LiFe&dEaTh
息抜きに書きました。
とにかくアクションが書きたかったので中身は完全にアクションです。
今から何百年も前の話。
一人の科学者がエネルギーを無限に造り出す技術を確立した。
そして、自分は自分の記憶を引き継いだ『何人目』かの自分であると。
記憶のデータ化、それによる擬似的な永遠の命。
当初世界は揺れたらしい、世界を救う技術をもたらした賢者が、神の摂理に反する逸脱者だったのだから。
けれど、それも長くは続かなかった。
エネルギー問題の解決、それどころか全ての資源を補う技術、人口という問題さえ除けば、全てを克服したかのような世界。
そこで目に見えて訪れる『死』は目に見えぬ『神』よりも多くの人を支配した。
そして人々は『死』を忘れ、永延という忘却の『夢』を巡る。
●
「『夢遊病者』はエリアA―6を7に向かって移動中、各員は速やかに該当のエリアへ向かわれたし。繰り返す――」
低い警報音と放送、それらを響かせる白い廊下を、彼女は悠然と歩く。
毛先に向かい白くなる独特な白黒の髪色、釣り上がった切れ長の金眼。
純白の通路と対照的な黒いジャケットにパンツ。
彼女の歩みに合わせて、尻尾のように伸ばされた白の後ろ髪が揺れる。
彼女の歩く先、十メートル程先の通路の曲がり角から、慌ただしい人の群れの足音が聞こえてくる。
「こちらD班、目標を確認! 無力化する!」
現れた紺色の防護服に身を包んだ男達、それらが脇に構えた小銃を一瞥して、彼女は呆れたような笑みを浮かべる。
「撃――」
「号令斉射とか悠長だよねぇ」
班長らしき男がいうより早く、別の破裂音を響かせながら彼女が誰に言うとでもなく呟く。
前列にいた男の一人が頭から血を吹き出しながら崩れ落ちる。
彼女の手に握られた一丁の黒塗り拳銃、その銃口から煙が上がっていた。
「ルヴァンシュ、カルナヴァル」
腰後ろのホルスターからもう一丁、光沢のある銀の銃を抜きながら、
「喰い散らかせ」
叫ぶと同時に、男達の方向へ駆け出しながら、何度も引き金を引く。
破裂音に合わせるように幾人もの男が血を巻き上げながら倒れる。
彼我の距離は五メートル。
「ひ、怯むな! 相手は一人だ! 撃て!」
一人また一人と倒れて動かなくなる仲間を見て、震えながらも班長が号令をかける。
同時に続く大量の発砲音。
しかし、彼女はその発砲よりも早く、床、そしてそこから壁を蹴り、宙返りをしながら更に前に進む。
その下、つい先程まで彼女が立っていた周辺に、大量の麻酔弾がばらまかれる。
「なっ!?」
驚く班長を尻目に破裂音と共に右隣の男が血溜まりに沈む。
「はい、到着」
行っている事とは裏腹に、あまりにも軽い口調で彼女は、今度は班長の左隣の男にダッシュの加速を乗せた蹴りを叩き込む。
ぐぇ、と叫び声とも、息の抜ける音とも取れる音を発しながら倒れた男の胸を、厚底のブーツで踏みつける。
硬いものが砕ける音と共に倒れている男が何度か痙攣する。
その男の頭に向かって銃を撃つ。
地面に赤黒い花が咲き、その花びらが彼女の頬を汚す。
「――んで、残ったのはアンタ一人なんだけど」
そう言って向けられた笑顔に班長の男は愕然とする。
十人近くいた彼ら、いつの間にか動いているのは彼一人になっていた。
「な、なんなんだお前は――」
「ん? アレ、上から何か聞いたりしてないの?」
「お、俺達はた、ただの『夢遊病者』としか――」
「あぁ、そうなんだ、それはご愁傷様」
軽い口調で彼女は班長の男の額に銃口を当てる。
「た、助け――」
「どうせバックアップ済みでしょ?」
破裂音、続いて崩れ落ちる男の体。
静かになった空間を、薄れていた警報音が塗りつぶしていく。
「たまには死んでみるのも悪くないものよ。どうせそんな記憶残らないでしょうけど」
退屈そうに彼女は呟いた。
●
「オープンセサミ……っと」
そんな事をつぶやきながら、彼女は固く閉じられた白い金属の扉、その隙間に指を滑り込ませる。
足元には幾人もの屍体が転がっている。
ミシミシと金属か、或いは彼女の身体か、それともその両方なのか、しかし彼女は平然とした表情でかかる金属部分を指の形に歪ませながら、その扉を強引に開く。
重い音と共に開かれた扉、その先へ彼女は足をすすめる。
そこは一つの部屋だった。
開かれた広い空間、円形の広間にドーム状の天井。
その真っ白な空間の中央に、ただ一つだけ、三メートル程のサイズの円柱のモノが立っている。
『認証コードなし、施設該当者なし、管理者コード認証』
「あら、まだ寝てたのか」
室内に響いた男とも女ともつかない機械的な音声に独りごちる。
