表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/8

第3話 イタズラが好きなのは子供の性

「君たち、ここは部外者は立ち入り禁止ですっ……よ」

 警備員が最初にりんを見て、次に風の宮を見て首を傾げた。

「あの、失礼ですがお名前は」

「風のみ……」

「風の宮大京さんです! まさかご存じないわけないですよね? あんなにも有名なのに!」

 ごめん大京。名前借りました。

一方風の宮は名前が気に入らないのか眉を寄せてりんを見る。

「つい先日帰国されたばかりで、日本語を忘れてしまっているんです。通訳は私が勤めています。菊野りんと申します」

ごめんなさいお菊さん。苗字借ります。

「社長と会う約束をしています。そこを通していただけますか?」

 そう尋ねると、警備員は言いにくそうに「証明書を……」と小声で言う。

それをりんが制した。

「証明書!? あなた風の宮さんにそんな物を出せと言っているんですか!? あなた警備員歴何年です? 前の方はすんな通してくれましたのに。まったく、貴方の事社長にもしっかりとお伝えしますからね」

「ちょ、まっ、待って下さい。どうぞ、どうぞお通りください」

 警備員は焦って道を開ける。りんはニヤリと笑いながら小さく頭を下げて事務所の中へ入った。

風の宮は初めて見るコンクリートの建物に目を白黒させてる。

「よっしゃ侵入成功っ。風の宮さん、お弟子さん捜しますよ」

「お前……口が達者な奴よのぉ」

「お褒めの言葉ありがとうございます」

 そこはりんにとっても未知の世界だった。とりあえず音楽が聞こえてくるスタジオを覗く。

テレビで見た事ある男達が、真剣な表情で踊っていた。

「ここじゃなさそう……」

 そう言って扉から離れたりん。だが、風の宮は中々離れようとしなかった。じっと見つめている。

その視線の先には、黄色いTシャツにダボッとしたスウェットを着ている男がいた。年齢はりんと同じくらいだろう。

「りん……見てみろ。化けてはおるが、あれではわしらにバレバレだぞ」

「え?」

 よく見ると、確かに人間とは違う雰囲気をまとっていた。ハッキリ言えば、どこか神々しいというか。

「りん、あの黄色いのを連れ出せんか」

「……やってみます」

 確か名前は、テレビで見て覚えている。石島だ。

「石島さん、少しお時間の方宜しいでしょうか。雑誌の取材があるのですけど」

「えっ……俺?」

「はい」

 頼む。引っかかってくれ。

願う様に彼を見つめていると、「いいよ」と言って部屋を出てきてくれた。

心の中でガッツポーズをとり風の宮の待つ人気の少ない廊下へ移動する。3メートル離れるのが限界な彼にとって、この待ち時間は地獄になるだろう。早く会わせないと、その気持ちが強かったのか、いつの間にか早歩きをしていた。

