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は~い、今私は実家から遠く離れた小さな町H市におります。
旅行ではありません。地元を離れてH市に移り住んでいるのです。念願の一人暮らしです。
私の実家からこのH市に行くには交通の便がとっても悪く。車を飛ばしても五時間、電車でも乗り継ぎやなんかで、やっぱりそれぐらいかかるという地図上では近いのに実際は遠いという、ちょっと不便な所です。
だからここに住み始めて一年が経とうとしているのに、帰省は一度もしていません。というか時間や旅費その他諸々の事情で出来ないんです。
でも、いいんです。それが狙いだったから…
そう、これはいわゆる遠距離恋愛というやつです。
どんなラブラブ、アツアツカップルでも、いつの間にか自然消滅してしまうという恐ろしい状態です。フフフ…
親友の言葉から天啓を受けた私はすぐさま行動に移りました。
地元から遠く離れた所に就職しようと。しかし両親、特に母親の猛反対に会いました。
そこで私は少し目線を変えて、両親を説得する事にしました。
実は私、小さい頃からイルカに乗るのが夢だったんです。
いきなり何言ってんだ、阿呆か! と思われるかもしれませんが、子供の頃シーワールドでイルカショーを見た時から憧れてたんです。水族館の飼育員になれば、その夢が叶うんだと知り大学で海洋生物の勉強をしてました。でも、残念ながら水族館の求人が無かったんですよね。日本全国・津々浦々探せばあったかもしれないけど、そこまでする必要はないんです。だって、私の目的は別のところにあるんだもの。
そして、両親にこう訴えたんです。「私、やっぱりイルカの飼育員になりたいの。でも、今年はどこも求人が無くて… でも、諦めきれない。だから院に行かせて。二年後再チャレンジしたい。それでダメなら諦めるから」
「何言ってるの結花。うちに大学院まで行かせる余裕なんてないわよ。来年は洸ちゃん(私の弟です。洸太といいます)が大学に行くのよ。二人分の学費なんてとても無理よ」
思ったとおりの反応が返ってきて、私は心の中でにんまりしました。
「分かってる。だから私、いろいろ調べたの。そうしたら、ほら、見て」私はとある県立大のパンフレットを広げて見せた。「ここの海洋生物資源学科には研究センターがあって、学生研究員ていう制度があるの」
それまで何も言わなかった父親がそのパンフレットに興味を持ってくれたようで、手にとって読み始めました。シメシメ…
「自分の学費を研究センターで仕事して賄うの。つまり、学費免除で勉強が出来るのよ!」
“学費免除”この言葉で母親の心も動いたみたい。なんとか両親を説得し、ギリギリで願書を提出し試験を受けて、見事合格を果たしたのだ。
えっ、彼氏様ですか? …もちろん事後報告です。両親に話すより気分的に楽でした。だって、説得に失敗したって別にかまわないもの。
ていうか、これが理由で別れる事になったらそれはそれでオッケーてことでしょ!
えっ?言ってる事とやってる事が違うって?彼氏様から振ってもらう為にアレコレやってたはずなのに、それでいいのかって?
だって、これなら正当な理由があるし。一方的に別れを言い出すわけじゃない。だから周りだって、白い目で見たりしないじゃない。多分。
卒業後H市の大学院に行く事にしたと打ち明けたとき、彼氏様は暫し呆然としていた。
それから想像していた反応が返ってきた。私は両親に語ったのと大体同じ様な事を言って、最後にこう付け加えたのだ「私の夢を応援してくれないの?」って。
それで彼氏様はおれた。
その代わり院を卒業したら必ず戻ってくる事。それから、彼氏様との結婚を本気で考える事を約束させられた。ついに、はっきりプロポーズされちゃったよ。
H市に行く前に婚約だけでもって、言われたのをなんとか振り切って、私は新天地へ下り立った。そして私は私の求めていた生活を手に入れたってわけ。
ありがとう、神様。ありがとう学費免除制度!
すみません。あまりに嬉しすぎて彼氏様と今どうなっているか飛ばしてましたね。
ここに越してきた頃はそりゃもう凄かったですよメールとラブコールの回数が。内容も恥ずかしいくらい、めちゃ甘々だったしね。
だけど社会人一年生になった彼氏様。やっぱり慣れない仕事を覚えるため日々忙しくしているみたいで、一年経った今ではほとんど無くなった。
順調に自然消滅の道を進んでいます。
さあ、明日から院生二年目のスタートです。今年は必ず就職を決めなければいけません。あんなこと言った手前、実家からそう遠くない水族館を見つけないとなぁ。
まあ、なんとかなるでしょ。
最後まで読んでいただき、ありがとうございます。
今回の話の中で学生研究員とか学費免除制度とか書きましたが、これは作者の創作です。実際に有るか分かりません。あしからずご了承くださいませ。