魔王と勇者の伝説
遅くなりましたが続きです。
本編主人公とは別の人の話です。
はるか昔、神は天と地を創造された。地は形無く、水は淀み、全てが闇で覆われていた。「光よ顕れたまえ」すると光が顕れた。光は地を焼き火が生まれた。神はその光と闇を分け、暦を創造した。故に時が動き出し、風が生まれ全ての万物を動かせた。地は削られ形ができ、水は流れ、海となった。神は目と手と足からそれぞれ6匹の竜を生み出した。神は6匹の竜に命令した「右目の竜は光を、左目の竜は闇を、右手の竜は風を、左手の竜は水を、右足の竜は火を、左足の竜は地をそれぞれ司りなさい」それによって竜は属性を手に入れた。また、竜たちは自らの手足として魔物を生み出した。やがて世界は6匹の竜によって運営され、あらゆる生命が育まれた楽園となった。神はその世界に自分に似た生物を作り、その世界の支配者にしようと考えた。その考えに5体の竜は従った。しかし闇の竜だけは従わなかった。闇の竜は手下を率い反逆したのだ。闇の竜はこの地の神の仮の住まいである大樹を食らい強大な力を得ていた。闇の竜はその力で全ての魔物を従わせ魔王を名乗った。神は自らが生み出した自分に似た生物を人と名づけ、聖剣を与えた。聖剣を持った人は5体の竜の協力を得て、魔王を封印した。やがてその人を勇者と呼び、5体の竜達は5大竜王と呼ばれるようになった。魔王は100年ごとに封印から目覚めたが、時代ごとに生まれる新たな勇者によって封印されていった。
その魔王はこの時、異世界の扉が開かれたのを感じた。
「何かがこの世界に顕れた」
「私も感じております。魔王様」
そこには魔王と四天王の一人、黒いローブを着ている年老いた吸血鬼、風の"ブラド十二世"がいた。
この時期、すでに勇者が覚醒しており、魔王が封印から目覚め、活動開始したころには、すでに四天王の内3体が倒されていた。
さらに言えば勇者のパーティはフル装備で連携も完璧。いわゆる最終決戦仕様になっていた。魔王軍はすでにチェックメイト間際まで追い詰められていたのである。
魔王は水晶を通して、空にある異世界の扉から落ちた100の光の中から一つ特に強い力を感じる物を追い落ちた先を見た。
「え」
魔王は自分の目がおかしくなってしまったのかと思った。なぜならそこには人間の女に似た姿をした闇竜がいたからだ。
その水晶で覗かれた場所は森だった。
そこに立っていたのは一人の中学生くらいの少年と黒いオーラを纏い全身を黒い鱗で覆われ、翼と角が生えている女性だ。
「究極闇か」
「獄炎様だ~」
見た目はクールそうな切れ長の目をした長身の女性には似合わないしゃべり方だった。
獄炎と呼ばれた中学生くらいの少年は心の中でガッツポーズを決めていた。彼は突然の異世界への困惑よりも現実からの脱却を純粋に喜んでいたのだ。
そうだ他の仲間を呼ぼう。彼の右手にはスマホがめり込んでいる。彼はそこから他のメンバーが呼べるのではないかと考え、スマホに書いてあるサモンというアプリを起動した。
「そこの者、余の話を聞くが良い」
突然えらそうな態度をした白髪の少年?が現われた。服装はファンタジーの王様が着ているような服を黒くアレンジしているものだった。獄炎は中二病な黒い服に憧れを持つ少年である。
彼は趣味が合いそうだと感じた。
「君は誰?この世界の人か?」
瞬間、白髪の少年は剣を抜き獄炎に切りかかった。白髪の少年、魔王は女性の方に話しかけたつもりだった。だが、おそらく異世界移動に巻き込まれただけであろう、憎き下等生物である人間の子供に無礼な口の聞き方をされたのだ。彼は邪魔者を消してから彼女にゆっくり事情を聞いて魔王軍に勧誘しようと考えていた。
「!?」
