Ⅱ:それでも猫であることを主張する女
まだ僕が小学生だった時の話だ。
下校途中、近くの公園の入り口付近で
小さいダンボールが置かれていた。
捨て猫。
ひどく暴力を振るわれた後が残っていた。
痣だらけ、というのをはじめて見た。
僕自身は今すぐ家にお持ち帰りしたい気分だった。
うん、実際お持ち帰りして、母にこっぴどく叱られたのを覚えている。
僕の家はマンションで、犬や猫を飼う事は固く禁じられている。
それでも僕はこの猫をどうしても助けてやりたかった。
だから、学校帰りに給食の残り物とかを与えていた。
パンとか小魚とか。
それでもあの猫の寿命は許してはくれなかった。
猫と出会って数週間、猫は僕が給食の残り物を差し出しても、
なんの反応もしなくなった。
自分の瞼から、
嫌なものが流れ落ちていくのをただ感じるだけだった。
ドアにしがみ付いて、こっちをジィ~っと。
女の子がジィ~っと・・・?
「ひぃ・・・!?」
いきなりすぎてなので、思考回路がやっと回ったあげく、情けない声(?)しか出なかった。
女の子は僕が驚いたのを見て、僕のいる反対側へと飛び降りた。
そして、
コンコン。
ノックだ。
非常に今怖い体験をしている。
生まれて初めて。
いや、うそだ。
怖い体験なんていくらでもしてきたが、ここまでのハイレベルは初めてだ。
コンコン。
まだ続く。
「ねぇねぇ。」
話しかけてきやがった!?
きっと今、僕の顔はムンク並みに怯んだ顔をしているだろう。
ムンクって怯んでたっけ?
とにかくだ。
怖いよ、この状況。
ほんとなんだよ。
「ねぇ~ってばにゃ!」
やばいよ!?やばいって!!
にゃ、て言われてちょっとは心地よく感じたけど、
もう用を達した所だったから(ある意味)良かったものの。
さすがにこれはまずいって!!
上見た瞬間ジィ~っと見られてんだよ!?
「ねぇ~え!!」
「ふぁははい!?」
一体全体なんなんだ?
僕が何をした?
女の子に声を掛けれる事なんかしたか!?
↑ある意味嬉しい事だけれど、全身恐怖心しかなった。
「ああ、やっと応えてくれたにゃ。」
「ぅうん、そ、それで?」
「私のこと、覚えてるかにゃ?」
いや、分からん。
何時ぞやの少女やお主。
「やっぱそうか、そうだよにゃ。8年も前の事だし。」
「・・・。」
「ま、まあいいにゃ。とりあえずその身体どう?」
は?
「いやだから、使い勝手はどう?」
「・・・。ま、まあ悪くはない。けど?」
「そっか、良かった。」
さっきから何が言いたいんだ?
そもそも僕の身体のことなんで知ってる?
いつの間にか、恐怖がなくなった。
このコからではなく、僕自身から。
話し方から、悪い者ではなさそうだ。
女の子だしね。女の子だし。