個別授業とちょっとした魔法
いわゆる幼少期はサクサク終わらせます。
10歳はなろう的には幼少期じゃなさそうですが。
ゲームとかのバランスが崩れるのって基本的に『何々の2倍』のとかそういう掛け算系の上昇が累積する時に発生するんだ。
たとえば2∔2は4で2×2も4だからと言って製作する時に倍々算を許すようなゲームはそれ前提でバランスを取っている初心者に厳しいゲームかクソゲーかの二択しかないと思うのは僕だけじゃないと思う。
急に話題を変えてどうしたかって‽
この世界はクソゲー認定してもいいんじゃないかなってことさ。
何しろその後の狩りでもポンポンレアドロップを吐き出し続けたんだ。
普通なら奇跡が必要なレベルの生まれをそうなるように選んだにしろちょっと想定外の特化をしただけでこのありさまだ。
あっ僕にとってはラッキーだったからいいけどね。クソゲー最高!!
うん、旅に出る準備に当てた五年の間で二番苦労したのがレアドロップの値崩れとかは本当に想定外だった。
そりゃ買取はずっと一定じゃないよ。
需要と供給の法則とか神の見えざる手とかでコントロールされているに決まってる。
おかげで動物系が値崩れしたらスライム系を、スライム系が値崩れしたら植物系を、植物系が値崩れしたら鉱物系のようにいろんな魔物を狩った。
途中からは値崩れを防ぐためにラドさんの給料を現物支給で済ませたり、捌ききれずに寄付したドロップ品をとりあえず放り込んでいた孤児院の倉庫が満タンになって受け取り拒否されたり、金額が逆転したせいであえて全力を出さないことで一段低いレアドロップを狙ったりしてた。
ばれないように捌くのも本当に大変だったよ。
そんなに苦労したのに二番目なのはなぜ‽という顔をしているね。
それは一番目を説明すれば分かってくれると思う。
確か時期は記憶が戻ってから二回目の夏。
きっかけはラドが付き合ってくれた訓練中の一言だったはずだ。
「ところで嬢ちゃんはなんで魔法を使わねんだ?嬢ちゃん妖精族系列の血も混ざってんだろう?適性がないわけはないと思うんだが」
模擬戦で余裕綽々と叩きのめされて寝っ転がるぼ……俺をラドは見下ろしながらいかにも不思議そうに聞いてきた。
うーん、どう答えればいいのだろうか。
「あー、確かに妖精族の『ケットシー』は魔法の適性が高いみたいだけど、妖精族の『ケットシー』と獣人族の『カーバンクル』の血が混ざるといいとこを打ち消しあうみたい」
おかげで俺の魔法適正は最低だ。
黒の神様の信仰を選ぶとデフォルトで付く神の祝福の一つ『ハーフの出生率上昇』の効果ついてなければ生まれる可能性はほぼない奇跡で、一回しかキャラを作れないというからほぼすべてのゲームに通用する固定値を上げて回数を増やすの鉄則にそって祝福で上昇した30%をそれぞれの種族スキルで倍々にすることで100%を突破。
ここまですることでようやく獣人幻想種と妖精貴種の混血が誕生するわけだ。
ただそれは別に種族の血が遠いことを解決するわけでもないのでペナルティとして能力値は確実にお互いの種族の悪いどころどりをすることになる。
あの時はゲームだと思っていて両方の種族スキルがほしかったから仕方なかった。
それに非推奨とか見ると嬉々として突っ込みたくなるのはゲーマーの性だ。
何だろうこの迷惑な性質。
「だから、戦闘に役にたつような魔法は覚えても使えないと思う」
これが異世界転生だとわかってたら絶対に魔法の適性を低くしなかったのに。
「ああそうなのか。でも全く使えないわけでもないんだろ?実際にはどのくらいなら使えそうだ?」
「たぶん下級ならいくつか発動できる程度。ただ、それでも能力値的に威力はそんなにでないかな」
才能がわかっているのは良し悪しだ。
努力しても人並みすらに至らないと分かるとやる気もなくなる。
「ミーアちゃん魔法を練習したがらないのはそういう理由かあ。でも、生活用のだけでもいいから覚えておくと便利よ?」
今度は隣でずっと訓練をニコニコ眺めてたシーアが口をはさむ。
