「エピローグ ~世界はオレ以外を中心に廻っている~」
「エピローグ ~世界はオレ以外を中心に廻っている~」
あれから何年の月日が流れたのだろうか。
オレにとっては、あの学園で美才冶やギコやフータ、百竹やまほちゃんと過ごしたあの時間だけが、まるで異質な時間であるかのように、まるで特別な時間であったかのように、今でも鮮明に克明に思い出すことが出来る。
あの日、美才冶にとっての最期の日、学園の屋上で彼女の口から放たれたオレをこの世界へと繋ぎ止めるための具体案。
そのたった一言のワードは、彼女がこれまで投下してきたどの爆弾発言よりも強力で凶悪で、ぶっ飛んでいた。
それは、我が子孫とオレとの最後の時間。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
「南天君、君、子供を作る気はあるかな?」
情けない事に、オレは驚きのあまり、再び屋上から真っ逆様になりそうになったものの、すぐさま美才冶に腕をつかまれ事なきを得た。
今回屋上には百竹は居ない。落ちていたらそこでジエンドだったろう。スタッフロールが流れていただろう。バッドエンドとなってスタート画面に戻されていただろう。
が、どうやら美才冶にとってオレのこの反応は想定の範囲内だったらしい。
美才冶はいつも通りのにやけ顔で話を続けた。
「あははっ。流石に話が突飛過ぎたかな。でもボクがこんな話をしても、なんら不思議ではないと思わないかい? ほら、ボクは何処の誰だか言ってみたまえ」
あー、ついに来た。来ちまった。結局のところ、コレこそが美才冶にとっての一番の使命なんだろうな。当然と言えば当然だが。
オレはこめかみを押さえつつ、ぶっきらぼうに言い放つ。
「未来から来た、とびきり可愛いオレの子孫」
こんなセリフ、今時お子様向けSFアニメでも言わねーよ。
「イグザクトリー。正解さ。なーに、難しい話じゃない。簡単に言えばこの世界に根付いてしまえばいいのさ。ほら、子は鎹って言うだろ?」
「今まで散々ありえない様なSF話をお前から聞かされてきたし、何の因果か実際この眼にもしてきたよ。にしちゃ、随分といい加減で所帯じみた結論だな。まさか、この期に及んでオレをからかってんのか?」
「ここでボクが直線コースを辿らず、わざわざ遠回りしてまでやってきたことに意味が出てくる」
オレは美才冶と違ってカンは相当悪いほうだ。
だが、そんなオレでも次に美才冶がなんて言うのかが想像出来る。
ああ、神様。頼む、それだけは、それだけは勘弁してくれ。いや、勘弁してください。
そんなオレの願いも虚しく、美才冶は大型爆弾をオレの頭上へと投下する。
「ちなみに、君をこの世界へと留まらせる事が出来る因子、つまりその可能性を持つのが、凪子、杏、先生の三人だ」
オーマイゴッ。オーマイゴッ。オオオオオオオオオマイッゴオオオオオ。
神は、今、死んだ。
「この三人の誰かと一緒になることだけが、君をこの世界へと留まらせる唯一の方法だ。良かったな南天君。ボクが見たところ、この三人はいずれも君のことを憎からず思っているようだぞ。凪子にいたっては直ぐにでも子」
「待て待て待て待て待て待えええええい。言うな。その続きは言うな。いいな? 絶対言うな」
「何だ。照れてるのかい? 全く、君は相変わらず見かけによらず初心なんだな」
ああそうだよ、どーせおれは万年童貞毒男だよ。
つーか見かけによらずって何だよチクショー。オレだって好きで強面になったわけじゃねー。
「言いたいことは腐るほどあるが、一先ず顔の事じゃねーよコンチクショウ。百万歩も譲って、この世界で結婚して子供作る事が条件だとしよう。けど何で、その三人なんだよ。いや、何でその対象が三人も居るんだよ。どう考えても可笑しいだろ」
「うむ。つまり君が言いたいのは、ボクという存在がある以上、君の相手が三人もいるというのは可笑しいってことだろ?」
その通りだ。
もしも本当に美才冶がオレと誰かの子孫であるなら、美才冶は間違いなくオレの本当の相手が三人のうち誰だが知っているはずだし、その人物をオレに提示すれば言いだけの話。
そもそも何故3人と言う選択の幅をオレに与えてくるのかが分からない。
下手すればオレがその正式な相手を選ばず他の相手を選んだ場合、美才冶が生まれない未来だってありえるはずだ。
「君の疑問は最もだ。けどね南天君。君は一つ大きな勘違いをしている。ボクの役割はあくまで君を救う事で有り、ボク達のことは関係ない。それはまた別の話なんだよ。君を助ける上で、3つの選択肢、3つの未来ががある以上、ボクは包み隠さずそのまま君に提示する。それだけの話さ」
そういい切った美才冶は、実に良い笑顔でこう締めくくった。
「さぁ、南天君。君のその手は、一体誰を掴むんだい?」
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
結論から言えば、オレは美才冶の言葉通り、誰かを選び、そして子を作り、この世界とやらに本当に居つくことに成功した。
いや、いついちまった。未だに、オレの判断は正しかったのか? オレの人生は本当にこれで良かったのか?
