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第五周目 「五里夢中なオレ」

 第五周目 「五里夢中なオレ」


 結局のところ、オレはただのモブにさえなることが出来なかった。

 オレの望むその他大勢になることは出来なかった。

 大きな大きな何かを失って、その代わりにこの世界でオレが得たもの。それは…

  

          ◆


 オレの手をぎゅっと握る美才冶のその横顔は、とてもじゃないが冗談や嘘や酔狂で出来るようなそんなまがい物の顔じゃなかった。

 美しさと慈愛を含んだ柔和な微笑み。もしかすると、これが本来こいつの持つ笑顔なのかもしれない。

 だがしかし、いきなりご先祖様呼ばわりされたオレは、この場合どんな顔をしてどんな返答をすればいいのか。

 答えの出ないオレは、ただひたすらに美才冶が握り締めているオレの手を見つめるという、何とも非生産的な行為に及ぶしかなかった。

「あははっ。これは完全にフリーズしているな。ほらほらご先祖様、これからが重要なところだろ? しっかりしたまえ」

 そう言ってオレを握る手のひらに力を込める美才冶。つまり、もう完全にここから逃げ出す事も出来ないってこと。

 もうどうにでもなれ。

「いや、すまん。つーか無理ないだろ。むしろ無理ないだろ。お前のセリフはいちいちぶっ飛びすぎてて突っ込みどころが多すぎるんだよ」

「ほぅ、どこが?」

「全部だよ!」

 むしろどこか一部分でもオレが理解できたとでも思ってんのかこいつは。

「ご先祖様。この程度で値を上げているようでは先が思いやられるぞ?」

「待て待て待て。さっきから気になりまくり何だが、まずオレのことをご先祖様と呼ぶのを止めてくれ。オレはお前の親族になった覚えもなければ、家族を作った覚えもねーよ」

 オレの反論に対しぽかんと口を開ける美才冶。何? 何なのその反応?

「いやいやいや、だから何でそこで顔を赤らめる? オレ何か変な事言ったか? お前より変な事言ったか?」

「まず君に謝らなければならないことがある。ご先祖さま、いや、南天君。実のところ、ボクは最初から君こそがボクの捜し求める人物だと分かっていた」

「だから、シカトかよ! って…………… は?」

 こいつ、今何て言った? 

 最初からって、こいつが転校してきたその日って事か? 

「お前は確か、恩人ってやつを探してたんだろ? 少なくともオレはお前がこの学校にやってくる前には会ったことがねーし、お前に感謝される覚えもないぞ」

「何だそんなことか。言っただろ? 君はボクのご先祖様何だ。つまり、君が存在しなければ当然ボクも存在しない。そんなの、究極の恩人に決まってるじゃないか」

 大真面目な顔ではっきりとそういい切る美才冶。

 オレがご先祖ってのは、どうやらこいつの中では既に決定事項らしい。

「はっきりさせておくが、さっき言った通りボクは君が誰だか知っているし、君の持つ<個性>も知っている」

 オレの持つ個性だと? いや、それ以前に、こいつ、オレの過去を知ってるってのか? 

「… だったら何で、わざわざギコや百竹、先生を疑うふりなんてした。そんなまどろっこしいことしねーで、最初っからオレにぶっちゃければ良かったじゃないか」

「うむ。それには幾つか理由があるんだが、そうだな一番の理由としては、君を巡る環境を君に身を持って体験させ信じさせるためだ。ボクが初対面でいきなり君に、ご先祖様だなんて言ったら コイツマジヤベー とか思うだろ?」

 ああ、心配するな美才冶。今だって十分そう思ってるから。コイツマジヤベーって。

「他にも大きな理由があるんだが、それは順を追う中で説明するよ。そうだな、とりあえず君の正体だが」

「正体? そんなもんお前に言われなくてもオレが一番良く知ってる。オレは南天改。ただの高校生だ。それ以上でも以下でもない。何の特徴もないつまらん男だ」

「ただのつまらない男? 呆れたな。君は本気でそう思っているのかい? と言うよりそう思いたいってのが正しいのかな、君の場合は。だって君。君には過去の記憶が無い。君には、ここ数年間の記憶しかないだろ?」

 

