表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
猫耳少女の素敵異世界勇者録  作者: apricoap
黒の勇者が旅立つまで
7/28

旅立ちの前とちょっとした出会い

この話でプロローグ部分終わりです。

何かを手に入れるためには何かを失わなければならない。

等価交換とはよく言ったものだね。


あれ以降シーアがエスカレートしたせいで旅立ちの準備をしていたこの5年間で二番目に苦労したのはシーア対策だったり。


同性相手に貞操の危機を感じるのは何かの間違いだと思う。


ただ、リスクとリターンというかいくつか使える魔法も手に入れて自分なりの戦闘スタイルというものを確立できたのもシーアのおかげだったかな。


ほかにも大きな変化と言うと背が伸びたり、メインジョブのおかげか体が人並みになったり、内面に変化が起きたりといろいろあった5年間だけどそれはそれはあくまでも準備期間だ。


旅立ちの準備期間が終われば当然旅立ちが待っている。


次からは僕がほかの勇者たちと合流を目指して迷宮都市スタブの街へ向かう話ってことかな。



……飛ばしすぎじゃないかって‽旅立つ前に何があったのかまだ聞いていない?


……僕は話したくない。


だって言った以外で旅に出る前にあったような大きなイベントと言うと……。


うん思い出すだけで毛が逆立つからやめよう。



……それでも聞きたい‽……本当に‽

しかたがない、後でその情報の出どころを教えてくれたらいいよ。

見当はつくけど。


テンション下がるなあ……。


はあ……でも確かにどうせ最後まで逃げられないし話した方がいいかもしれない。

一応あれは僕と魔王陣営とのファーストコンタクトだしね。


うん、一応……ね。












「で、どうにか許可はもらったんだろ。いつ出発するんだ?」


「もうちょっとだけレベルを上げてからにするよ。この周辺でもまだ少しレベルが上がるしね。ただ、ラドがついて来てくれるなら今すぐにでも出発できるけど‽」


「ついて行きてえのはやまやまだがお袋をほっておけねえからな」


「だろうねえ」


病気の母親の看病をしていると最初に聞いた時は顔に似合わねえ孝行息子だなどととっさに思ってしまったけどやっていることは善い行いなのでついて来てほしいと無理を言うわけにもいかない。