「いや、なくても魔石をつかえれば困らないし、習ってる時間を戦士のレベル上げに費やした方が効率がいいし」
それに意味もない物を一々覚えるのがめんどくさいと心の中で付け加える。
魔法を封じることができて割ると効果を開放する魔石は高価だが手軽に買えるので作成するのに自分の時間を使わなくていいというメリットがある。
どんなゲームでも突き詰めていく最後の資源は時間だ。
「うーん、じゃあ、訓練の休憩中に私が教えれば解決だね。それに目くらましとかはったりとかにもつかえると思うから意味はあると思うよ」
両手をポンと叩きながら答えるシーア。
「それもそうだな。俺みたいに幻想種とかでもない純獣人族は魔法がまったく使えねえから少しでも使えるのはうらやましいぐらいだぜ。嬢ちゃんは弱いからやれることはやっとけ」
まるでおじさんのみたいなことを言うラド。
まるで心を読まれているかのような退路封じに続いて弱いという急所をグサッと貫く言葉たちに俺はうなずくしかなかった。
「さて、それではシーアの魔法教室の時間です」
「そのメガネどうしたの‽」
あまりにも自然につけていたから気が付くのが遅れた。
「シスターが『人に物を教えるときは眼鏡をかけるのが礼儀です』って言ってたからね」
俺はその言葉を聞いたことないんだけどと思いながらも大きな問題ではないのでうなずくにとどめる。
「まず、魔法は上級中級下級に分かれてるんだけどどうしてこう分かれているかわかるかな‽はい、ミーアさん」
「単一の行為を起こすのが下級で二つの別種類の下級魔法を同時に使うのが中級で、三つ同時に使うのが上級。これ以上の魔法もあるけど準備なしや個人では無理。同じ種類の魔法なら下級はいくつ同時に使っても中級、中級をいくつか同時に使うと上級」
理論とか分類とかは転生前のルールで確認済みだ。
「ぶう。教えがいがないなあ。じゃあなぜ上級は下級三つ分なのかな‽はい、ミーアさん」
「下級魔法の制御、保持は最低でも片手を使う。つまり上級は右手と左手で保持しながら口で呪文を唱えて起動することで発動しなきゃならない。僕には使えないから関係ないけど」
「正解~。じゃ……」
「学者のレベルボーナスの知力と魔法適正は別物で、知力はより複雑な魔術を簡単に効率よく使えるように助けてくれる能力値。その魔法がどの程度の威力を持っているかそもそも使えるかどうかを判断するのが魔法適正。ついでに火術士《フレイムマンサ―》などに代表される術士系と呼ばれているサブクラスは特定属性にだけ魔法適正を与えたりするもので、この種類のサブクラスなしで上級魔法を唱えられる種族はほとんどいない」
シーアの言葉に割り込んで予想する答えを言う。
「問題の先読みは禁止だよ」
「理論の方は完璧だと思う。それよりはやく実践から始めてよ」
隣でいびきをかいて寝ているラドを憎々しげに一目見る。
人ががんばっている横で気持ちよさそうに寝やがって、この分の給料引いてやろうか……。
知らずに気持ちが顔に出ていたのだろう。
それを見て、うーしかたがないなあと言いながらもシーアは袖をまくり上げ白い腕を露出させる。
「じゃあ今日は『ライト』を覚えてもらいまーす。害の少ない練習用魔法の定番でっす。では私のまねをしながら抑揚をつけて続けて唱えてください。ミーアちゃんは歌得意だったから問題ないよね? はい、せーの『ライト』」
そう歌うように唱えながらシーアは勢いをつけて指をぐるっと円を描くように振る。
するとだんだん指先に光が集まっていくように光りだす。
実はこの光をともす『ライト』の呪文を見たのは初めてじゃなく、何度かシスターや年長の子、それに神父様が使っているのを見たことがある。
もちろん試すのは今回が初めてだ。
「『ライト』」
指を回してみても案の定光はつかない。よく言うイメージの問題か‽
「『ライト』」
今度はさっきのシーアの後継を頭の中に浮かべながら唱える。
うん、まったく変化がない。
「『導き給え』『ライト』」
