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邂逅

天高く馬肥ゆる秋、俺は村を救うための生贄になることになった。


「村のため生贄になってくれねぇか!?」

「畑の状況は知ってるだろう?年貢はギリギリ納められる。でもこのままだとこの村は冬を越せねーんだ」

「別に本当に生贄になって喰われろとは言わねぇ!生贄を捧げる相手もいねぇからな。形だけだ。ただ…あー…オメーん家の雨乞いよりも効くんじゃねぇかと思ってよ」

「まぁ、たしかにあんなにお祈りしているのにまったく効いてませんからね」

「井戸や川の水も涸れてきた。ほんとこのままだとヤバイんだ。今のオレたちは藁にもすがる思いで、いもしねぇ神にお願いするしかねぇんだよ」

「この村の状況はわかっていますし…わかりました」

「ダメだ!」

「父さん」

「紗貴ノ信お前もなにバカなことを言っているんだ!?お狐様の生贄になるなど…。それにお狐様はおられる!だからこうして毎日お祈りを―」

「まったく効いてねーじゃねぇか」

「効果がないんじゃいねーのとかわんねぇぞ」

「だからと言ってなぜ紗貴ノ信が…」

「神に身をささげているんだろう!?ここで生贄にならなくてどうする!」


 全くもって正論だった。

 結果、我が神社に古くから祀られている稲荷神に俺は生贄として奉げられることとなった。


 生贄になることになった俺は、たぶんこの村で一番きれいな着物を着せられ、顔が見えにくいよう狐の耳を模したずきんをかぶせられご丁寧に口に紅までひかれている。

 そう俺は今、女の格好をしている。

 断じて趣味ではない。

 生贄として奉げるのならば普通は女子だろうと、あいにく俺は男なので格好だけでも女子にしようというなんとも頭の悪い考えだった。

 「もしバレても神社でお勤めをしているお前なら大丈夫だろう」とそんな冗談付きで。

 生贄となる俺もそれで皆の気がまぎれるのだったら―と女の格好をして形だけの生贄の儀式をした。


 日が落ち始めたころ俺と油揚げを輿に乗せ、輿を先導するように松明を持った男たちが祠を目指し歩いた。

 稲荷神が祀られている祠はふもとにある神社よりもさらに上った山の中腹にある。

 階段を登り切ると祠と昼間に作った祭壇が見えた。

 祠の両脇にある石灯篭に明かりがともされ辺りが明るくなる。

 輿が降ろされると俺は祭壇へと移動した。

 虫の音を聞きながら祝詞を唱える。

 祝詞を唱え持ってきていた油揚げをお供えすれば形だけの生贄の儀式は無事終わるはずだった。


 虫の奏でる音が突然止んだ―と思ったら一緒に儀式に参加していた村の男たちが変な声をあげた。

 ガランという音を立てて松明を手から落とすと、急いで走り去る足音が聞こえた。

 頭にかぶっているずきんのおかげで足元しか見えないため手でずきんを押し上げる。

 俺は驚いた。目の前にある祠に珍妙な格好をした男が座っていたのだ。

 男の頭には三角の耳が生えており、背後にはしっぽらしきものが三本揺れている。

 祠の上から下りた男は祭壇の上に座る俺の目の前まで歩み寄ると俺のアゴに手を添えた。

 喰われる。そう思った。

 しかしこれで村が―あのヒトが救えるならいいかと思っていたらバレたのだ。


『お前男だろう』


 と。

 俺は自分の手元しか見られなかった。

 せめて性別など気にしない神だったらよかった。

 女子だと偽り神を謀ったことで村の人達を助けられないよりもひどいことになるんじゃないかと恐れた。

 神からの次の言葉を待っていると神はいきなり笑いだした。


「ぶははは!お前…!そのなりで俺に女子だと思わせようとしてたのか?」

「っ…………」

「相手狐だぞ?くく…匂いで分かるっつー…はっダメだ。腹いてー!」

「………」

「はははははははははは!!」

「……いっつまで笑ってんだよ!俺だってやりたくなかったよこんな格好!」

「なんだ?ふはっ…お前の趣味ではないのか?」

「当たり前だ!いつまでも笑ってんじゃねぇよ」

「はー…ひっさしぶりにこんなに笑った。にしてもあの村も変なやつらだなー女子がおらんわけでもないのに男のお前にっ…ふっ…女の格好をっさせ…ぶはー!やっぱダメだ。止まんねぇわ!」

「うっせーな!さっさとやめろよ!」

「ひー…変な村ぁー」


 そういって男は小一時間笑い続けた。

 これが俺、紗貴ノ信と目の前で笑っている男、クウリとの出会いだった。


時代的に色々と合っていない部分も出てきますが好き勝手に書いていきたいと思います。

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