「……ねぇ。本当は雑誌の取材じゃないんでしょ?」

「……はい?」

 バレたか。そう思い引きつった笑顔で振り返ると、そこにはりんを見下ろす彼がいた。

「耐摩の波長を感じるし……物の怪の臭いもするし」

「物の怪? 何の話しですか?」

「誤魔化すなっ!」

 驚いた。彼は片手でりんの肩を壁に押し付ける。

「ここは霧もないから……師匠がいてもおかしくない」

「……わかってるなら、呪いをかけるなど考えぬことだな」

 背筋が凍るような声だった。目の前の男は目を見開いて硬直している。振り返るのも恐ろしいのか、苦笑いを浮かべていた。

「……灰喃はいなん。心を改め天界に戻るのだな」

 風の宮がパチンと指を鳴らした。

その瞬間、灰喃は硬直したまま光に包まれ、消えていった。

「りん、無事か?」

「はい。全然平気です」

 静まり返った。彼はフッと薄く笑みを浮かべると、神様の姿に戻ってしまった。

「ど、どうしたんです」

「疲れたのだ。しばらく休みたい。神社へ戻ろう」

 顔色は良くなかった。すぐに事務所から出て、路地裏で待つお菊と大京の元へ駆け寄る。

「その様子じゃ、成功したんですね」

「はい……」

 まさか、こうなるとわかっていたのか。

お菊さんは風の宮の顔を見ながら、眉を寄せた。

「りん姉さんと一緒にいれば回復も早まります。神社まで行きましょう」

「はい」

 彼を担ぐのは難しい。お菊と二人がかりでやっと担げたが、身長の差のせいでバランスは悪かった。

「まったく、仕方ないねぇ」

 しびれを切らした様に大京が言う。まさか大京が担ぐのか。

「おいらはただの三つ目猫じゃないよ」

 そう言うと、大京はドロンと音をたてて化けた。しかも、相当でかい化け猫に。

「さ、風の宮様とりんは乗りな。お菊は平気だろ」

「あぁ。頼んだぞ」

 唖然とするりんを他所に、お菊は風の宮を大京の背中にのせた。りんは風の宮の後ろに乗り、彼を支える。

「じゃ、行くよ」

 心の準備もできていないまま、大京が地面を蹴った。

「と、飛んでるっ!?」

 なんと大京は空を飛んだ。しかもそのスピードが尋常じゃなく早い。反り返りそうだ。

「しっかり掴まってないと落ちるよ、ケケケケッ」

 しかも楽しんでいやがる。この猫ちゃんは。

「……風の宮さん、大丈夫ですか?」

「あぁ。だいぶ楽になった」

 風を受けながら彼は言った。確かに顔色は良くなっている。

「お前がいないと困る。これでわかっただろう?」

「……薄々と」

 なんだか素直に頷くのが恥ずかしかった。

「神社についたら、わしはすぐ本殿にはいる。お前は神社の前でおりろ」

「なんで?」

「貴島とかいう小僧に見られたらどうする」

 それもそうだ。


目下には、神社が見えてきた。階段の半ばで下ろされ、大京と風の宮はまた本殿の方へ飛んでいく。

ため息まじりに見上げると、箒を片手に硬直している貴島の姿があった。

サーッと血の気が引いていく。

「……げ、近づいて来るっ」

しかも階段を3段飛ばして追いかけて来る。

足が動かなくて、すぐ側まで彼が来ても何も言えなかった。

「今……飛んでた?」

「……」

 見られた。完全に見られたぞ。

「なぁ……お前、何隠してる?」

 無意識のうちなのだろうか、貴島はりんの両肩を掴んで揺さぶる。

りんはその手を無言で振り払って、貴島を睨みつけた。

「あんたには関係ないでしょ。そこどいて」

 我ながらなんて可愛げがないんだろう。だが今の状況ではこの言葉しか浮かんでこなかった。

一歩譲る仕草を見せない貴島。りんも目を吊り上げて彼を睨む。しばらくそうしていると、不意に後ろから声がした。

「あら浩輔、お友達?」

「げっ」

 貴島の表情が一気に変わった。その場を逃げ出す様に階段を駆け上がる。

ポカンとしていると、女の人が笑いかけてきた。

「ごめんねぇ。あの子、友達とか人とコミュニケーションとるのが苦手なのよ」

 どうやら喧嘩していると勘違いしているんだろう。よく見ると目元が彼にそっくりだ。きっと彼の母親だろう。

「いえ。私も少しキツかったですから」

「はっきり言ってやっていいからね。えっとお名前……」

「あ、羽山りんです。クラスメートの……」

 友達と勘違いしていた母親は、「あら、そうなの」と呟いて荷物を背負い直した。

きっと今日の夕ご飯のおかずだ。じゃがいもとにんじんが袋を透けて見える。

「じゃ、私は本殿にお参りしてから帰りますね」

「わざわざありがとう。一緒にあがりましょ」

 貴島とは違ってとても友好的な人だ。

「浩輔、私ともあんまり口利かなくなって……なんでも、本殿に人がいるのを見たって言うのよ」

「え……」

 背筋がひんやりとした。

「その人は煙管を持ってて、和服を着て簪を挿してる男の人だって言い張るもんだから、私冗談だと思ってからかっちゃったのよ。多分、そのせいで今ぴりぴりしてるんだと思うの」

 貴島は、もう風の宮のことを知っているんだ。

そう思うとあの能天気な神様に苛々してきた。見つかってるなら、そう言ってくれれば良かったのに。

「あの、この後貴島と話してもいいですか?」

「もちろん。多分、境内をうろうろしてると思うから」

 階段をのぼり、貴島のお母さんは自宅へ入っていった。すると、それを見計らった様に貴島が木の影から飛び出してきた。

「捕まえた!」

「え」

 りんは貴島の腕を掴み、そのまま引きずるように本殿まで歩く。

「風の宮さん、入りますよ」

「ちょ、お前なに言ってんだ……」

 貴島は目を丸くしている。りんはそにかまわず本殿に入った。もちろん、貴島も引き連れて。

「風の宮さん、ちょーっとお話があります」




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