新メンバー3 技能職姉弟
自称天才人形士の姉レムとその弟で苦労人魂魄士のノット。
この二人は以前PK騒動のときに同じ討伐メンバーだった人達だ。
しかし何故この二人がライツの小屋の裏手から姿を現した。なぜここに?
「話は聞かせてもらったわよ。ニードルタイガー討伐をするようね」
「すみません、聞いてました」
突然現れた二人に周りのメンバーは戸惑っているようだ。
まあ、この二人を知っているのは俺とアンズの二人だけだから仕方ないかな。
「それで、あんたらが何者か知らないが今の状況の打開策が有るって言うのか?」
「ええ、そうよ。この天才人形士のレムが!何とかしてあげるわ。その方法はね――」
「はい、ストップ姉さん。それはまだ話さないほうが良いよ。まだこの人たちが協力してくれるとは分からないんだから」
「あら、残念」
レトの問いかけにレムが方法をしゃべろうとしていたところをノットが止める。
この状況での打開策はスイも知らない未知の方法の可能性はある、それは確かにに言いふらさないほうが良いという考え方は普通だ。
「その方法とやらが何か知らないけど、本当にニードルタイガーを倒せる方法なのか?」
「そうですね、可能性が有るとだけ言っておきます」
「ノット、あなたの話はいつもいつも回りくどいのよ!ここはずばっと言わせてもらうわ。私たちの実験に付き合いなさい!この実験を行う為に小屋の後ろで討伐隊が来ないかスタンバっていたのですから!」
実験?どういう事だろうか?
「迷っている時間はないんじゃないかしら。さあずばっとニードルタイガーを倒しに行くわよ!」
「姉さんそのためにはこの人達のチームに入らなきゃいけないんだよ。そこのところ分かっている?」
「待ちなさい。まだ貴方たちのその実験とかに協力するとは了承していないのだけれど」
話を進めようとしてくる姉弟に対してミニッツは待ったをかける。
確かに強引で急な話でしかも方法は秘匿 怪しむなと言う方が無理な話だよな。
それでも――。
「いや、この話は受けよう」
「本気なの?」
「現状、打つ手なしの八方ふさがりだからね。この際だから藁にも縋ってみようかと思う」
「あら失礼ね。超合金の藁と言ってほしいわね」
藁なのには変わりないのか。てか超合金の藁ってなんだよ。
「確実じゃないとは言え可能性があるなら掛けてみるべきじゃないかな。なによりそれ以外に方法は無さそうだしね」
そもそもこの人数でニードルタイガーに挑めってクエストの無茶加減だ。まともな方法じゃクリア出来ないと考えるべきだよな。
「二人にはこちらからお願いしたい。このクエストをクリアするのに協力してほしい」
「ふふん、よくわかっているじゃない」
「はい、こちらからもお願いします」
交渉?成立だな。
「まったくあなたと言う人は・・・はい、帰還樹よ。早く戻ってらっしゃい」
街へ戻るアイテムをミニッツから渡される。
早速戻るか。
「さあ、突撃よー」
「姉さん待って、まずは街に戻らなきゃ」
・・・お願いしたのは失敗だったかな。
PT用の帰還アイテム「帰還樹」を使い俺とレムノット姉弟と共に街へ到着。商都の勇士像の前に出現する。
それとほぼ同時に一通のメールが届く、差出人と内容をすぐさま確認。
これなら途中で拾っていけるな。
三人でギルドに向かって走る、その途中で見知った顔を見つける。
「あ、お兄さんこっち――ぐぇ!」
「キア急げ、ギルドまで走るぞ!」
「ちょ、ちょっとお兄さん。引っ張んないで!速いって!」
途中でキアを(物理的に)掴まえてギルドへ走る。
走る理由は単純に時間が無いからだ。
この二人の方法が未知であるならばどれだけ時間が掛かるかは分からない。それなら急ぐだけだ。
ギルドに到着したらすぐさまカウンターに向かい3人のチーム加入申請を行う。
これで3人がチームに加入した。まあ二人は仮なんだけどね。
「ちょっとお兄さんなんで急いでいるの、それとこのふたりは誰?」