精神集中でパフォーマンスを上げて唱えなおす。今度こそとは思うも相変わらず指先に光は点かず。
「最初は成功しないよ。コツはね、何もないところから光を染み出させるように『力』を入れればいいの」
一つ頷いて指先に力を込めて空間を削って光を掬う気分で指を振る。
「『ライト』」
やっぱり変化がない。
「『ライト』『ライト』『ライト』『ライト』」
とりあえず数うち理論に頼ることにして続けざまに唱えても一度たりとも成功しない。
「力と言ってもその力じゃないよ。シスターが言うには不思議なパワーというか。どう考えてもあれじゃ説明足りないよね。でも目に見えない何かと言うしかないというかうーん」
ひとしきり唸った後にシーアがぽんと一つ手をたたく。
「今から言う通りにして」
「はい、シーア先生」
精神力とか説明に書いてあった気がするけど理解の外にある力は分からないからこそ理解の外にあるのだ。
シーア、もう頼れるのは君しかいない。
「目を閉じて自分の心臓の鼓動を感じて」
心拍を数えればいいのだろうか。目を閉じて集中すると耳の裏からだんだん心音が聞こえて来る。
「今度は体中を走る血の流れを意識して。波があるでしょ?」
確かに心音の音に合わせて体中を巡る血液に押しては引く波があることがわかる。
「じゃあ私がはいっと言ったら『ライト』って唱えてね。それまでは波にに意識を集中し続けて」
ほほう、さらなる集中が必要なのかな‽
ゆっくりリラックスして波を意識しながら心音を数える。
そういえば前世でもリラックスの方法に心音を数えるというのがあったな。
もしかしたら自分に没入するぐらい平常な心が必要なのかもしれないのかもしれないなと考えた。
そして、それは間違いだということがすぐにわかる。
急に感じる唇に湿りつつもあたたかく柔らかい感触とともに心拍が大幅に上昇し、どくどくと整っていた波が速くなったり遅くなったり勝手に暴れだす。意識していなくても頬が熱くなっていく。
「はいっ今」
「ラ『ライト』」
どうにか唱えた呪文と取りまとめていたイメージが『力』を奪って指先に集まっていく。
三秒程度だけだが確かに俺の指先は光を放った。
「ミーアちゃんやったね成功だよ!!あとは今の感覚を覚えて反復練習するだけだよ」
「うん。成功したのはうれしいんだ。シーアが純粋に協力してくれたのも素直にうれしい」
自分のことのように喜ぶシーアにたしかにまずは感謝はしなければなるまい。
話はそれからだ。
「ふふ、どうもありがとう」
シーアの天真爛漫な笑顔を見てついに我慢ができずに思わず全身に力が入り肩が震えだす。
「で、今な・に・を・し・た?」
まだ赤みが取れない顔と暴れたままの心臓を鎮めようとしながらどうにか言葉を絞り出す。
「何ってキスだけど」
問いに対する答えはなんでこんなことを聞くの‽という心の声が直接目を通して心に語り掛けかのような計算された首をかしげる動作とともに帰って来てとどめを刺した。
……今なんて言った‽
「はっ初めてだったんだぞ」
いや、何言ってるんだ。そこじゃないだろ。思っていたよりパニックになっているな。落ち着けー僕、落ち着けー。理性は感情の上に立つものだ。
うちの神殿では逆だけど。
「私もだけど‽」
追撃しなくていいよ。もうさっきの一発で死んでいるよ。今の一撃は死体蹴りだよ。
でもなんか逆に落ち着いたかも。
一周回って‽みたいな‽
「じっじじじゃどどどうして」
落ち着いたと感じたのはどうやら錯覚だったらしい。
「ミーアちゃんなら別にいっかなーって。それに役に立ったでしょ?」
シーアの顔に浮かぶのは純粋な好意しかなく、実際に役にたってしまったために反論の材料すらない状態だ。
つまり気持ちを割り切ることはできなくても黙り込む以外に俺に選択肢はない。
このどうしようもない気持ちはわざとらしく寝返りを打つラドの足を一発蹴り飛ばすことで晴らすことにした。
書いていた時は確か作者に甘い話は無理だということがわかった回でした。
あとうまく設定盛り込むの。