円柱の前に地面から飛び出すように柱が一本出てくる。
否、柱のように見えるそれは、柩だ。
柩の前が開き、中から灰色のコートを着た白髪、長身で体格の良い男が出てくる。
男が柩から完全に出ると、柩は自動的に閉じ、地面に戻る。
二度三度、手を握る動きをした後男の視線が、入口付近で立っている彼女を捉える。
「『夢遊病者』かよくここに入れたものだな」
「私のバックアップ、どこにある?」
質問と同時に、彼女は右手に持った黒い銃を男に向け、引き金を引く。
破裂音と共に弾丸が撃ち出されるが、それが男の額に当たることは無かった。
「質問と同時に額への銃撃とは、質問に答えさせる気は無いのか?」
平然とした表情で淡々と、手袋をした手で弾丸を受け止めた男は答える。
「これくらいで機能不全にならないでしょ? なる程度の奴ならどの道知ってそうじゃないし」
言いながら二度三度、男に向かって銃弾を放つ。
それをやはり男は易々と手で受け止める。
「ただの『夢遊病者』ではないようだな」
「……下っ端もそうだったけど、なんかおかしいわねアンタ等、私の事何かきてないの?」
「なに……?」
そこで初めて男の顔に感情らしき色が浮かぶ。
それは疑問の色。
それを見て彼女は地面を蹴る。
「余所見してると壊されるわよ?」
「む……」
側面に回るように動き銃を撃つ彼女に、男はわざわざ正面に動いて弾丸を受け止める。
避けるのではなく、全て受け止め弾丸を地面に落とす。
「成程そうか、貴様が『ブラッドドッグ』か」
「狗に犬って呼ばれるのもアレだけどね」
刹那、男が地面を蹴りブラックドッグと呼ばれた彼女との距離を一瞬で詰める。
「チッ!」
一瞬で詰められた距離に舌を打ちながら、振り下ろされた手刀を交差させた両腕で受け止める。
「いってぇ……」
頬に冷や汗を垂らしながら彼女――ブラッドドッグ――は、しかし口元に笑みを浮かべる。
「銃身で受けないのは懸命だが――身体が持つかな?」
男がもう片手を振りかぶった瞬間、それより先に彼女は腕を跳ね上げると、男に蹴りを放つ。
しかして、蹴られた男ではなく蹴った彼女の方が後方に跳ぶ。
「殴り合うつもりなんてサラサラ無いっつの」
後方に跳びながら間髪入れず二回の発砲、しかし意に介した様子もなく受け止められる。
「学習能力が無いのか?」
「アンタラに言われるのは心外だよ」
僅かだが離れた位置に着地する。
「何故貴様は他の者と同じように眠らない?」
「逆に聞きたいよ、なんで眠る? アンタラの『夢』に付き合う義理はないね」
問答する気は無いのか、彼女は質問に質問で返す。
次いで三度、発砲、受け止めらるのを気にせず彼女は両足で地面を蹴り男に向かって跳ぶ。
「狙いはアンタじゃあないんだ」
伸ばされた男の手を、器用に身をひねって避けると、交差際、銃をホルスターに繋ぎ止めている長いチェーン、それを男の首に引っ掛け、勢いで引き倒す。
「こんなもの――」
「遅いって」
男と一緒に倒れ座り込みながら、それでも視線を『円柱』に固定したまま、彼女は二度、左の銀の銃の引き金を引く。
着弾、二箇所の弾痕から、その円柱全体に大きな亀裂が一本走る。
「『生』に縛られた犬め」
「縛られてんのはどっちだよ糞狗野郎」
動きを止める男、その今際の際の言葉に、苦笑のような表情で彼女は罵倒を返す。
そして立ち上がると、その動かなくなった男の額と胸に二発ずつ、銃弾を撃ち込む。
真っ白だった部屋に赤が混じり、静寂が訪れる。
「ここもハズレか――」
そう彼女が呟いた瞬間だった。
円柱を囲うように、男が現れた時の柩が、六つ、地面から唐突に生える。
「はっ」
それを見て彼女は鼻を鳴らす。
同時に開かれたそれらからは、今し方屍体に変わったばかりの男と全く同じ男が六人、同じリズムで現れる。
「――機械のくせに死んだフリとか、趣味悪ぃよ『管理者』様」
手袋を引き、手の感触を確かめながら彼女を見る六人、その視線を一身に受けながら彼女は、一瞬の苦笑の後、むしろ楽しそうに獰猛な笑みを浮かべる。
「上等――替えが無くなるまで徹底的にブッ壊してやる」
●
その日、とある都市、そこに住む住人のバックアップメモリー――記憶――を保管する施設、『管理者』の施設が何者かに襲撃、破壊された。
失われた記憶の数は四万六千人以上に上り、それにより『蘇生不可能』となった人間の数は未だ公開されていない。
だが、その事実すらも人々は知らない。
ただ静かに、与えられた『夢』の中に沈み、生き続ける。
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