妹に婚約者を奪われた姉は、幸せになりました。
「お姉様。婚約者を交換して下さらない?」
いとも簡単にそう言ってくるリリアーナはアデリーヌの双子の妹だ。
互いに顔もそっくり、リリアーナに口元の黒子がある事をのぞけば見分けがつかない位に。
アデリーヌはロデルク公爵家の長女で、レイド王太子殿下の婚約者である。
一方、リリアーナはブランド・カイル公爵令息を婿に迎えて、ロデルク公爵家を継ぐ為に、ブランドと婚約を結んでいた。
アデリーヌはリリアーナに、
「そう簡単にいかなくてよ。わたくしは王太子妃教育を受けている身で。貴方は領地経営を学んでいる身でしょう」
この妹はいつもそう。
気に入らないと交換してくれと言ってくるのだ。
アデリーヌは姉だからと、いつも交換してあげた。
綺麗なお人形だって、お気に入りのリボンだって。
交換してくれと言われたら妹の為に交換したのだ。
だからってあっさりと婚約者の交換をしてくれって?
リリアーナはにこやかに、
「だって、お姉様は王妃様になるのでしょう。わたくし、王妃様になりたいの。公爵夫人どまりでいたくない。だから交換して。ただただ、姉に生まれただけで、王妃様になれるなんてずるいわ」
そこまで言われてしまった。
だからはっきり言ってやった。
「わたくしはレイド王太子殿下と婚約をして一年過ぎようとしております。今更、学んだ王太子妃教育をなかった事には出来ないわ。
「そう、それなら仕方ないわね」
あっさりと引き下がったかに見えた。
まさかあのような事をしでかすとは思わなかった。
レイド王太子殿下の部屋で、レイド王太子と妹が淫らな事に及んでいたと、連絡があって、両親と共にアデリーヌは王宮に上がった。
国王陛下と王妃、そして、レイド王太子、ロデルク公爵夫妻とアデリーヌ。そして侍女に連れられてリリアーナが現れた。
レイド王太子は言い訳をするように、
「私はアデリーヌだと思って、関係を結んだんだ。婚約者が誘惑したら乗ってしまうのは仕方ないだろう」
国王陛下が、
「結婚前だぞ。結婚前。子が出来たらどうするつもりだ」
王妃が不機嫌に、
「陛下。怒るところはそこだけではありませんわ。相手を間違えて関係に及んだと言う事です」
リリアーナが赤くなって、
「王妃様。わたくしを王太子殿下の婚約者にして下さいませ。同じ家の娘なのだから、問題はないでしょう。王太子妃教育はこれから頑張りますから」
アデリーヌは怒りまくって、
「貴方だって婚約者がいる身でしょう。リリアーナ。それを王太子殿下と不貞を犯すなんて」
「だってお姉様。わたくし王太子殿下の事が好きなのですもの」
レイド王太子は赤くなって、
「夕べの君は素晴らしかった。確かに双子なのだから、妹でも問題ないのでは?」
アデリーヌは頭に来た。
今まで王太子妃教育を真面目に取り組んで来た。
難しい事があっても頑張って来たのだ。
それなのに、妹でも問題はないですって?
