弱者の迷宮2 扉
戦都の砂漠に強者の塔と呼ばれる塔がある。
文字通り強者と呼ばれるようなトッププレイヤーにしか挑めないような鬼畜難易度の迷宮だ。
50階建ての迷路構造。モンスターハウス多数。5階ごとのボスエネミーなどでいまだに15階までしか到達できていない。
そんなクリア出来ない塔ではあるが強敵を相手にする分スキルレベルの上がり方が異常に速いと言うことで人気の狩場である。
そんな人気狩場の近くに逆に過疎ぎみの迷宮が存在する。
それが弱者の迷宮だ。
弱者の迷宮と呼ばれる迷宮が発見されたとの噂は聞いたことが有る。
尤もそれ以降の話は全く無かったわけなんだが。
近くに強者の塔が有り殆どのプレイヤーがそちらに目が向いていたため長らく発見されず、しかも発見され入ったはいいが1階層だけしか存在せず、また魔物が1体も居ないとのことで簡単な調査だけで終わっている状態だとか。
「つまり入っても何もなかったわけなんだな」
「そうなのよー、一応怪しい所なんかは一通り調べては入るんだけど全然成果が出てなくてね。そのうち何か出てくるだろーとか、まだアプデ前なんじゃねーとか意見が出てきちゃって、それで調査は中途半端に終わっちゃったのよね」
「それをスイは納得出来なくて、調査の手伝いを私に依頼してきたってわけよ」
何もない迷宮ね・・・。
「ここがそうなのか」
「そうそう、ここが弱者の迷宮の入口よ」
「なるほど、確かにこれは発見しづらいな」
大きな岩に人一人が腰を屈めながら潜れる程度の穴が空いている。
一応下に向かう階段のような足場になっているので先に進むことが出来るのは辛うじて分かるが、問題があるとすれば、その向きだろう。
「この位置だと塔からは見えないよな」
「そうなのよ。だから誰も見つけられなくてね」
岩自体は塔からも見える位置に存在はしているが、肝心の入口が塔から見たら死角の部分にあったために発見が遅れたようだ。
「その辺りの経緯はどうでもいいわ。肝心なのはこの迷宮に何があるかでしょ」
「その通りよ、ミニちゃん。私たちの力でこの迷宮の謎を解明するわよ」
スイが元気よく拳を突き上げる。
何やらテンションが上がっているみたいだな。
「とりあえず入りましょう」
「そうだな、魔物は居ないって話だがそれでも警戒はしておくよ」
「お願いね」
蝙蝠の耳を使って周囲を調べる。
魔物もそうだし調査にはこの耳は使い勝手がいいかもな。
一応周囲に注意しながら迷宮に入り進んでいくと、いきなり道が左右に分かれている。
「地図はあるからね、はいこれ」
「おう、サンキュ」
スイから一枚の地図を渡された。
それによるとこの迷宮は左右正対象な構造をした迷路のようだ。
「地図にも書いてあるけど最奥が祭壇みたいな感じになっていてね。そこを中心に調べたんだけど何もでなかったのよね」
「とりあえずその祭壇まで行ってみましょう」
「あれ、ミニちゃんこの間渡した地図は?」
「もう覚えたわよ」
「・・・そう」
ミニッツは物を覚えるのが極端に上手い。
本人曰く覚えるのにコツがあるらしく以前そのコツを教えてもらったことが有る。
結果、暗記科目の成績が上がったのは言うまでもない。
モンド?覚える為のコツを覚える為のコツがあったら良かったのにな。
最初の分かれ道のまず右に向かう、幅は2メートルも無い石造りの通路を地図を見ながら奥の祭壇を目指して進む。
調査の本命は祭壇だが、途中の通路にも気になるところは存在する。
「ここにバツ印みたいな傷があるでしょ」
「あるね」
「で、こっちには染みみたいなのがある」
「地図にも記入してあるな」
「当然よ、でも何も無いのよね」
通路を進みながらスイが怪しいところを説明してくれる。
「スイ、これ」
「ええ「扉」って読めるわよ」
だけどこの文字・・・。
「左右反転しているのには意味はあるのか?」
「さあ、まだそこまで調査が進んでないのよね」
「鏡文字ってやつか」
そんな感じで通路を進んでいき祭壇のある最奥の部屋に到着。
体育館の半分ほどの大きさの部屋で奥には何かを祀るための台座がある。
そして奥には丸く光る何かを両手で掲げる女性の壁画が描かれている。
「ここが祭壇ね・・・。なるほどね。次行くわよ」
「え?調べて行かないの?」
最奥の祭壇に到着するもその祭壇も軽く眺めるだけで先に進もうとする。
「その祭壇はフェイクよ。調べても何も出てこないわよ」
「そうなの?」
「ええ、でもヒントはあったみたいだけど」
ヒント?