ありえない。魔王は殴り飛ばされていた。相手は闇竜ではなく、ましては少年ではない。それは白い甲殻類の装甲を身にまとっていた少年と同じくらいの身長をした人型の魔物。魔王は直感的にクイーンシザース(巨大なカニの魔物)であると理解した。
「お怪我はありませんか」
その魔物から少女の声がした。
「ああ、大丈夫だ」
獄炎はサモンのアプリで彼女、無限王を呼んでいたのだ。
「第6層より来たる炎」
魔王は自分専用の地上では最高クラスの炎の魔法を放った。しかし
「メルストロム」
彼女の胸の前に渦潮が現われる。その渦潮は巨大な炎を全て吸収し
「返す」
渦潮ごと魔王に返ってきた。
これは通常のシザースのスキルではない。ゲームでは一定の確率でギフトと呼ばれる特殊なスキルを持ったモン娘が生まれることがあるのだ。
魔王は混乱していた。この世界のクイーンシザースのレベルは最大級でもせいぜい30を超えるぐらいである。しかしそこにいるのは最高レベルである100の魔物。このレベル100というのはこの世界では魔王と竜王、そして最大まで己を鍛えあげた勇者だけが到達しうるレベルのはずである。
「サモン、神炎天使」
その見た目は金髪で白い肌をした光り輝く天使である。
「ヤッホー、獄炎様」
見た目の割には軽かった
魔王は正確な情報を知るためにアナライズの魔法を使用した。最後に現われたのはレベル100の天使である。闇竜もレベル100、そこにはレベル100が三体。しかも、少年に懐いているように見受けられる。魔王は力が封印されている今の自分では勝ち目がない相手であることを悟った。
「で、さっきも言ったけど君は誰?」
少年が話しかけてきた。どうやらすぐ自分を抹殺しようという状況ではないようだ。どうにか上手く自分の都合の良い展開にできないかと頭をフル回転させる。
「余は魔王である。お主達に力があるか試していたのだ。そう、余の配下としてふさわしいかテストしていただけで、お主たちをどうこうしようとしたわけではないぞ!」
苦しい言い訳である。だが、少年は
「つまり俺が最強のモムリスト(ゲーム内のユーザーの肩書き)と知って近づいてきたわけだな」
「モム?…そ、そうだ」
魔王はよくわからないがそういうことにした。
話は変わるがこのゲームには対戦機能があり、月間で勝利数上位陣には豪華なプレゼント(課金アイテム)とゲーム内通貨がもらえるのだ。この獄炎は一年間一位であり続けたまさに最強のモムリストであった。
無論、魔王にその話がわかるわけがなかったが、とりあえず話をあわせることにした。
「お前のような凄腕を配下にできたら、やってもらいたい重要な仕事があるのだ」
「それは俺にしかできないのか」
「そ、そうだ、お主にしかできん、それは」
魔王ははるか昔、最初の勇者に敗れていたときに力の大半をこの世界のどこかにあるオーブに封印されていたのだ。そのオーブの封印は5大竜王の鱗によって解ける。魔王の頼みとはオーブを見つけ、5大竜王から鱗を奪ってくることだった。
「だが、倒してしまってもかまわないだろう?」
「できることならな…」
獄炎はこのストーリーをこう予測していた。おそらく魔王は封印が解けたら用なしの俺を襲おうとするだろう。しかしこれを返り討ちにすることで自分はこの世界の真の英雄として永遠に讃えられる存在になる。つまりこれは俺に神様が与えたサクセスストーリーだと考えたのだ。
「いいぜ、やってやるよ」
「本当か」
「ただし俺はお前の配下にはならない」
「ならなぜ余に力を貸してくれるのだ」
「そうだな、じゃあ今から友達ってことで、友達が困っているなら助けるのが当たり前だろう」
「はっ!友達!」
魔王は再び驚いた。生まれてから数十億年、そんな立場にいた相手などいなかったからだ。無論、どちらも本気にはしていない。
あくまで相手を利用しているにすぎないからだ。
「そうか、なら今日からお主は友達だ」
かくして、奇妙な友達関係が成り立ったのだ。