そうは思っても、こうなっては諦めるしかない。
アデリーヌは国王陛下に、
「わたくしとリリアーナは双子です。レイド王太子殿下が望むなら、婚約解消を受け入れますわ。改めて妹と婚約を結んで下さいませ」
王妃が閉じた扇をパシっと手の平で叩きながら、
「アデリーヌ。そう事は簡単ではありません。王族を騙した事は大罪なの。近衛兵。リリアーナ・ロデルク公爵令嬢を床に押し付けなさい」
リリアーナは悲鳴を上げた。
父母も、
「どうかお許しを」
「リリアーナは魔が差しただけですから」
王妃は
「魔が差して王族相手に大罪を犯したですって?それが許されるならば、どんな罪も許されることになるわ。近衛兵。その女の髪を切りなさい。それからそうね。顔に傷をつけなさい。二度と、我が息子が騙されないように」
リリアーナは泣きながら、
「許して下さいっ。王妃様っーーー」
レイド王太子は震えてばかりで、言葉も出ないようだ。
アデリーヌがリリアーナを庇うように前に出て、
「王妃様。お許しを。妹は魔が差したのです」
こんな妹でも自分の妹。顔に傷が出来てしまってはあまりにも可哀想だ。
王妃はため息をついて、
「仕方がないわね。今回は許してあげるわ。でも、次はないわ。もし、次にこの娘が大罪を犯すのならば、二度と消えない傷をその顔に刻みつけてあげるから覚悟なさい。それからレイド」
「はいっーー。母上」
「双子ならば妹でも変わりない?その理屈が通るのなら、双子でなくても姉妹なら、どちらでも変わらないになるわね」
「ひいいいっ。母上。アデリーヌはアデリーヌです。大事な私の婚約者ですっ」
「よろしい。これから二度と、このような事がないように」
レイド王太子はうなだれた。
アデリーヌは相変わらず王妃様は怖いお方だとそう思った。
後日、レイド王太子はアデリーヌに、
「口元の黒子を隠されて誘惑されたんだ。リリアーナに。区別がつかなかった。私はアデリーヌがベッドに誘ってくれたのが嬉しくて」
「でもその後に、婚約者は妹でも変わらないと仰いましたわ」
「いやそれはその言葉の間違いというもので」
「まぁいいわ」
レイド王太子の事は好きでも嫌いでもない。
金髪碧眼の美男で顔は整っているが、それだけだ。
レイド王太子にとって自分は政略で婚約した相手というだけの存在なのだろう。
悲しかった。
そして同時にリリアーナの事を憎く感じた。
わたくしはわたくし、リリアーナと同じ人間ではないのよ。
別の人間なの。
わたくしだけを見てよ。
わたくしだけを認めてよ。
そんな中、リリアーナに子が出来た。
レイド王太子との子だ。
アデリーヌは泣いた。
そして許せない事に、レイドの婚約者としてふさわしくない行いをしたという罪を擦り付けられて、婚約破棄を国王陛下から言い渡されたのだ。
そして、リリアーナを新たな婚約者にすると。
どうしてなんで?なんでわたくしが悪い事になっているのよ。
わたくしが高価な宝石を買いあさった?
だから婚約者としてふさわしくない?
わたくしはそんな事をしていないのに。
そんな宝石どこにあるというの?
絶望するアデリーヌ。
リリアーナは喜んだ。
「子が出来てしまっては仕方ないわ。お姉様。ごめんなさいねーー」
父も母も、
「アデリーヌ、我慢しておくれ」
「仕方ないわ。子が出来てしまったのですもの」
これからどうすればいいの?どうすれば。
そんな中、ブランド・カイル公爵令息が王家に文句を言ってきたのだ。
「不貞ではないか?リリアーナ嬢は私の婚約者だ。それなのに、レイド王太子殿下のお子が出来た?おかしいのではないのか?私はロデルク公爵家に慰謝料を請求する」
と、直接、王家に文句を言ってきたのだ。
「勿論、レイド王太子殿下にも慰謝料を請求する」
過激な王妃が怒り狂って、
「我が王家が決定した事です。文句があるのかしら?」
「この事を、社交界に言いふらします。婚約中の令嬢に王太子殿下が手をつけたと。慰謝料を払うのは当然ですよね」
「リリアーナは、アデリーヌに化けて、レイドを誘惑したのです。悪いのはリリアーナだわ」
「でしたら、リリアーナ嬢は王家を騙した大罪人でしょう。何故、処罰しないのです?」
「子が出来てしまっては仕方ない。その子は男の子だと解っております。未来の国王になるその子の母を処罰する訳にはまいりません」
「でも、慰謝料は貰います。私の婚約者が他の男と関係を持った。それは間違っておりますから」
そしてブランドは、
「アデリーヌ嬢が高価な宝石を買いあさったからと婚約者を変えた?アデリーヌ嬢に失礼でしょう。その宝石話はどこから出た話です?彼女の無実を発表して下さい。発表しないのなら、私が社交界に今回の事を広めます」
国王はもとより、王妃は黙り込むしかなかった。
ブランドのお陰でアデリーヌの無実が証明された。
それよりも、リリアーナの悪質さが広まって。
「姉の婚約者を寝取ったそうよ。そして王太子殿下の婚約者におさまった」
「悪質な女だな」
「子が出来てしまってはさすがに王家も婚約者にするしかないだろう」
社交界で、リリアーナがレイド王太子と出席してみても、皆、遠巻きにして近づかない。
リリアーナはギリギリと歯ぎしりして。
「わたくしは未来の王妃よ。何故、皆、近寄らないのかしら」
レイド王太子はため息をついて、
「君の悪い噂が出回っているのだろう。私を騙して身体の関係を持ったという」
「だって、わたくしはレイド様の事が」
「王妃になりたかっただけじゃないのか?」
「違うわ。レイド様の事が好き。好きなのよ」
レイド王太子は思った。
リリアーナは自分の事が好きと口ではそうは言っているが、本当に好きなのか?
