少の邪推は已むを得ない、ということでございまして……」

勿論、とどこかの貴族が口を挟んだ。

「これはあくまで最悪の場合。アンドリュー卿は万が一のことを考え、この国のために最善と思った策を実行に移したまでのこと。彼の国を憂う心、どうか……」

「成程、そういうことね……」

つまり彼らは人質に取ったのだ。己の住む領地を、民を、この国そのものを。

この国は確かに巨大になった。だがそれでも、周囲には大国があり、いつ戦争に突入してもおかしくはない。微妙な均衡を保ち、何とか戦争を回避しているのだ。

だがこの国が教会によって異端の王が治める国だと宣言されればどうなるか。

教会は力を持っている。それは軍事力であり、政治力だ。教皇から発せられた言葉はどんな国の王でも無視できない。教皇が異端だと言えば、その王はどれだけ国での地盤がしっかりしていても、その正当性を失うのだ。

それはつまり、他国からすればその国を責める大義名分を得たことになる。異端の王に不当に支配されていた民を救う――そんな強引に見える理屈も、教皇の一言でまかり通ってしまう。故に、多くの国が教会には強気に出ることができないのだ。当然だ。教会を敵に回してしまえば、文字通り、全世界が敵に回ることになるかもしれないのだから。

貴族たちは、教会によってこちら側をけん制しようとしているのだ。逆らえば、教会が敵に回ると。そして、この国が死ぬと。

「お前ならば分かるだろう。教会が敵に回ればこの国は終わる。リスクは負うべきではない、少なくともあれはそう考えたのだろう。国を思う者をここで殺すと言うのなら、我々も少々強硬な策に出なければならない」

レスターはそう言うと、立ち上がった。

「さて、お前はどうする」

貴族たちは、皆勝利を確信したような、邪悪な笑みを浮かべている。教会を味方につければ、最早こちらは逆らうことはできないと思っているのだ。

アルフレッドは表情を変えないように努めながら、天井を見上げた。静かに息を吸い、ゆっくりと吐く。

「――」

そうしてそうしてアルフレッドは口を開いた……。



「疲れたあ……」

アルフレッドはため息とともに、長机に突っ伏した。既に貴族たちは去り、この場にはアルフレッドとホークの二人だけだ。

「四日間の拘留から証拠不十分により釈放。まあ妥当なところか」

「面倒臭えよ、何であんな奴らと顔を合わせなくちゃいけねえんだ」

「お前があいつらと会わないとこの国は内戦状態になるぞ」

「ンな事ぁ分かってるさあ」

アルフレッドは声にならないような声を上げる。それをホークは半ば呆れた目で見つめるが何も言わない。この男が日々怠惰におぼれているのはいつものことであり、いちいち指摘するに値しない。

「大体あいつらが城に行ったのってあいつ捕まった後じゃねえか、明らかに後付けの理屈だろ」

「そこまで分かってたのか、大したものだ」

「お前俺のこと馬鹿にしてない?」

「そこまで分かってたのか、大したものだ」

「オイ」

無視して虚空を見つめるホークにアルフレッドは深いため息をついた。そんなアルフレッドを見て、ホークは虚空を見つめたまま尋ねた。

「……それで、誰だ?」

「あ?何の話だよ」

ホークは半ば苛々したような声で返す。

「先ほど言っていただろうが、アルシエル城に向かう面子の話だ」

「ああ。それね……」

アルフレッドは気だるそうな目を静かに閉じる。

「そうさなあ……まずは俺にお前にシルヴィア、あとは高等弁務官殿と……」

そう言って、アルフレッドは静かに目を開いた。

「勇者だ」

それを聞くとホークは静かに

「……了解した」

ただそう返すだけだった。

今回はおじさま多めの回。話すシーンが多く、文字数が多くなってしまいました。

ネットも復活したのでとりあえず一安心です。次回はまた始たちが主軸で話が進みますよー。

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