「スタブの『世界の傷』は危険だが、この5年でどうにか俺から逃げるぐらいはできるようになったんだ。通用しなくても死にゃしないさ」

「なんだよその上から目線。もうそんなにレベル差ないんだぞ」

「それなのに一回も勝ててねえだろ?」

悔しいことにその通りなのだ。

最近は全力を出せば相性的にいいところまで行けるんだけど最終的には基礎能力の差をうまく使われて負けるというのがパターン化されている。

ラドが自分の身体能力を使うのが上手いのもあるが所詮こういう世界は数値がものをいうのだ。


僕としては出発する前に一度は勝ってみたいと思うけど根本的な打開策であるレベルを追い抜くこともできない上、全力を出すこと自体が金食い虫なので見通しは立ってない。

全力を出さなければ一方的なゲームだ。


「んーそれにしても今日は魔物が見当たらねえなあ。こりゃ少し森の奥によるか?」

「賛成。森の奥でも今なら余裕だよ。今日中に一匹は倒しておきたい」

「なら行くか」


見通しの悪い森の中は奇襲される可能性が高まるから僕が最低限の身を守れると考えたのだろう。

5年前だったらこういう提案自体もされなかったのだろうなあと少し感慨深げに思いながらラドについて森の中へ向かった。





いつもなら森の深いところに行くといってもすぐに劇的な変化は起きない。

せいぜい木が密集して太陽が当たりにくくなるせいで少し昏くなるぐらいだ。


ただ、今日ばかりは違った。

しばらく奥へ向かって歩くと森の奥から黄金色の光が漏れていることに気が付く。


その光は色だけならむしろ温かみを感じてもよさそうなのになぜか心拍が自然に早まり頭の中で警鐘が鳴りだす。


『危機感知』とか『直観』とかそういうたぐいのスキルを持っているならともかく、持っていない僕がこんなにはっきり感じるのは少しおかしい。


「魔物の発生の瞬間じゃねえか。めずらしいな」

いったい何が起きているのだろうかと慌てていると疑問の答えはすぐに隣から帰ってきた。

「……そんなに珍しい物なの‽」

「俺も1回しか前に見たことはねえ。ただ前はこんなに大きくなかったなあ」

余裕ありげにのんびりとラドが答える。


実際にラドがこのあたりの魔物相手に苦戦しているところを見たことはないから本当に余裕なのかもしれない。

ただ、そんなラドを見て安心していいような状況なのになぜか頭の中で警鐘が鳴りやまない。


いい加減に頭が痛くなって声を上げようとすると同時にごそごそうねるヌメヌメとした黒い塊を一つ残して消え去ったせいで声を上げるタイミングを失った。




「ありゃ見たことがねえ。ドロップが楽しみだな」

警鐘が鳴り止んだ代わりに目の前の魔物に対して強い不快感を感じる僕と違って気楽そうにそう軽口をたたきながらラドが魔物を警戒しながら近づいていく。

この不快感をラドに警告した方がいいのだろうか。


『若い娘さんだな。でももう少し若い方がいいんだな』

うーん僕はもう15だけどもう少し若いとなると……何歳までロリコン認定なんだろうか。

いや、一応この世界ではもう結婚適齢期なのか……‽

そう考えながらも声の出所を探す。

誰かが隠れているならラドが反応しないとも思えないのだが。


『あと10歳若ければもっといいんだな』

それはもうロリコンじゃなくてペドの領域だろ。

うん?魔物がしゃべった!‽


「ラド。魔物がしゃべってる!!」


「あん、急にどうした。そんなのいるわけねえだろ。伝説上の魔人ならしゃべるかもしれねえが……というかこんなこと話している場合じゃねえ。お前のところまで攻撃が届かねえと思うが一応気を付けろよ」


ラドの反応を見るに、僕の聞き間違いだったのだろうか。


とりあえず油断なく弓を構えて矢をつがえて狙いをつけながらラドが黒い塊に近づいていくのを見守る。

やはり頭痛のせいの幻聴だったのだろうか。

それにしては嫌にはっきり聞こえたが。


『でも我慢するんだな。そこのかわいこちゃん。一緒にぬめぬめするんだな?』


番えていた矢を落とし、無言で背中を探って新しい矢を取り出して弓につがえる。

それも普通の矢じゃない。油をしみこませた布を天日で乾かした特製の火矢だ。

油は植物系の魔物から取った一級品、布も燃えやすいものを厳選した。

ふふ、あのヌメヌメよく燃えそうじゃないか。


「『ファイヤ』」

一言呪文を唱える。

ヘタだった魔法もさすがに何度も練習したらうまくもなる。


「飛んでけ七金貨!!」

言葉にありったけの怨念を込めて射る。

予想通りというべきか案の定というべきかヌメヌメの魔物は良く燃えた。


『熱い熱い。ツンデレなんだな?それともそれがお嬢さんの愛なんだな?』

燃えても言動には何も変化がなかったわけだけど。


しかし、これ以上の火力は今は手元にない。

「ラド!!何やってるの!!早くあれをやっつけてよ」


「いやでもあの魔物よく燃えてるし近づけねんだが。というか森の中で火矢使うな?」


「頼りにならないな!!」

どうやらあれをヤるのは僕自身の力が必要らしい。

背中の筒から矢を3本取り出す。火矢は再利用できないけどあれに刺さった矢を再利用する気もないので損失は同じだ。


「合計21金貨ならどうだ」


「おいやめろ!今はまだ大丈夫だけどこれ以上やると本当に森が燃える!」


ラドも大げさだなあそのぐらい考えてるよ。

焦ったようにこちらを向くラドを眺めながらそう考える。


「近くに川があるからそこで燃えるのが止まるよ。大丈夫一キロ四方ぐらいだから」


「ばっか、おめえ樵組合から罰金来るんだぞ。確かに見た目は気持ち悪いけどそんなに焦ることじゃねえだろ。落ち着け、な?」


「罰金なら僕が払うから」

言葉では聞かないと見て、身をもって射線に割り込んでくるラドを避けるように回り込む。

それを見てラドがさらに射線を見切って割り込む。

割り込まれる、回り込む、割り込まれる、回り込む。


『つれないんだな。またお嬢さんに会いに来るんだな』


そんなどうでもいいイタチごっごの間にも黒い魔物はじりじり嫌なにおいを放ちながら燃え、最後にそんな言葉を残して邪悪は去った。


邪悪は去ったが僕たちはこの出来事を忘れてはいけない。

いや、逆に忘れたい。


だからでもないが、なぜか黒い魔物が消えた後現れなかったクリスタルに首をかしげるラドにも一つ言っておかなければなるまい。



「ねえラド」


「なんだミーア」


「僕明日街を出発することにしたから」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