チーム結成8 VS三本角
苦手な戦闘描写とリアルのごたごたのせいでかなり遅れましたがなんとか一月中には投稿できました。
武器を持たず子供とそう変わらない小さな身体のゴブリン、頭に三本の角が無ければノーマルのゴブリンかと思ってしまうような相手。
ヒナゲシを吹き飛ばした三本角のパティハイゴブリンシャーマンがそこに立っていた。
「・・・え?なにこれ・・・」
リンドウが吹き飛ばされたヒナゲシを見つめながら茫然とつぶやく。
二本角に対して圧倒していたヒナゲシが不意打ちとは言え一撃で吹き飛ばされたのだからその気持ちもわかる。
だが呆然としている時間は無い。
ヒナゲシを吹き飛ばした三本角はその小柄な体をばねで弾き飛ばされたかのような猛スピードで一気に間合いを詰めてきた。
三本角はその勢いのままに拳を後ろに振りかぶり攻撃態勢に入っている。その標的はトイス。
「え?え??」
あまりに突然のことだったためトイスは反応できずにいる。
このままではトイスもヒナゲシの二の舞になってしまう。
「ギッ!」
咄嗟に三本角の拳がトイスに当たる直前でその腕に刀を振るう。戦闘終了していて納刀状態だったのが幸いして居合が発動。
間一髪、三本角の拳と刀がぶつかり合ってお互いに弾き飛ばされる形になった。
三本角とお互い対峙してにらみ合う。
今の横合いからの一撃で三本角は自分にターゲットを絞ったらしくこちらに対して構えて警戒している。
ここで慌てれば敵の思う壺だろうから冷静に頭を働かせる。
まずは状況確認。
あまりに突然の襲撃だったため、誰も戦闘態勢が取れていない。なおかつヒナゲシの脱落が混乱に拍車をかけている。
ただし冷静になれば見れば分かることだがアバターが死亡状態になっていない、HPの全損にまでは至ってないようだ。
だが動かないところを見るとおそらくバットステータスの気絶状態に陥っているのだろう。
気絶状態は打撃系スキルなどで頭部を攻撃すると稀になる状態だ。
格闘系や棍術に気絶確率を上げるスキルがあるらしい。
三本角は見た目は他のノーマルゴブリンと変わらず少し大きな子供ほどの身長。
角が三本なければ特殊なゴブリンだとは気づけない、そして武器を持たず厚めのグローブをしているところからおそらく格闘系の型だろう。
これはヒナゲシを吹き飛ばしたスキルと高速移動のスキルからも導き出せる。
いや、たぶん格闘だけじゃない。
角の多さがスキルの多様性を表すならまだ他にも何か持っているはずだ。
三本角を警戒しつつ周りのみんなに指示を出す。
「スイ、まだヒナゲシは死亡してない。早く回復を!」
「!?わ、分かったわ」
「トイス、ミニッツ。援護頼む!」
「りょ、了解ッス」「任せて」
「リンドウはスイの護衛を頼む」
「は、はい~」
まずは三人がかりで三本角を抑え込む。
その間にスイにリンドウを復活させてもらう。
多少他人任せな作戦だがおそらく一番確実な方法だろう、それに失神状態からの回復にはそう時間がかからないはずだ。
「ヒナゲシの復活まで時間を稼ぐ。無理はするなよ」
そういって三本角の気を引き付けるため前に立ち武器を構える。
三本角の方も先ほどの腕への攻撃の恨みがあるからかこちらを睨んでくる。
「ギッ!ギッギャアガ!」
突然三本角の足元が光だし全身を包み始める。やっぱり奥の手が有ったか。
この光には見覚えがある。付与の光だ。
阻止しようにも、これは間に合わないな。
光が三本角の身体に集まり収まった瞬間、三本角の姿が消えたように見えた。
咄嗟に構えていた刀で頭の左側を守る。
瞬間、頭に衝撃が来る。刀越しとはいえ衝撃は受けきれなかったか。
ほぼ躱すことも受けることもできないようなタイミングで頭を殴ったのに何故か防がれた三本角は不思議そうな顔をしている。
確かに見えない攻撃は防ぐことも躱すことも出来ない、実際見えなかったしね。
では何故防げたのか。
話は単純だ、見えなくてもどこに攻撃が来るのかが分かっていれば刀で受けることが出来る。
三本角は消える瞬間、右に重心を傾け左足に力を入れていた。つまり三本角は右に、自分から見れば左側に移動したとこが分かる。
次に攻撃箇所だが格闘士型は一撃はそれほど重くはない。またヒナゲシを攻撃したときも頭を狙っていたことから今回もまた頭を攻撃してくるだろうと予想した。
尤も賭けに近い防御だったけどね。
そしてその賭けに勝った報酬は――。
「付与破壊」
