帰宅
「それでは、お気をつけて」
「誘拐した人に言われたくないんだが」
「また明日」
日向はそう言い残し、帰って行った。
「俺の言うことは完璧に無視だな」
さっきから会話がまともに絡まったことが……あったな。
「さて、早く帰らなければ」
俺はバッグを背負い、家まで走って行った。
「ただいま~」
「「「おかえり~~」」」
「すまん、遅くなった」
今は7時をチョイ過ぎたと感じだ。車で学校までは1時間もかからなかったため、けっこう早く家に着いた。
「本当だよ。遊ぶのも別にいいけど、もうちょっと早く帰って来てよね」
上のセリフは、長女の有希のものだ。まあ、わかったとは思うが、ツンデレな部分がある。
「お姉ちゃん、別にいいじゃん。時間的には大して遅れてるわけでもないし。叔父さんだって遊びたい年頃なんだしさ」
「はいそこ、叔父さん言わない」
俺はバシッと訂正した後、バッグとブレザーとネクタイをソファーに投げ捨て、夕食の準備を少し手伝った。
「ああ、そういえば、兄貴たちからなんか連絡来た?」
「ううん。全然」
「そうか……」
この兄貴たちの対応はいい加減ムカついてくる。
最後に自分の茶碗を置き、席に座った。
各自がいただきますと言い、ご飯を食べ始める。
「……有希、焦げている割合が多いと思うのだが気のせいだろうか」
「あ、私もお兄さんの同意~~」
春も俺に賛同する。
「お、そんなことないよっ!ねぇ、夏樹」
「ん~、焦げてるの多い~~」
「うっ!」
いつもご飯を作っている義姉さんがいないときは大抵有希が作るのだが、うまくいくときは5回に1回と言う感じだ。
「まあ、別にいいけどさ。兄貴の料理と比べればこんなのカワイイものだ」
「前から言いますけど、和平さんの料理ってそんなにひどいんですか?」
「ああ、もうひどいってもんじゃねえな。あんなもん食えねえ。今度兄貴が返ってきたときにでも頼んでみろ、喜んで作ってくれると思うから」
「でも、お兄さんの料理ってうまいですよね?」
「あれは、兄貴の料理を食べたくなくて俺が必死に料理の勉強をした結果だ」
「あの料理にはそんな過去があったんですか」
「兄ちゃんのご飯おいしいから、私大好き」
「お、ありがとな」
俺は夏樹の頭を撫でてやる。
「お姉ちゃんもお兄さんから料理教えてもらったら?」
「いいの?」
「俺は別にかまわないが」
「じゃあ、今度教えてくれる?」
「おう、いいぞ」
いつも俺たちはこんなかんじに普通の兄妹みたいな会話をしながらご飯を食べている。まあ、よく兄妹に間違えられるんだけどな。
風呂にお湯をためている間、4人でテレビを見てくつろいでいる。
「お母さんたち、いつ帰ってくるのかな?」
「さあな~」
夏樹がつまらなそうみたいに口を尖らせる。
「お兄ちゃん、メール返ってこないの?」
「来ないな~」
さきほど兄貴にいつごろ帰ってくるのかメールをしたのだが、返ってこない。予想はしていたけどな。
「そういえば、お兄さんって彼女出来ました?」
「こんな早く出来ないよ」
「えー、そうなんですか?私だったらお兄さんかっこいいからすぐにアタックするのにな~」
「ちょっと、春。何言ってるの」
「でも、お姉ちゃんも言ってたじゃん」
「言ってない!!」
えっと、なんのことだろうか。
俺がうろたえていると風呂に入れるという合図の音が聞こえた。
「んじゃあ、入ってくるかな」
「私も~~」
夏樹もソファーから立ち上がる。
「わかってるよ」
俺は風呂に入る準備をするために、自分の部屋に向かった。