合魔物5 不意打ち
前話で入れる予定だった伏線を入れ忘れた。
そのせいで今話と次話で少し無理が出るかも・・・。
「これで3匹目っと」
デミバンクルがよく出現すると言われている場所を中心に狩りを進めていく。
とは言え、よく出ると言われていても元々レアな魔物なだけに見つけるだけでも大変だ。
さらにデミバンクルはプレイヤーが近づいて来たら逃げる特性もある、逃げると言っても追いつけないほど逃げ足は速くはないが、それでもこの森の場合、ただ追いかけているだけでどこから不意打ちされるか分からないので慎重にならざる得ない。
まず発見したら気づかれない様に回り込みアンズと挟み撃ちのような形にする。
その後アンズが魔法で攻撃をして逃げ出したところに待ち構えていた俺が攻撃して倒すという狩り方にしている。
属性石が10個貯まったら交代する予定だ。
デミバンクルは逃げるのが厄介なだけであって強さはそれ程でもなかったりする。
ちなみに環境のせいか探査系である、蝙蝠の耳のレベルがガシガシ上がっていく。
レベル1の時に比べて範囲も効果時間も格段に上がっているし、無詠唱で発動することも出来るようになった。
それまでいちいち声に出さなければいけなかったが、これで楽になるな。
しかし属性石はレアとは聞いていたが・・・。
「3匹倒して出たのはクエスト用のが1つか」
3匹倒しての収穫が「クエスト用属性石・火」が一つだけだ。
調子が良いのか悪いのか分からないな。
それにしても狩場に少し違和感があるな・・・気のせいなら良いんだけど。
違和感・・・そうこの狩場に来てから妙な感じがする。
何がとは説明しづらいが何かおかしいのは確かだな。
まあ、初めて着た場所だから間違っているのかもしれないが。
「全然いませんね」
「・・・そうだな数は少ないしな、どこかに大量にまとまってたりしないかな」
「それなら良い狩場はありますよ」
「ひぅっ!」
そう不意打ちで声を掛けられた、振り向くとそこには動きやすさを重点に置いた軽装備で、右手に短剣を持ったニコニコ笑顔のプレイヤーが立っていた。
いつから居たのかが全く分からないほど気配が無かった。
あまりに突然すぎてアンズが変な声だしちゃってるよ。
「デミバンクルですよね。それならある程度まとまって居る場所があるんですよ。良ければ案内しますよ」
短剣をフラフラと危なげに持ちながらゆっくりとこちらに近づいてくる。
「あるのかそんなところ?」
「ええ、僕だけが知っているまだサイトにも載ってないような穴場ってやつですよ」
「そ、そんなところがあるんですか・・・」
普段、人見知りをするアンズもその言葉に興味をもったようだ。確かにそんな場所が実在するなら魅力的な話だ。
だがこの男が現れた瞬間にこの狩場の違和感の正体に気付いた。
おそらく、この男が違和感の正体・・・いや、原因なんだろうな。
アンズを背にするように前に出る。
「興味があるな、それってどこに在るんですか?」
「それはですね」
お互いに一歩一歩近づいていく。
「その場所はですね・・・」
男が武器を持った右手を大きく横に広げた瞬間――。
ガキッ!
金属同士がぶつかるような鈍い音がする。
「おや?」
「一応確認するけど、そういうことなんだよな」
首筋を狙って男の左手から振るわれた短剣を刀ではじいてから尋ねる。
「どうしてわかったんですか?」
「訊いてるのはこっちだ」
刀を振るい、攻撃をするが男は後ろに大きく跳んで躱す。
見た目通り素早いか。
「え・・・?、なに?へ?」
あまりに突然の自体にアンズは意味のなさない言葉しか出てきてない。
まあ、ほっといてもいいか。それよりもいきなり攻撃してきた目の前の男だな。
「・・・そうですね、質問に答えましょうか。私はご覧のとおりのプレイヤーキラー、PKってやつですよ。そしてあなたをキルしようと攻撃しました。さあ、質問に答えましたよ次はあなたの番ですよ。なんでわたしがPKだってわかったんですか」
ニコニコと変わらない胡散臭い笑顔をしながら告白をしてくる。
「本来ならPK相手に質問に答える義理は無いんだが・・・答えてやるよ。ただ単にお前のその笑顔が胡散臭かっただけだ」
当然嘘だ。
まずはこの狩場の違和感が最初。
デミバンクルから取れる属性石は需要も高くそれでいながらほとんど取れないレアアイテムだ。
そうなると当然、狩場や獲物の奪い合いのような事態に発展していてもおかしくは無い。
それなのにデミバンクルがよく出没すると言われているこの狩場で他のプレイヤーに一切会わなかった。
それが最初の違和感。
その次は男が武器を隠し持っていたこと。
これ見よがしに右手で武器を見せながら近づいてきたので怪しく思い、蝙蝠の耳をこっそり発動。
そうすると左手に隠し持つ武器が見え・・・聴こえてきたわけだ。
そして最後に胡散臭いニコニコ笑顔。
この3つが分かった瞬間に男の正体に気付いた。
