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2、美しい沈黙
在るはずの無い最上階の存在を知る者は三人、一人は商人、ひとりは少女、そしてもうヒトリ、少女の身の周りの世話をする耳の聞こえないメイド、ヘレナ。
喋る事もできないヘレナは、秘密を守ることにかけてこれ以上の安心は無く、部屋の掃除から少女の遊び相手まで、無言で全てを察してよく働いた。
商人は喋る事を嫌い、
ヘレナは喋る事ができず、
少女は喋る事を知らなかった。
部屋に広がるのは、靴や食器のたてる物音と、少女の鈴の様な笑い声、そして時折教会から聞こえてくるかすかな旋律。
商人の嫌う気取った話し声や笑い声はどこにも無い。