もうひとりの封札士2 過去
「居る意味がない」
それがチュウタこと中城修太の心に刻まれている言葉だ。
勉強をがんばった。
小さな幼なじみに勝る教科はひとつもなかった。
運動も努力した。
大きな幼なじみに勝てる事はなかった。
いくら努力し頑張っても常に幼なじみたちはその上に居た。
社会に出れば人の価値はそれだけではないと言えるのだろうが、子供時代とりわけ小学生ともなればわかりやすい基準で判断する。
それは勉強であり運動だ。
周りは常にトップに居る二人を評価し二人に劣る修太少年を評価しない。
少年はそう考えていた。
そう勘違いしていた。
実際には周りにいる大人達は一方に偏っている二人よりどちらも高いLvでいる修太少年を評価していたし子供達も一目置く存在ではあった。
ひとりの少年が発した言葉。
「勉強は小杉さんで運動は高山が居ればいいんだろ、中城って居る意味ないんじゃね」
発した少年はそこまで深く考えての言葉では無かった。
単なる妬みや嫉妬からの一言だった。
だが常に幼なじみ達と自分を比べていた修太少年には重すぎる一言だった。
そのせいで二人の幼なじみと距離を置いた時期もあった。
今でこそ仲直りもし、昔の笑い話で終わらせられる事でもある。
しかし刻まれた言葉は決して抜けない棘のように少年の心に刺さったままになった。
そして少年は意味の無い存在に意味を見いだし価値の無い存在に価値を与えようとした。
俺の前で意味が無いなんて台詞を使うなんてな。
人垣をかき分けて喧嘩している五人に近づいていく。
「あ、なんだお前」
最初に気付いたのはギンと呼ばれていた剣士だ。
他の四人も気が付いてこちらに視線を向けてくる。
「一応喧嘩の仲裁かな」
「関係無いやつは引っ込んでろ」
当然のように非友好的だな。
女の子達も訝しげな感じでこちらを見ている。
「いや、あながち無関係って訳じゃないんだ」
「知り合いか?」
ギンが周りに確認するが全員首を捻る。
「知り合いだから乱入してきたわけじゃないよ」
一呼吸置き。
「俺も封札士だ。だから封札士をバカにした発言を許せない」
一瞬の沈黙。
そして発言の意味を理解すると。
「ぷはっ何。お前も封札士なの使えねー」
ギンが大笑いし始める。
周りの反応もお構い無しだ。
女の子達も驚いた顔をしている。
「あはは、お前もさあ職変えてこいよ。まだ2日目だぜまだ間に合うからさあ」
「変える気もないし、役立たずだとも思ってない。実際俺は封札スキルを有効に使えてるぜ。まあ脳筋には理解出来ないだろうけどね」
「なんだとテメエ」
簡単に挑発に乗ってきたな。
もう一押ししてみるか。
「サイトの情報だけを頼りに自分で考えない脳筋には理解出来ないって言ったんだ聞こえなかったか?」
「喧嘩売ってるのかテメエは」
「喧嘩ってのは同レベルでないと成立しないんだよ」
「テメエ、いいぜわかった。だったら理解させてみろよ」
目の前にウインドウが開いた。
<銀太次郎からPVPの申請が着ました。お受けしますか>
<YES><NO>
PVPとはプレイヤー同士での決闘のことだ。
プレイヤーvsプレイヤー。
つまり銀太次郎(変な名前だ)は自分との決闘をしようというわけだ。
「そこまで大口叩いたんだ、逃げんじゃねえぞ」
「逃げるわけないだろ。ってことでこの喧嘩は俺が貰うね」
「え?え?」
「そんな脳筋やっちゃってください」
推定封札士の女の子は理解が追い付いて無いようだけどもうひとりの子からは了解を得られたようだ。
YESをタップする。
<銀太次郎とセンのPVPが成立しました>
システムボイスと共に銀太次郎と自分を囲む光の輪が発生する。
輪はそのまま大きく成っていき自分達以外のプレイヤーをワープさせ輪の中には二人だけになった。
「謝るなら今のうちだぞ」
「謝るつもりも負けるつもりも無い」
お互い視線を絡ませにらみ合う。
<PVPカウント5秒前です>
数字が浮かび上がりカウントを開始する。
そして0になる。
<PVPスタート>