ふとした瞬間に考える事がある。
けどまぁ、それだけだ。ちょっと考えるだけ。だってそうだろ?
あの日を堺に美才冶は姿を消しちまったからだ。
それは、オレに全てを伝えるという役目をはたしたからなのか?
それともその時点で、オレが違う選択肢を選んじまったせいで、あいつの存在自体が消えちまったからなのか?
今となっては何一つ分からない。
唯一つ確かなことは、オレは今でもこの世界に居て、オレの側には常にアイツが居るって事。
あれから一体何年の月日が流れたのだろうか。
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…… おっと、このセリフは今日二回目だったかな。
え? もうその口調はいいって? いい加減疲れた?
おいおい勘弁してくれよ。疲れたのはむしろ僕の方さ。
そもそも君は僕の話を聞いているだけだろ? 僕なんてもう何時間喋りっぱなしだと思う。あれ、何時間だっけな?
まぁいいや、とにかく一先ずは今ので殆ど話し終えたかな。
え? そもそもこんな胎教聞いたことがないって?
おいおい、分かってくれよ。僕だって内心不安でしょうがないんだ。
何々? そんな顔には見えない? むしろ嬉しそうだって?
あははっ。勘弁してくれよ南天さん。僕と君の子供のことなんだ。僕は何時でも真面目だよ。
それにしてもさ、いつまでも君の事を南天さんだなんて呼ぶのは、ちょっとよそよそしすぎないかい?
ほら、仮にも僕等は結婚するんだし、君のお腹の中には、僕等の愛の結晶まで宿っている。
君だって、僕と結婚したら南天じゃなくて美才冶になるんだよ? え? 何度聞いても変な苗字で慣れそうにない?
おいおいそこは勘弁してくれよ。そればっかりは慣れてもらうしかないかな。それにさ、僕は結構気に入っているだよ、この苗字。
… おっと、ごめんごめん、話がずれちゃったね。えーっと、あれ? そもそも何の話だっけ?
痛っ。嘘嘘、嘘だってっば! ちょ、叩かなくってもいいじゃないか。ちょっとしたジョークだよ。忘れるわけないだろ?
僕等の愛しい娘の話だ。これから産まれる僕等の宝物の話だ。
うん。そうだね。僕たちはお互い結婚を決めたときに、お互いが抱える秘密ってやつを洗いざらい吐き出した。
当然、僕の抱える個性と、君の抱える個性も。
あははっ、それにしてもお互い、難儀な力を持ったもんだね。
でもま、君のへんてこな力には流石の僕も及ばないけどねー。
え? 僕のほうが変だって? いやいや、君のほうが上だって。
僕の個性は単にカンがいいってのと、ちょっとリアルな昔話が出来るだけだろ? まぁ、子供をあやすにはもってこいだろうけど。
それに比べてほら、君の家系は凄いじゃないか。
確かタイムスリップ能力だっけ? 中でも君は、南天家で一番の力の持ち主だとか。
うん知ってるよ。君の力をもってしても、実際のタイムスリップはまだ不可能なんだろ?
ま、僕はそんな力なんて関係なく君に一目ぼれだったんだけどね、うん。
痛っ。だから痛いってば。ほらほら、そんなに動いたらお腹の赤ちゃんに障るだろ?
もう君だけの体じゃないんだから、ね?
あははっ、ごまかしてないよ。だって本当のことだしさ。
おっと、また話が逸れちゃったかな。
真面目な話、僕等の子供が君の先祖の運命を握ってるなんて分かった日にはさ、流石の僕も驚いたよ。
君だって、なかなか信じられなかっただろ?
まぁ、さっきまでの話は、あくまで僕の個性の力による昔話だから。
再現映像みたいなものだからね。
実際この通りに行くとは限らない。
僕らの娘が、あんなステキなボクっ娘レディーに成長するかどうかも分からない。
ああ、大丈夫。でも大丈夫さ。だってそうだろ?
なんてったって世界は、僕と君の子供なんだからね。
◆
父から託された使命と、母から受け継いだ力を携えて、十数年後、美才治世界は過去へと旅立つ。
自らの先祖たる一人の少年に、未来と言う名の選択肢を与えるために。
そして、世界は彼を中心に廻っていると言う事を証明するために。
THE END