攻撃を防がれたために動きの止まっていた三本角にミニッツの魔撃銃から呪術が掛かる。
ちなみに弾丸に付与していない通常の呪術だ。
今回のように弾丸で捉えられない速すぎる相手には通常呪術で対応しているらしい。
そして付与破壊付与とは文字通り付与の強制解除、地味ではあるがかなり効果的なスキルだ。
呪術の効果で三本角に掛かっていたAGI強化の付与が掻き消える。
「斬撃!」
「ギッ!」
自身に掛かっていた強化が突然消えて戸惑う三本角、その動きの鈍った瞬間に対して刀を振るい攻撃を加える。三本角は躱すことも出来ず真面に受けることになる。
それでもまだ倒すことは出来ず、三本角はバックステップでその場を離れていく。
流石にボスエネミー簡単には倒せないか。
一旦離れて仕切り直しになるかと思ったが離れた途端に三本角が拳を大きく後ろに回し力を籠め始める。
完全に間合いの外での行為なのに一体何をと疑問に思ったが直ぐに答えが思いつく。
答えが思いついた瞬間身体を捻り頭を横に大きく反らす。
三本角が拳を振るうと同時に自分の頭の横――先ほどまで頭が有った場所に見えない何かが通り過ぎていく。
今のはヒナゲシを吹き飛ばした不可視の攻撃か、事前に思いつかなければ危なかった。
だが躱したとはいえ大きく身体を反らしたため隙だらけの状態だ、そしてその隙を見逃してくれるほど敵は甘くない。
身体を反らして躱すことが出来ない自分に対して三本角は拳を振り下ろしてくる。
こちらも苦し紛れに刀を振って牽制するがあっさり躱され懐に潜り込まれる。
三本角の拳が腹にめり込み吹き飛ばされる――かのように見えるが攻撃が当たる寸前に強引に蹴りを出して三本角の攻撃を受ける。
これはヒナゲシが二本角との戦闘の時に距離を詰められたときに使っていた方法だ。
カウンター気味に蹴りが入るが不安定な体勢からの一撃なのでほぼダメージは与えられていない。
それどころかそのまま強引に押し込まれて吹き飛ばされてしまった。
転がりながらすぐに立ち直る、相手も強引な吹き飛ばしだったため追撃は出来なかったようだ。
「ギッ!ギッ!ギッ!」
立て続けに必殺の一撃を躱されたためかなり苛立っている様子だ。
しかしVRのNPCのはずなのにずいぶん感情豊かだな。
とどうでもいいことに感心していると苛立ちが最高潮に達したのか両の拳を胸の前で打ち合わせ始めた。
三度四度と合わせて行くうちに拳が光始めている。
ってこれスキルの準備行動じゃないか、完全に苛立ちからの行動だと思ってたよ。
止めようにもすでに時遅く三本角の拳は光り輝く拳になっている。
一体どんな効果があるのか分からないがマズイってことだけは分かるな。
三本角のこの一撃を確実に決めたいのかむやみに飛び込んでこないで慎重にこちらの隙を狙ってきている。
こちらも不用意に受けるわけにはいかないので刀を両手で持ち正眼に構える。
そうすると三本角が一気に踏み込み攻撃を繰り出してきた。
連続で繰り出してくる拳を走行と跳躍を使って捌いていくが躱しきれなくなって刀で受けようとすると、三本角がニヤリと笑う。
マズイ、と思ったときには遅く。その拳が刀に振り下ろされて。
パン!
三本角の拳によって刀が砕かれる。
武器破壊。
一部の魔物が使ってくるスキルで文字通り武器を破壊するスキルだ。
正確には武器の耐久度を大きく減らす攻撃なのだが、自分の使っている刀の最大耐久度は5。
スキルを使わなくてもすぐに壊れるような状態の武器だ。
あっさり壊れるに決まっている。
刀身が完全に砕かれ破片が周りに飛び散る、三本角は己の想定以上の成果に醜く破顔する。
だがこちらも負けじと笑う。
なにせこのスキルは強力な分だけ技後硬直が長いという特徴があるのを知っている。
刀身が砕け柄だけになった刀を大きく振りかぶる。
その途端、砕け周りに散らばっていた刀の破片が映像の逆廻しの様に柄に集まりだしていく。
そうこの刀は封札してある武器だ。
砕かれたとしてもすぐさま元に戻るようになっている。
完全に元に戻った刀を大上段に構え、驚愕に固まっている三本角をにらみつける。
武器破壊の技後硬直で動けない状態の敵に向かって。
「斬撃!!」
弱点看破込みの斬撃を一直線に振り下ろす。
当然躱すことも出来ない三本角は大ダメージを受け尚且つ。
「ギッ・・・ギァ・・・」
刀に付与されている麻痺も発動する。
一度刀を鞘に納めて力を込めてもう一度――。
「斬撃!」
この一撃が止めになり三本角の討伐は完了した。




