初戦闘とちょっとしたネタばらし
残酷な描写ありです
お気を付けください
驚いた?
これ賭けじゃないんだよね。
一番うまくやって千日手で引き分けかな。
あっ別に理由とかは考えなくていいよ。
分かるわけがないから。
しいて言うなら明確なずるはしていなくて、僕の種族に関わるようなことかな?
だから考えなくていいって……だってまだ情報全部言ってないもん。
ああ、怒らないで怒らないで。
あとでちゃんと説明するから。
でも、あの虎のお兄さん――あっ名前はラドレガさんであだ名はラドさん――も唖然としてたね。
でもひどいと思わないかい?
初手からいかさまを仕掛けてくるなんて。
僕が言えた事じゃないけどさ。
ちなみにシーアにすら負けてないって言ったけど彼女は1回目で実は賭けじゃないことは見破っているから本当に脱帽。
その1回が50往復の末の大激戦で決め手は俺の右手と左手のとっさの言い間違いというのはまあそんなに重要な要素じゃないと思う。
というか未だにシーアには心理戦形式の賭けで勝ちこしたためしがないんだけど。
ああ、ごめんごめん脱線しちゃった。
それで信用できる護衛を手に入れたその日に神官長様に引き合わせてどうにか説得して出発の許可をもらって近くで比較的に安全な狩場に向かって出発したのさ。
まあ、勇んで出発したのはいいけどすぐに夜になってね、どうにか近くの洞窟に潜り込んで今世での初野宿になってしまったわけだ。
食料は準備してたけど寝る用意は何も準備してなかったから春で良かったよ。
冬だったら凍え死んでいたね。
……ラドさんがだけど。
大目玉の後毛布を譲ってくれたからこれが噂のツンデレかと思った記憶がある。
それはともかく、実際の狩りは次の日の朝からになったってわけだ。
「ちびすけはどんなトリック使ったんだよ未だに聞いてないんだけど。魔法使ってねえのは確認済みだしよ」
「依頼主に向かってちびすけ呼ばわりしていいの‽」
少しだけ意地悪を言ってみる。
背はまだ伸びるだろうけどちびすけと言われることは別にうれしいわけではない。
「ぐぐ。お嬢様はどんなトリックをお使いになられやがったので‽」
「ちょっと引っかかりますが毛布の恩もあるし答えてあげましょう。端的にいうと私の片親はたぶんカーバンクルです」
たぶんじゃなくてこのキャラはそうデザインしたから確実にそうなんだけど。
「あの獣人系幻想種の‽」
「そう、あの富と名声をつかさどる獣人幻想種の」
ほらと前髪を掻きあげていつもは前髪で隠しているおでこにある黒く輝く小さな宝石を見せる。カーバンクル自体の数は少ないけど見る人が見ればカーバンクルの証だと分かるはずだ。
「おめ、さすがにそいつはずりーだろ」
「別に隠してないんだから受ける方が悪い」
賭け事師をマスターするぐらいなんだからこの理論も通じるはず。
だまされた方が悪いというのは万能の理論だ。
「握り込むのが小石とかにされたら負けてたかなあ」
価値のない小石だと察知できないから、さすがに一発目でイカサマされては意表を突かれて気が付かなかっただろう。
気が付かれなくて本当に良かった。
「そのまま乗った時点で負けか……っと気を付けろ。魔物のお出ましだ」
沿って歩いていた森から餌だと見定めたのかこちらに向かって近づいてくる狼一匹。
「僕がどうにかなりそうな敵‽」
「そのままじゃ無理かもしれねえな。ちっと待ってな」
そう言いながらラドが片手剣を握りしめながら狼に近づいていく。
そういえば彼が拳で戦うか身長ほどもあるような大剣で戦うような豪快なキャラをしているのに使っているのが片手剣だと知ったときは勝手に少しだけ残念だと思った。
本人曰く昔は大剣を使っていたが、護衛に取り回しやすい片手剣にジョブごと変えたらしい。つまり今の彼のクラスは戦士・賭け事師片手剣士ってことなのだろう。
「よっし、後ろ足の腱を切った。これで気を付ければいいだろう」