 オレは、美才冶に心臓を鷲づかみにされた。

 これはもうだめだ。

 こいつは、美才冶は、オレの知らないオレを知りすぎている。

 オレの知りたくないオレを知りすぎている。


「図星かい? 果たして自分は何者なのか? 何故過去の記憶がないのか? それでも心のどこかにある不思議な安心感。実際のところ、別に自分は一生このままでもいいんじゃないかという気さえしたはずだ。… そんな時、君の平穏を土足で踏みにじり、ぶち壊そうとする人物がが現れる。そう、このボクだ。挙句の果てに、この世のものとは思えない非現実的な出来事を次々と目の当たりにする。そのときの君は、一体どんな気分だったのかな? あははっ、心中お察しするよ」

 こいつはこの世界において、オレ以上にオレのことを知る唯一の人物。

 そこまでオレの内情を理解していながら、こいつは…。間違いない。美才冶は真性のドSだ。

「どうした南天君。手が震えてきたぞ?」

「武者震いだ、気にすんな」

「あははっ。それじゃ、そろそろトドメと行こうか」

 そう言うと美才冶は、握りっぱなしだったオレの手を離し、大きく空気を吸い込んだ。

「結論だ。君こそが君のクラスメイト達に<個性>と呼ばれる不思議な力を与えた張本人。つまり、このクラスは<個性>の持ち主が集められたんじゃない。他でもない君によって作られたものなんだよ。それが君も知らなかった君の正体さ。どうだい? これで少しはスッキリしたかな」


 夢だ。

 これは悪い夢だ。

 きっと、オレはまだベッドの中で二度寝の真っ最中だろう。全部オレの見た夢なんだ。

 そんなオレの現実逃避も虚しく、美才冶はその言葉を緩めない。

「君は廻りにいる人間に、無自覚に無差別にさまざまな<個性>を与える力を持っている。それが君の<個性>だ。そして、これが一番の問題で有り、君という存在がどこか不確かな理由なんだが…」

 不確かなオレという存在。

 思い当る節がないわけじゃない。

 いや、正確にはこれまで全力で目を背け続けてきた事だ。極力考えないようにしてきた事だ。

 だが、この先発せられる美才冶の言葉を聴いてしまったら、オレはもう二度と元の生活には戻れないような、そんな気がした。

「南天君。君は、この世界の人間ではないんだよ。君はこの世界で唯一、世界の理から外れた人間なんだ。つまり、世界は君以外を中心に廻っていると言ってもいい」

 ご先祖、オレの個性、そしてとどめに… こいつ、何て言った? オレは、この世界の人間ではない、と?

 もうね、何と言うかびっくりしたとか驚いたとか、そういう感情はとっくの昔に超越しちまっているわけで。

 オレの喜怒哀楽のキャパシティは崩壊しまくりなわけで。ああ、ぶっちゃけオレはどう反応すりゃいいんだ?

「ここまで来ちまうと、逆に落ち着いてきたよオレは。で、何か? お前に言わせるとオレは宇宙人だってか? だとしとらオレの子孫であるお前も宇宙人ってことじゃねーか」

「いや、全然違うから」

「違うのかよ! しかも全然違うのかよ! あーそうですか、オレのカンってやつはお前と違って最悪だからな」

「あははっ、すまない。全然は言い過ぎたかな。正確には君は地球人だ。まぁ、地球も宇宙にある惑星の一つなわけだからね、宇宙人だといったらそれは宇宙人なわけで。そういう考え方もあるわけだから、君がもしそういう考え方を持っているのなら」

 メンドクセー。

 何でそんな細かいところにこだわるんだコイツは。今はもっとこう重要な話をしてるんじゃなかったのか。

「あー、すまん。頼むからさっきオレが言った事は忘れてくれ。全力で忘れてくれ。お前の言葉で良い。むしろお前の言い方でいいから」

「良いのかい? ふむ、まぁ、ぶっちゃけると君はこの世界ではないどっかの世界の地球からやってきたんだよ。恐らく平行世界とか多元宇宙ってやつだろうね。詳しくはボクも知らない。恐らく、君しか知らないんだろうが、残念ながら君の記憶を戻す事は不可能だ。何故なら、それが君の<個性>の持つ最大の弱点だから」

「平行世界? パラレルワールド? 胡散臭さ120%だなおい」

「ボクもそう思う。だが事実さ。君はここではない並行世界の地球。君やボク、凪子や杏、先生やクラスメイトのような特殊な力、いわゆる<個性>と呼ばれる力を持つ人々が普通に存在する世界の地球から来たんだ。君はそこで生まれ、そこで育ち、そしてこの世界の地球へとやってきた。さっきも言ったとおり君の持つ<個性>の副作用的な特性によってだ」