つまりこの狩場は何らかの理由により誰も寄り付かなくなっていた、そう考察しているところに明らかに怪しいプレイヤーが近づいてくれば警戒するなと言う方が難しい。
予想通りにPKプレイヤーだったんだけどな。
「胡散臭いですか・・・流石にショックですね」
「ショック受けてる顔には見えないけどな」
ニコニコ顔が崩れてないんだよ。
「いえいえ、本当にショックですよ」
「どうだか」
会話を続けながらもお互いの間合いを測りながら隙を探っていく。
「どれぐらいショックかと言うとですね・・・これぐらいですね!」
右手に持っていた短剣をこちらに向けて投げつけてくる。だが投擲スキル持っていないからなのか、威力は全くない。
短剣を躱して一気に間合いを詰め攻撃しようとするが、男は踵を返して一目散に逃げだしていた。
「待て!逃げるな」
「待てと言われて待つPKは居ませんよ」
確かにそうなんだが、そんな台詞を現実に言われるとは思ってなかったぞ。
ここからはPK野郎との追いかけっこが始まった。
別にほっておいても良かったのだが、ここで見逃した場合また襲いかかってくる可能性が有る。
そうなる前に一度倒しておいてPK行為によるペナルティを受けてもらおう。
PKなど犯罪系の行為をした場合カルマ値というステータスが上昇して、これを持った状態で死亡すると通常よりもペナルティが大きい、具体的には減少するスキルレベルの数とステータス減少時間の増加だ。
つまり今のうちに叩いておけば、しばらくの間ではあるが狩場が静かになるわけだ。
軽装備の見た目通りに素早さにステータスを振っているらしく、なかなか追いつけない。それでもただ素早いだけなら問題ない。
平地での速度は負けているが、こちらは走行と跳躍のスキルコンボで悪路での移動はお手の物だ。
そしてここは森に中、すぐに追い付くだろう。
「素早いですね、ではこんなのはどうでしょう」
振り向きながら手にした短剣を投げてくるが簡単に躱すことが出来る。正直足止めにもならない攻撃なのに、何故仕掛けてきた?
疑問に感じた瞬間にスキル「蝙蝠の耳」を発動、サーチしたのは後ろから飛んでくる、風魔法!
短剣を刀で弾くつもりだったが、咄嗟に地面に転がり、短剣と風魔法の両方の攻撃を躱す。
協力者が居たのか、振り向いて確認するとそこに居たのは・・・。
「傘犬!?」
追いかけている途中で傘犬の索敵範囲を通ってしまったのか。
「次はこいつだよ」
「しまった!」
傘犬に気をとられている間に近づかれ蹴りを喰ってしまう。蹴りの威力は強力でそばにある木まで吹き飛ばされてしまった。
だかおかげで傘犬との間に距離が出来て逆に助かったか――。
その場で急いで地に臥せる、その頭の上を通り過ぎて行くのは鞭のようにしなる枝。
蹴りによって木の擬態魔物ナチュラル・プラントの攻撃範囲にまで押し付けられたのか。
地に臥せたことによって枝は躱すことが出来たが、追撃してくる傘犬からの攻撃は受けてしまう。
不味いな、PK自身はそれほど強くはないが周りの環境を上手く使ってきている。
兎に角プラントの攻撃範囲から離れよう。こいつは攻撃は素早いが移動はしないからな。
「おっと、逃がしませんよ」
当然のように目の前に男立ち塞がる。しかも自分はプラントの攻撃範囲ギリギリ外に居ながらだ。
前にPK、後ろにプラントと傘犬。
これは詰んだかな・・・。
「光弾!」
「アンズか、助かった!」
傘犬に対して追いついてきた、アンズが攻撃魔法を当てる。
倒すことは出来ていないがヘイトがアンズの方に向いたので相手はPKとプラントだけになる。
これならまだ対処できるな。
「あらら、追いついてきちゃったか。来るまでにはキル出来ると思ってたのに存外にしぶといね」
「そりゃどうも、おっと。悪いが返り討ちにさせてもらうよ」
後ろから攻撃してくるプラントの枝攻撃を蝙蝠の耳で躱しながら。PKを追い詰める。
「悪いけど、やられる訳にはいかないんだ。逃げさせてもらうよ」
「逃がすかよ!」
「いや、これが逃げれるんですよ」
PKが一気に距離を詰めてきて攻撃を繰り出してくる。
だが短剣での攻撃には強さは無く簡単に捌くことが出来る、何を考えている?
「こっちでは駄目ですか。それならこっちです」
PKの攻撃が短剣から蹴りに変わる。今までとは見違えるほど攻撃に切れが出てくる。だがそれでもまだ対応は出来る。
「これが止めです!」
廻し蹴り。
見た目は派手で威力は有るが大振り過ぎるため躱すのは訳が無い。
バックステップで躱してから反撃の一撃を加えようとしたその瞬間。
「はい、そこです」
「!?」
PKとの間に半透明の壁が立ちふさがる。
「こいつは・・・ワンダーエッグか」
「正解です。そこは卵の結界範囲内なんですよ。そこから出たかったらさっさと倒してくださいね。その間に僕は逃げますけどね。それではまた・・・」
そう言ってPKは森の奥へと姿を消していった。