ラドさんの声にボーとしていた頭を覚醒させて狼の方を改めて見ると、後ろ足を引きずった狼がラドをにらみつけて唸っていた。
急いで、でも慌てずに背中の弓を外し狼に狙いをつける。
ラドに片手剣のことを言ったときに『お前はそんな武器よりは人形を手に持っている姿のほうが似合いそうだ』と言われたぐらいには様になってないようだがこれが一番安全にレベルを上げる方法なのだから仕方がない。
兵器は剣、槍、弓、銃、ミサイルと常により遠くから相手を倒すために進化してきたのだから、腰につけている剣を抜くのは敵に近づかれたときぐらいでいい。
人なのだから文明の利器に頼って当然である。
ただ、この世界は魔法があるせいか射程の長い武器を活用することをあまり考えていなさそうだ。
この弓も武器屋の隅でほこりをかぶっていた一品だし、そもそも銃なんてこの世界で生まれて以来見たこともない。
銃士というサブジョブは転生する前に見たことがあるから銃は存在するとは思うのだが少なくとも一般的なものではないらしい。
あっ矢が外れたか。もう一本矢を取り出してつがえる。
矢を指し示す先の狼は敵を目の前のラドと俺を交互ににらみつけながら唸るだけ。
ラドは肩をすくめながら狼が俺の方を向くたびに剣をちらつかせて自分の方に向き直らせている。
うん、これは一人で出歩かなくて正解だったかもしれない。
思っていたよりもこの世界の魔物は強かったらしい。
同じ勇者の仲間が心配だ。
それとも苦労しているのは俺だけなのだろうか。
おっ今度はちゃんと当たった。
ただ、残念ながら首筋を狙った矢が背中に刺さっていてダメージを与えられたか定かではない。
「えい、やあ、とう」
真面目に狙うのもめんどくさくなって下手な鉄砲もなんとやらの気分で続けて射た三連射は一発を除いて外れてしまったが、運のいいことに当たった一発がちゃんと首筋に刺さったらしく、狼がぐえっとのどから絞り出すような声を出した。
それを確認した瞬間にラドがさっと近づいたかと思うとか狼の首を撥ね飛ばしたことで、狼は瞬く間に黒い煙と化しこぶし大の透明なクリスタルを残して消え去った。
「おお。本当に死体が残らないんだなあ」
「魔物は五色の神に属さない世界のゆがみらしいからな。近くに寄れ、消える前にクリスタルを開放するぞ」
「あ、ちょっと待って。僕が解放したい」
というより絶対俺が解放した方がいい物が出る。
出なかったら詐欺の罪で神様を訴えてやる。
「ああ、確かにそっちの方がいいかもなあ。じゃあ、早く来い。富と名声をもたらすと噂されている同胞のお手並み拝見だ」
クリスタルに伸ばす手を引っ込めて手招きするラドに応えながらクリスタルに走り寄る。
近くで見ると実は透明の中にもいろんな色が浮かんでは消えていくのが見える。
確か『魔物は世界のゆがみを取り込んだ生き物』で、クリスタルは生き物のたどる『本来の可能性の結晶』なんだっけ。
そろりと両腕で胸に抱くようにクリスタルを持つ。初挑戦のせいか少し手が震えているのを感じるが目を閉じて深呼吸をする。
「『導き給え』『見守り給え』」
そして、祈る者のスキルを発動させる。
祈る者は信仰によって効果が変わるクラスだ。
自動で効果が発揮するパッシブスキルだけではなく、それはアクティブスキルでもある。
黒の神様を信仰する者の場合、この二つは精神集中と幸運上昇のスキルとなる。
「『ハイリスクハイリターン』」
続けて賭け事師のスキル。
これは一時的に最良の結果と最悪の結果が起こりやすくなるスキル。
このままだとメリットとデメリットの釣り合っているスキルだが俺のもう片方の親のケットシーの持つ不運を幸運に変えるパッシブスキル『悪運逆転』と組み合わせるとあら不思議、ただ幸運を招き寄せるだけのスキルに早変わり。
では、ここでいう幸運とは何なのか。
そもそも能力値に存在しない幸運という値は確率によってあらわされる。
そして、幸運を操作するスキルはすべて不確定の可能性を自分の望むように操作するスキルらしいのだ。