「それだ。初対面のときからお前に言われ続けてきたんだが、オレには自分にお前らみたいなそんな力があるとはとても思えないんだよな。しかもオレがギコや百竹、クラスメイト達にあんな怪しげな力を与えたとかとてもじゃねーが信じられない」

 しかももし、百歩譲ってオレがクラスメイト達にそんな力を無自覚に与えていたとしても、そんなの辻褄が合わない。

 だってそうだろ。クラス連中の中にはオレと出会うずっと前からそんな力をもっていたやつだって居るだろうし、ギコだってそうだ。

 オレと出会う前からあの二人は姉弟だったのだから。

「君はただ力を無自覚に無差別に与えるだけじゃない。一旦君の力に触れてしまうと、その人の過去に遡ってまで影響を与えてしまうんだ。まるで、人生を書き換えてしまうかのように。そして、君の持つ力には副作用がある。これがボクらとは一線を画すところだね。君がオリジナルなのに対して、所詮ボクらは養殖品ってわけさ」

「最悪だなそれ。オレ自身には何の得もないし、ましてや自覚すらもしてねーのにちゃっかり副作用なんてあんのかよ」

「あるぞあるぞ、ちゃっかりあるぞ。笑っちゃうくらいの副作用だ。なんてったって君は、ある一定の人数に<個性>を与えると、自分の意思とは関係なく、他の平行世界や多元宇宙に、こうしてワープしてしまうんだからね」


 !、!!、!!!!!!! 

 

 最悪だろそれ…。

 つまり、オレは他の宇宙の地球からやってきて、そこの地球人には個性と呼ばれる力がある。

 中でも、オレには他人に個性を与える力があり、オレは一定人数に能力を与えると勝手に他の世界にワープしちまう副作用を持っている、らしい。

 今のこの世界にも、そうやってやってきたってことらしい。

 信じる信じないとか、そういう類の話ではない。

 美才冶の言う通り、確かにやつに転校初日にこんなことを言われていたら、その後一生美才冶の事を無視し続けていただろう。

 そういう意味では、この遠回りは十二分に意味があったと言わざるを得ない。


「オレの記憶がないのもそのせいなのか。いや、それよりもオレは一体どこで生まれて何処で育って、どんな人生を送ってきたんだ? オレは、誰だ?」

「本当にすまないが、それは神のみぞ知るだ。それを知る人間も、君の家族も、少なくともこの世界には居ないよ。残念ながらね」

「この世界はオレにとって一体何番目の世界なんだ? オレは、一体幾つの世界を渡り歩いてきたんだ? その度に記憶をリセットされて」

 オレは、生まれて初めて絶望という言葉を体中ににじませ、その場で膝を突いた。

 勿論、記憶がない以上それが本当に生まれてはじめての感情かすら定かじゃないんだが。

 それでも、口から出てくるのは現実逃避の薄笑いだけ。

 一体誰なんだ? オレという人間は。

 そんなオレに対し、すっと手を差し伸べる体操服のポニーテール女。

「安心してくれなんて、そんな安易な言葉をボクは言わない。だが信じて欲しい。ボクは君のために、君を救うためだけに、ここまでやってきたのだから」

 そう言い切った美才冶の瞳は、今まで見たどんな景色より美しかった。

 オレは、美才冶の手を取り立ち上がる。

 再び、夕焼けの屋上に並ぶ男女が一組。

「まだ君にきちんと言ってなかったね。ボクがこの学園にやってきた理由。それは、ボクのご先祖である君を救い出すためだ。君をその運命の輪から救うためだ。君にとって、この世界を君の終着点にする事こそ、ボクの真の目的なんだ」

「オレの、終着点?」

「そうさ。これは、ボクら一族に伝わる大切な役目であり、必ずやり遂げなければならない任務なんだ。それは君のためでも有り、ボクら一族のためでもある。詳しいことは言えないんだが、確かにボクは君の子孫だ。だが、君と違ってれっきとしたこの世界の住人だよ。けど、正確にはボクはこの時代の住人ではない。つまり、未来から来たのさ、君を追いかけてね」

 

