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「まったく、何やってんだか」
ただ今私は親友から説教されております。
あの、“いろんな男性に目移りする浮気性な女を演じる作戦”が失敗に終わり、もう私一人では解決策を見つけられそうになくなったので、頼りになる親友、大野智美に救いの手を差し伸べてもらおうと思ったのです。なので、彼女の好きな豆大福を持参し彼女のお部屋にお邪魔した。
智美と私は保育園からの付き合いだ。
好きなものから嫌いなものまで知り尽くし、互いの黒歴史まで知っている。
何から何まで心置きなく相談できる唯一無二の存在なのである。
智美とは高校まで同じ学校だったけど大学は別々になった。私は海洋生物を学ぶためK大に進んだのだが、彼女は「女が自立する為には手に職をつけなきゃダメ」と専門学校へ進んだ。そこでみっちり勉強し、国家資格を取得し、就職した。
そう、一足先に社会人に、大人の仲間入りをしているのだ。
彼女には、彼氏様との格差恋愛で起こる悩みのほとんどを打ち明けている。
今日初めて“振られよう計画”の事と今まで彼氏様におこなった主な作戦の事を包み隠さず話したのだ。
智美さん、顔怖いです。
それと先程から語られる言葉の数々、私の心に突き刺さります。
分かってます。みんな私が悪いんです。
「普通、大好きな彼氏に結婚しようと言われたら喜ぶもんじゃないの?」
「だってサト。私と貴文さんじゃ身分違いじゃない!」
「なんじゃそれ!!」
智美の怒りが沸点を超えた。私は恐ろしさのあまり半泣き状態だ。
「貴文さん社長の息子だよ。それに親戚には代議士とか弁護士とか凄い人がいっぱいいてさぁ。そんな所にお嫁に行ったら苦労するの目に見えてるじゃん」
「そんな事愛する旦那様と一緒なら乗り越えられるんじゃないの。ていうか乗り越えてみせろよ、このリア充!」
「だって、だって…」
いかん、涙があふれてきた。私は鼻をススリながら反論した。
「私、彼にふさわしいいい女目指して今まで頑張ってきたけど、正直いっぱいいっぱいなんだ。この先これを続けていったら…」
言葉を濁す私に、智美が!」睨み付けてきた。
「貴文さんの事を嫌いになりそうだもの…」
そう、私がこんなに努力しなきゃいけないのは、彼氏様と彼氏様を取り巻く全てが立派過ぎるから。
追いつこうと頑張っているうちに、苦労の源である彼氏様の事を逆恨みするかもしれない。今はこんなに好きなのに、その気持ちが憎悪に変わってしまうかもしれないのだ。
だめだ。涙が止まらない。
私の心情を察したのか智美はお怒りモードを解除し「まあ、確かに大変かもね」と言いながらティッシュの箱を渡してくれた。
私が落ち着くのを見計らってから、智美が口を開いた。
「それでどうすんの。本当に別れちゃっていいの?後悔するんじゃないの?」
「後悔…すると思う」
うん。それははっきり言える。
どんな別れ方をしたって絶対に後悔する。多分、身体中の水分が涙になってしまうくらい泣くと思う。
「だったら彼に、あんたの思っていることみんな言っちゃいなよ。今までどんだけ無理して合わせてきたのかとか、結婚したいけど不安だらけで踏み切れないとかさ」
智美の言う事はもっともだ。
相手を嫌いになったわけじゃなく、多分苦労するからと別れを決めるなんて。まったく馬鹿げてる。
逆の立場だったら、きっと私も智美と同じ様な事を言って励ますだろう。
だけど、私はもう、結論を出してるのだ。この恋は終わりにすると。
何も言わない私に智美は少しあきれた様に溜め息をつくと、「これが夫婦だったら、別れる前に別居とかして距離を置くんだろうけどねぇ。あっ、そうだ。暫く会わない事にして、もうちょっと冷静に今後のこと__」えっ、智美。今何て言った。
“距離を置く” 距離、遠く離れる。私はまるで天啓を受けたかのように、パッと閃いた。
そうだこの手があった!
この後も何とか考え直すようアドバイスする智美の話を聞き流しつつ、私は次の作戦を実行すべく策を練りだした。