大勢の人達に認められたい。姉なんかよりも、ずっと自分が素晴らしいと認められたい。
承認欲求が強い女だ。
レイド様の事が好きって言葉は嘘に決まっている。
レイド王太子はそう思うと気が重くなった。
アデリーヌみたいな優しくて優秀な女性とどうして別れる事になった?
どうして自分はこの女に騙されたのだ?
全てこいつが悪い。こいつがっ……
二人は互いににらみ合った。
こんな目にあっているのは、お前のせいだとレイド王太子は言い、
リリアーナはこんなはずじゃなかったと嘆いた。
アデリーヌはブランドに礼を言いに行った。
彼のお陰で、自分が無実であり、婚約破棄された原因が無いと社交界で言いふらしてくれたからだ。
もし、彼がアデリーヌの事をかばってくれなかったら、一生、婚約破棄をされた罪を犯した女として社交界にいられなくなったであろう。
「有難うございます。ブランド様」
「いや、私はただ、リリアーナに裏切られて許せなかっただけだ。だから色々と噂を流したし、慰謝料も請求した悪い男だよ」
「リリアーナの事を愛していたのですか?」
「私に対して冷たい態度だったから。それでも政略だから仕方なく。私の婚約者がアデリーヌだったらよかったと何度思ったことか」
「わたくし、貴方の事をよく知りませんわ。何故、わたくしの方が良いと?リリアーナとわたくしは双子ですわ。似たような性格だと思いませんでしたの?」
「君が王太子妃になるために、頑張っていた事は知っている。私の妹が君の派閥に入っているから、嫌でも君の事は知っているよ。リリアーナの悪口しか言わない妹が君の話になると、嬉しそうに話すんだ。いつも色々と教えてくれる素晴らしい方だと」
「まぁそうですの。派閥の令嬢達にはロデルク公爵家の娘として恥ずかしくないようにふるまっているだけですわ」
「それに、実際に君の事を王宮でよく見かけた。ああ、そっくりだな。リリアーナに。君は毅然とした態度で、王宮の廊下を歩いていた。でも、侍女が物を落としたら、そっと拾ってあげていた。気の付く優しい人だなとその時、思ったのだ。リリアーナはそういう時は怒鳴り散らすから」
ブランドは正面からアデリーヌを見つめて、
「改めて。私は君と婚約を結びたい。君の無実は証明された。私が婿入りしても構わないだろう?」
「そうですわね。貴方のお陰でわたくしはロデルク公爵家を継ぐことが出来そうよ。貴方が望むなら婚約を申し込んで欲しいわ」
「有難う」
後に、ブランドと婚約した。
アデリーヌはブランドと婚約者として付き合う事にした。
彼と一緒にいると楽なのだ。
王太子妃教育も無くなって、ロデルク公爵家のことだけを考えていればいい。
なんて楽なのだろう。
ブランドはとても親切にしてくれた。
アデリーヌの事を常に気遣って、優しくしてくれたのだ。
リリアーナは大きくなるお腹を抱えながら、王太子妃教育を受けていた。
アデリーヌを見ると、
「お姉様はいいわね。のんびりできて。わたくしなんて、お腹が大きくて辛いのに勉強もしなくてはならない。王太子殿下はちっともわたくしに構わなくなったわ。最近では別の令嬢に夢中になっているとか」
「そう。それは大変ね。わたくしはブランド様と婚約出来て幸せよ。有難う。婚約者を交換してくれて」
「わたくしはただ、王妃様になりたかったのに」
「よかったじゃない。なれるんだから」
社交界でのリリアーナの評判は最悪だが、王妃になれるんだから、それは貴方の望んだこと。
わたくしはもう関係ないわ。
今はただ、優しい婚約者ブランドとの日々が大切。
ブランドとの逢瀬を楽しみに思いながら毎日を生きるアデリーヌであった。