 他の世界からやってきたオレと、未来からやってきた美才冶。


 もはや、オレの妄想領域何て軽く凌駕してやがる。

「その顔。さては君疑ってるね。ほら、見たまえこの目。君にそっくりだろ?」

 そう言ってオレに顔をドアップで近づける美才冶。

 似てない。全然似てない… が、今思うと確かに思うところがないわけじゃない。

 初めてこいつを見たとき、妙な親近感を覚えたのは確かだし、屋上でオレも一緒に飛び降りるなどと口走っちまったのも、納得がいかなくもない。

「君の運命には同情する。ボクにも君がどれだけの世界を渡り歩いてきたかなんて見当もつかないからね。だが、現状君はこうしてここに居る。それは、今までと何かが決定的に違うからだ。この世界と他の世界の大きな違い。こうやってボクが存在し、君の元へとやってこれた大きな理由、南天君それが何か分かるかい?」

 違い。

 その違いってやつのおかげで、オレは今までの世界と違い、他の世界に勝手にワープするなんて事体にならずにすんでいるわけだ。

 思い当る節、それは…

「まほちゃん、か」

「イグザクトリー。正解だよ南天君。この世界と他の世界との違い、それは中世古まほろの存在。つまり、彼女の持つ君とは正反対の力のおかげだ。彼女の存在こそ、この世界を君にとっての終着点へと変えてくれる大きなポイントなんだ。陰と陽。プラスとマイナス。彼女が居なければ、君は今まで同様この世界に留まる事も出来なかったし、ましてやボクもこの世界には存在していなかっただろうね。彼女が君の力をも制限してくれていなかったら、こんな結末を迎える事も出来なかったんだ」



 中世古まほろ。通称まほちゃん先生。

 三年前、オレは先生と出会い、そして全てを救われた。全てを与えられた。

 もしかしたらオレは、オレの運命は三年前のあの時点で、既に彼女によって軌道修正されていたのかもしれない。



         ◆ ◆ ◆ ◆



 三年前


「あのー、どうしたんですかー。こんなところで寝ちゃダメですよ? 風邪、ひいちゃいますよぉ?」


 まほちゃん曰く、何故かくオレは、彼女の家の前で倒れていたらしい。

 それがオレとまほちゃんの最初の出会い。

 このときの彼女は、例のマンションではなく、学園からも程遠い古い大きな屋敷にて一人で住んでいた。

 まほちゃんは教師1年目の新人。学園からの帰り、家の前でオレを発見したまほちゃんは、何のためらいもなくオレを屋敷へと招き入れた。

 

 この世界における最初のオレの記憶、それはまほちゃんの満面の笑顔だった。

 

 恐らく、前の世界で能力の種を蒔ききったオレは、その副作用によりこの世界へと飛ばされてきたんだろう。

 勿論、そのときの記憶も一緒にぶっ飛んでいるわけだから、詳しい事はオレにも美才冶にだってわかりゃしない。

 だが、不思議な事に自分の事に関する一切の記憶がないにも関わらず、この世界における一般常識だけは頭に存在していた。

 美才冶曰く、そういうものらしい。そんなわけで一般的な生活を送るには何の支障もないオレだったが、当然この世界における家も身よりもないわけで。

 が、こともあろうにまほちゃんは、そんな得体の知れないオレを、その屋敷にて匿ってくれたのだった。

 警察に突き出すわけでも、病院に引き渡すわけでもなく、何故かまほちゃんと同居する事となったオレ。

 オレが言うのもなんだが、幾らなんでも無防備すぎるし警戒心がなさ過ぎる。

 一つ屋根の下に、妙齢の女性とどこの馬の骨とも分からねー男が同居するなんて、今考えてもありえないと思う。

 が、まほちゃん曰く

「酷いですぅー。私だって、大人ですもん分別くらいありますぅ。でも、あなたの顔を見たら、ほっとけないって思っちゃったんですもん。私が何とかしなくちゃーって思ったんですもん。だって、あの時の改君。いっつも悲しそうな顔で、泣いてばかりだったんですよ?」

 記憶がない、なんていったらいい訳になるのだろうか? 

