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この恋、終わらせます。  作者: 紫野 月
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 スマホの通話を切りました。

 息をするのが苦しいです。なんだか心臓もドキドキしています。

 ああ、私の脳内が暴走していくのが分かります。

“エマージェンシー、エマージェンシー! 総員直ちに配置につけ!!” この前の日曜の朝、暇つぶしで見ていた戦隊もののセリフが、頭の中でグルグル回っています。

「落ち着け私。まだだ、まだ大丈夫。とりあえず風呂へ行こう」



 お気に入りのアロマオイルを入れて、ゆっくり湯船に浸かりました。

 すうっと体から力が抜けていく感じがします。いつもならここで鼻歌の一つも出るところですが、先程の電話のせいで、そんな気分にはなれません。


「まいったなぁ」

 久し振りに、本当に久し振りに彼氏様から電話がきました。

 ここ暫くはメールも無かったのに。作戦完了か! と思っていたのに。どうやら“遠距離自然消滅作戦”は失敗に終わったようだ。

  二年に亘る長い戦いだったのに負けてしまった。いや、まだいける。このまま遠距離を続ければって無理だよね。今更、博士課程に進めないし、そんなお金もない。ここに居たくても就職先が無いしなぁ。




『久し振りだね。元気にしてる? 風邪なんてひいてない? 長い間メールも電話もできなくてゴメン。仕事がいろいろ大変でね。結局、正月休みを利用してそちらに行く約束も流れてしまったし… おこってる?』

  穏やかな語り口、私の心に響く甘い声。電話越しなのに体が熱くなっていく気がした。

『ユカのことだからもう修論は提出したのかな。三月には院了だね。今から待ち遠しいよ』

 どうしよう。彼氏様の声を聞いてるだけで、幸せな気持ちになってくる。

『いつ頃こちらに帰ってくるの? 帰ってきたらすぐに婚約を発表しようね。あっ、その前に御両親に挨拶に伺わなくては。いつがいいかな、忙しくなるね』


 えっ、ちょっと待って彼氏様。私プロポ-ズの返事、まだしてませんよね。

 二年前のあの日、前向きに考える、みたいなコト言ってお茶を濁しましたよね。

 彼氏様には、私が断るという思考はないってことですか。


 お願いだから、まって! 

 なんでもう式の日取りとか、式場の事とか考えちゃってるんですかぁ。

 25才になる前に結婚しなくちゃって、そんな昭和の時代じゃあないんです。私、まだ焦ってませんよ。

 いい加減、私の話を聞いてぇーー!


『愛してるよユカ。本当は今すぐにでも会いに行きたい。でも、あと二ヶ月の辛抱だしね。早く帰ってきてね。待ってるよユカ』

 こうして私のHPは0になりました。至福のバスタイムを過ごしても、回復の兆しがありません。とりあえず次の回復術を試します。問題先送りで寝ます!




 私はあれからずっと、悩みに悩んでおります。

 何を迷う事がある、結婚する気がないのならはっきり断るべきだろう。そうだよね、確かにそのとおり。分かってはいるんだけどね… 

 あーあなんで自然消滅しなかったんだろう。

 だけど嬉しい気持ちもあるのよね。だって、二年もの間遠く離れていたのに、私の帰りを待っててくれたんだよ。

 彼氏様のことだからきっと何人もの肉食美女に言い寄られたに違いない。それなのに、私の事をずっと想っててくれたんだもの! 女心って複雑よね…って、私ってなんて醜いんだ。


  彼氏様を騙して二年間も遠距離恋愛させて、自然消滅しなかったと残念がってるくせに、想い続けてもらって嬉しいだなんて。

  本当、我ながら嫌な女だ。

  とんでもない悪女だ。やっぱりこんな私は、彼氏様にふさわしくないよね。覚悟を決めて、全て彼氏様に告白して終わりにしよう。

  詰られても罵られても仕方ないよね。それだけの事をしたんだもの、自業自得だ。


『まったく、なにやってんだか』

 そうだねサト。サトの言うとおりにしとけばよかった。

 あの時に自分の気持ちを、素直に打ち明けてしまえば、こんな後味の悪い別れ方をしなくてすんだのに。

  きっと最低な女と軽蔑されてしまう。

 でもこれ以上、彼氏様を振り回さないよう、決着をつけなくてはね。それが今の私にできる、精一杯の誠意だから。

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