「質問は向こうに着いたら受け付ける。次はタイガの森までダッシュだ!」
「なんで!私狩りの準備してないよ!」
「マラソンよ。呼吸のコツはヒーッヒーッフーよ」
「姉さんそれ違う」
レムのお約束のボケを聞きながらタイガの森へとひた走る。
ちなみにスタミナというステータスはこのゲームには無いので走っていても息切れはしないが代わりにHPの最大値が減ることになる。
尤も息を整えれば簡単に回復するけどね。
「ただいま」
「おかえり」
森の入口に再度到着。
「ニードルタイガーは森の奥にいたっす」
「今レイド討伐なんかのユーザーイベントの情報もなし。狩り行くには問題無さそうね」
どうやらトイスが森にニードルタイガーの存在の確認とスイが他に狩ろうとしているイベントが無いかの確認をしてくれていたらしい。
狩りに行ったら居なかったじゃ笑い話だよな。
「助かる。それじゃあ移動しながらその方法ってのを聞かせてくれないか」
「分かりました」
「良いわよ。ずばっと聞きなさい!」
じゃあずばっと説明してください。
「姉さんだと説明が訳が分からなくなると思うので僕の方から説明させてもらいますね。まずニードルタイガーには少数低レベルでも狩ることができる方法があることはご存知ですか?」
「よく知っているわ。FAブロックのことよね」
「はい、そうです」
スイは答えながらチラリとモンドの方に目を向ける。なんだ?
「しつもんで~す。そのFAブロックってなんですか~」
スイを始めモンドやレトといったテスター組は知っているようだがそれ以外は知らないみたいだ。
まあ俺も聞いたことが・・・ないよな。
「まずニードルタイガーは一番最初に強力な攻撃を仕掛けてくるんですよ」
「公式だと大針虎強撃って名前が付いてるはわね」
「その攻撃は一撃で盾職のHPを全損出来るだけ強力で尚且つ威力の落ちない貫通性能も付いています」
「解り易く解説すると盾職を縦に100人並べるとその一撃で全滅するって考えてね」
ノットの説明にスイが補足情報を載せていく。
と言うか100人の盾職を一撃で?
「普通は貫通性能のある攻撃でも二人目三人目と当たると威力は落ちるんですがこの攻撃に限り落ちないんですよ」
「さっきの例だと一人目と百人目も同じ威力の攻撃を受けるってことよ」
「そんな攻撃を仕掛けてくる奴に勝てるのか?」
「ええ、その攻撃は最初だけだしタメの時間が長いから躱そうと思えば歩いてでも躱せちゃうぐらいなのよ」
「つまりニードルタイガーの攻撃を100とした場合、攻撃範囲内に居るプレイヤーの防御力が100以下だった場合問答無用で全滅って訳かな」
「その解釈で良いわ」
「そして本題はこれからです。ニードルタイガー討伐の基本は最初の一撃目を避けてそれから討伐って流れなのですが、実はこの攻撃は受けきると面白いことに起こるんですよ」
面白いこと?
「弱体化です。一撃目を受け切れた場合ニードルタイガーは弱くなるんですよ、このメンバーでも勝てる程度まで弱くなります」
「さっきの例で言えば一人だけでも防御力101が居れば良いわけね」
なるほど。条件付きで弱くなる敵なのか。
ってことはもしかして・・・。
「そう、この私がそのニードルタイガーの攻撃に耐えるのですわ!」
「いや、どう考えても無理だよ」
勢いよくレムが宣言したところでモンドからツッコミが入る。
「あら。何故かしら」
「当時のFAブロックを成功したのはランクが3のガチガチに防御を固めた盾戦士だよ。その中には付与士みたいに外部からのバフも含めての成功だ。いくら装備を固めても人形士が耐えきれる攻撃じゃないよ」
防御の専門家戦盾士のモンドの言葉だ。説得力が違う。
「それを人形士が、いえ私が出来るかどうかの実験ですわ!それも成功が約束された実験ね。何故私が天才と呼ばれているか、その理由を見せて差し上げますわ」
因みに天才とは誰も呼んでいない。