 何しろ、あの頃のオレはまだこの世界にやってきたばかりで、その存在自体が不安定だったんだと思う。

 或いは前の世界の記憶の名残が、オレをそうさせていたのかもしれない。

 前の世界で大切な人と別れちまったのかもしれないし、そうじゃないのかもしれない。

 いずれにしろ、今となっては前の世界の頃の記憶は一切ない。

 オレは先生に助けられながらも、何とかこの世界に馴染んでいった。

 それとは逆に、オレは過去の自分のことについて一切の興味を持つことが出来なかった。

 何故自分には記憶がないのか? そもそもオレは何処の誰なのか? オレの家族は? 

 そんな当たり前の疑問を、不思議な事にオレは抱く事がなかった。もしかするとそれすら、オレの個性の一部なのかもしれない。

 

 1日中屋敷の中で過ごす日々。

 それを好としなかったのは他でもないまほちゃんだった。

 心身共にすっかり回復したオレに対し、まほちゃんは一つの提案をした。

 それはまほちゃんの学園の入試を受けよというもの、つまり、学園に入って勉強すれば? というものだった。

 入学するも何も、オレには以前の記憶もなければ戸籍もないし、自分が幾つなのかさえ分からない。

 例え試験に受かったとしてもどうやって書類を通すつもりなのか。当時のオレは本当に不思議でしょうがなかったのだが、今にして思えば、このとき既にまほちゃんはオレの手によって個性をもたらされていたんだろう。

 つまり、まほちゃんの持つ超絶個性の一端により、物凄く都合良く、オレという存在の証明が改竄されていたのかもしれない。

 まるで、昔からオレがこの世界に存在するかのように。

 勿論、まほちゃんに非は無い。何しろ無自覚なのだから。

 

 それからというもの、オレは頼りきりの生活を脱却し、一人暮らしを始め、とうとう、高校入試を成功させた。


 だからこそオレには、例え個性という特殊な事情が無くても、まほちゃん先生に対して一生かけても返しきれない大恩があるといっても過言ではなかった。


          ◆


「だがそれもあくまで君と先生がこの学園に居る間のみの力。つまり、少なくとも数年後には終わりを迎えてしまう制約つきの力さ。だからこそ、ボクが居る。そのためにボク居る。ボクは君を正しい方向へ導くためにやってきたんだからね」

 成る程。あまりに強大な力には、その反作用、副作用がつきものらしい。オレのワープの副作用のように。ただ、不幸中の幸いともいうべきか、まほちゃんにはその副作用が無い。その代わり、制限付きの力だったらしい。

「ちなみにだが、ボクのいる未来の世界では、元々南天君のいた世界同様、この<個性>と呼ばれる力は、誰もが持つ極々当たり前の力として認識されているんだ。何故か分かるかい?」

「いや、さっぱりだ。…… いや、待て。そうか。まほちゃんの力は制限付き。つまり、クラスメイト達が卒業してからはその力の縛りはなくなる」

「御名答。君がこの世界で力を与えてたクラスメイトたちこそ、後の、この世界における<個性>の始祖ともいうべき人物達なのさ。クラスメイト達がやがてこの学園を卒業し、日本中、いや、世界中にちりじりになり、子孫たちへ、未来にその力は脈々と受け継がれていったというわけさ」

 改めて、自分がどんなことをしでかしちまったのかということを理解した。

 俺は、この地球に、<個性>という力を持ち込んじまったのだ。<個性>という力を根付かせてしまったのだ。

 例えオレが能力を蒔く事を辞めたとしても、親から子へ、その<個性>は、更生に引き継がれていってしまったのだ。

 何なのだ、オレという存在は。

 一体、幾つの地球で、幾つの宇宙で、オレは、同じ事を繰り返してきたのだろう。

 そんな茫然自失状態のオレに対して、尚も追い討ちを掛ける美才冶。

「一族の中で何故ボクが君を救う役目に選ばれたのかと言えば、答えは簡単。一族の中でボクが一番強い<個性>を持っていたからさ。まず安心して欲しいのは、君の持つその副作用的能力そのものは、子孫の僕らには受け継がれなかったところ。どうやら君のその力は、突然変異ともいうべき一点モノらしくてね、その代わりボクら子孫に受け継がれたのは、君の持つ世界を渡り歩く能力の一部。タイムスリップ能力さ。ボクはその力が一際強いらしくてね。だからこそ、ボクがその役目に抜擢されたのさ」


 そう言ってオレンジ色の夕日を見つめる美才冶。いよいよ、オレ達にとって最後のときが訪れようとしいていた。


「それじゃ本題だ。君をこの世界に繋ぎ止める為の具体案。それはね…」



END



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