それらしきものはいくつかあるけどどれだ?
今度は祭壇部屋から左側の迷宮の調査を開始する。
だが左側は右側の調査と違い目的地があるらしく寄り道せずに真っ直ぐ進んでいく。
「ミニちゃん、ここなんか怪しいから調べたいんだけど」
「無駄よ、そこには何もないから」
途中にある如何にもな場所も無視して進んだ先は。
「ここね」
「ここって?」
何もない通路。
地図にもヒントらしきものも目印になるような物の書き込みが無い場所だ。
「この辺りにゴールが有るはずなんだけど・・・セン、あなたも手伝いなさいよ」
「分かったよ」
ミニッツに言われた通り蝙蝠の耳を発動。
何もない通路を調べてみる、すると。
「ここに妙なへこみがあるな」
膝より下、一目見ただけでは判断できないがスキルを使って確認するとちょうど指が入るぐらいの穴があるのが分かる。
「じゃあ、セン。よろしく」
「俺かよ!」
「当り前でしょう。何かあったときは後衛職の私たちより貴方の方が対処できるでしょ」
「安心して、回復魔法の準備はしておくわ」
無情にも二人とも離れていく。
具体的には爆発が起きても被害が出ないだろう距離まで離れていく。
そういえば誰かが男女比が女性に偏ると男は奴隷のような扱いになるって言ってたな。
奴隷は言い過ぎだとしても体良く扱われるのは確かなんだよな。
世に出ているハーレム系ラノベの主人公たちはすごいよ本当に。
「分かったよ。何かあったらよろしく頼む」
分かってても従うしかない悲しい男の実情。
少し屈みこみ穴の中に慎重に指を差し込むと・・・。
カチリッと音とともに背後から何かが動く音がする。
「こんなところに扉が・・・」
スイが驚くのも無理はない。
散々探しても見つからなかった次の階層への扉が今開いたのだ。
「さあ、行くわよ」
何事も無いかのようにミニッツは扉を潜り階段で下の階層に降りていく。
「ちょ、ちょっと待ってミニちゃん。なんでここに扉があるって解ったの?」
「そんな驚くことでもないでしょ。ちゃんと調査して少し考えれば誰でも解ける問題だったわよ。ほら見なさい」
そういってミニッツはスイが持っている地図で現在地を指さそうとするが身長差があるためスイを先に進ませ階段の上から改めて指さす。
その位置には何も書き込みがない。当然だこの位置には何らかのヒントになりそうなものはないのだから。
「そしてここよ」
次に指さすのはあの鏡文字で「扉」と書かれていた箇所だ。
その場所を指さされたときに気付く。
「この場所ってあの文字の位置の反対側か」
「あっ・・・」
迷宮は左右対象の形になっている。
そして扉が開いた場所と言うのが鏡文字で書かれた「扉」とちょうど対象の位置だ。
「ヒントは祭壇にもあったでしょ。あの壁画の女の人が持ってたのって鏡よ」
「・・・それだけのヒントで?」
「十分よ」
スイはミニッツの推理に驚愕している。
子供の頃からの付き合いでは有るけど、この頭の良さは少し異常な気もするけどな。
「さて、これでこの弱者の迷宮って所がどんな場所か理解出来たわ」
階段を降り切り第2階層に至る扉がミニッツの眼の前にある。
「この迷宮は謎解きの迷宮よ」
扉には次の問題が書かれていた。
戦闘シーンが苦手なので謎解きに逃げてみる。




