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「ただいま戻りました」
「おかえり貴文、結花さん」
「おかえりなさい。疲れたでしょう、さあさ、早くお入りなさい」
家というよりお屋敷。玄関というより、エントランスホールと言ったほうがしっくりくるよね、ここは。
何度来ても広さと豪華さに、圧倒されてしまう。でも、いつか慣れるかな。だって今日からここで暮らすんだものね。
二度目のプロポーズを受けてから、私達の結婚準備は超特急で進められた。
いろいろ面倒だったし、妥協することがいっぱいあったけど、天高く馬肥ゆる晴れの日に、私は幸せな花嫁になった。
結婚式は西園寺ゆかりの神社で執り行われた。
何とビックリ。十二単に垂髪ですよ。彼氏様と並んだら、まるっきりお雛様でした。
重くて、重くて、とにかく重くて。みんなにキレイだって言われたけど、早く脱ぎたいって、そればっかり思ってた。
式が終わって直ぐ、役所に届けを出して、私は西園寺結花になった。
披露宴は翌日。
私は純白のウエディングドレスに身を包んだ。
これだけは譲りませんでした。花嫁といったら、やっぱドレスだよね。
披露宴はこれまたビックリ、招待客が多すぎて、三回に分けて行なわれた。午前中、午後、夕方って感じでね。
その日は一日ずっとドレスを着てて、とても緊張した。この日の為に誂えたドレス。最高級の生地とレースを使って私の為にデザインされたものだもの、汚すわけにはいかないじゃない。
その大変な二日間を終えた後、地中海で十日間のハネムーンを過ごし、本日ただいま帰ってきたのです。
彼氏様… いや、これからは旦那様だよね。
旦那様と二人きりのバカンス。とても楽しかった。観光、レジャー、ショッピングに美味しい食事。もう最高! ほんと、帰りたくなかったよ。
旦那様と私は別居するつもりで家を探してたんだけど、御両親から同居を勧められ(というかなかば命令)断りきれなかったのである。
せめて2~3年、いや1年でいいから二人きりで新婚生活を楽しみたかったな。
でもここは御両親、とくにお義母様の心証をよくするためにも、従わなければね…
挨拶をすませ、リビングで土産話をすることになりました。お手伝いさんが入れてくれた紅茶、美味しいです。あちらで手に入れたお土産のクッキーと一緒にいただいてます。
えっ、そうですお手伝いさんがいるんですよ。もう、本当に住む世界が違います。
婚約してから結婚するまでの間、式の準備をしながら、花嫁修業をしていた。というより、それは続行中だ。
先生はもちろんお義母様。なのでこの数ヶ月、お義母様と一緒に行動することが多かった。
お義母様は見た目は淑やかな貴婦人なんだけど、性格は明るく行動的。思っていたより付き合いやすくて、今のところ良好な関係を築いてます。このまま仲良くできたらいいなぁ。
「__というわけで、貴文を後継者に決めたようだ」
「待ってください、お父さん。その話しは 「まあ、あなた。それは本当ですの? お兄様、ついに決断なさったのね」…」
あれ、なんだか話題が知らないうちに変わったようです。いったい何の話をしているのでしょうか。
「よかったわね貴文さん。おめでとう。それならお祝いをしなくてわ」
「だから待ってください、お父さん、お母さん。ぼ「まあまて、まだ正式に発表されたわけではない。だが貴文も帰って来たことだし、じきに呼び出しがあるだろう」…」
「あら何を着ていこうかしら。本家へ行くのは久し振りだわ。そうそうお土産の手配をしなくてわ」
なんか二人で盛り上がって、旦那様が一生懸命話そうとしているのに、まるっと無視してます。
よく分からないけど、とてもいい知らせがあるようです。すみません、トリップしてて聞いてなかった私が悪いんですけど、そろそろ私も会話にまぜてほしいです。
「ああ、ごめんなさい。結花さんには、よく分からないお話だったわね」
よくじゃなく、全然わかってません。最初から教えてください。今度は聞き逃さないよう、集中しますので。
「西園寺の本家が私の実家だと、以前お話いたしましたわね」
はいお義母様。家系図を広げて説明していただきました。
古くから続く西園寺家。長い間に枝分かれして、今現在、本家と4つの分家からなっている。お義母様は本家のご出身で、東の西園寺と呼ばれる分家のお義父様の所へ嫁がれたんですよね。
「今、本家の当主は私の兄が継いでいるのだけど、お兄様にはお子様がいらっしゃらないのよ」
… なんだか嫌な予感がします。
「以前から貴文さんを養子に迎えて、後継者にというお話しがあってね。まあいろいろ口を出すお方々がいらっしゃって、なかなか前へすすまなかったのだけれども、とうとう…」
本家に養子。本家に養子ってことは、貴文さんがゆくゆくは西園寺の当主になるってことですか?
御本家には挨拶のため、一度訪問しましたが、とてつもなく立派な建物でした。
あれは家ではありません。屋敷なんて生温い。もはや城。でも、純日本風の家屋なんだよね。それに庭じゃなくて、庭園って感じだった。敷地内に森があって時々狩をするとか言ってたっけ。恐そうな猟犬が何頭もいてさ… いけない、またトリップしかけてる。
「お母さん、僕はその話は断っ 「貴文さん“当主の決めたことに従う” これは西園寺の掟ですよ。あなたに異を唱えることなど、許されません」」
うわっ。お義母様すごいです。いつもと雰囲気違ってます。これは御本家出身の威厳ってやつですか。
「時期当主にふさわしいと、認めてくださったのだ、自信を持って受ければいいだろう。それともなにか、受けられない理由があるのか? あるのならはっきり言いなさい」
お義父様もすごいです。威圧感はんぱないです。お二人からあふれるオーラで押しつぶされそうです。旦那様もこのオーラに負けてしまったのか、言葉が止まっています。
「それは… その理由は…」
そう言いながら旦那様がチラリと私を見ました。
ああ、理由って私なんですね。