最初は使い道がわからなかったがルールを読んでいるうちにクリスタルは生物のたどる本来の可能性の結晶らしく、ならば操作することができるのではないかということに気が付いたのがこのキャラクター……いやこの身体を作ったきっかけだ。
実際に俺の予想を裏付けるかのようにまぶた越しにすら感じ取れる光を放ちながら手の中のクリスタルの価値がだんだん上昇していくのがカーバンクルの感覚としてわかる。
光とともにこのクリスタルを作り出した原因、つまりこの魔物にダメージを与えたすべての人にに経験値をひとしきりふりまいた後、一際大きな光を放ったかと思うと急に手の中にずっしりとした重みが現れた。
「おいおいまじかよ……」
ラドの驚きの声にまぶたを開ける。手に持っているものに視線を送ると抱いていたクリスタルの代わりに淡い白い光を放つ白い毛皮のマントがあった。
はて、先ほどの狼はふつうの灰色だったから俺が哀れにもマントにされる可能性をひいたとしても、灰色のマントじゃなかろうか。
「白狼のマントじゃねえか。しかも光っているということは何か特殊な付加もついているってことだろ。おいおいこんな雑魚からこういうアイテムを引くとか、カーバンクルってのはそんなにすごい種族なのかよ」
「へえ、このマントそんなにすごいの‽」
「おう、めったに見れねえものなんだ。そもそも普通の狼の魔物から白い毛皮が見つかることさえまれなのに、加工品かつ付加付なのはどんだけ低い可能性を引いたんだ」
この驚きを見られただけでちょっとだけ満足。たとえゲームじゃなくても、むしろ現実だからこそ人間が虚栄心を満たそうとするのは当然の節理らしい。
「富と名誉をもたらすっていうのは名誉はともかく富の部分は騙りじゃなかったってところだね」
実際『富と名誉』っていう種族スキルになってるし、虚栄心を満たすものを名誉と読み替えればちゃんと名誉もついて来ている。
「これいくらぐらいするかな‽」
「白狼のマントは確か金貨10枚前後だが、それが付加付となるとついている付加にもよるが金貨50枚は下らねえだろう」
驚きがまだ冷めていないせいで賭け事師スキルの『ポーカーフェース』を使うことすら忘れているのか騙す必要を感じていないのか分からないが顔の表情から嘘を言っていないのがわかる。
「じゃあ、これでラドさんを10日分雇うよ。でも、もし追加で僕専属になってくれたらボーナスとしてこれからのドロップ半分渡すけど……どう‽」
両手の手のひらをひらひらさせながら提案する。
「交渉てなあもうちょいすり合わせていくもんだと思ってたが最初から全力だな嬢ちゃん」
「ラドさん信用できそうだし、僕の目的はレベルを上げることだしね。その代り秘密は守ってもらうよ」
そこだけは譲れない。何しろ命に係わる。
「秘密が漏れたら僕はさらわれちゃうかもしれない。そうなったらラドさんの信頼も失墜だ」
「俺が目先の金のためにそれをやるとは思わねえのか‽むしろ俺が攫えば手間も省ける」
今度はちゃんと『ポーカーフェース』を発動して内心を悟らせないようにしながらさりげなく手に持った剣をちらつかせる念の入れよう。
ただまあ実はそこは心配してない。
「金の卵を産む牝鶏を殺しても金の卵は手に入らない。その位のことはわかると信じているだけだよ」
ギャンブルの腕がいいということは運がいいと言うことじゃない。
損得勘定がきちんとできているということだ。
「だから牝鶏に餌をやる係りをやれってか?」
「簡単な仕事でしょ‽」
護衛の斡旋屋でもやったように胸を張って答える。
たぶんそうとう生意気そうなドヤ顔をしていた俺に対してラドはやれやれといいながら頭をかいた後にしっかりと一度頷いた。
もうお気づきかもしれませんが本小説では後出しが頻出します
うん可能な限り自然に後出しできるよう頑張るからさ
一度深呼吸してその手に持ってる石を降ろしてから話し合おうか
な?