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不死の刑  作者: 原田広


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9/9

宇宙の終焉

ユキトの告白と、彼に課せられた罰の非情な仕組みを聞いたイシザキは、もはや恐怖や憐憫を超越し、哲学的な問いに行き着きました。


イシザキは、ユキトの言葉に深く沈黙した後、独房の冷たい床を見つめて尋ねました。

「…あなたの罰は、死ぬことも、眠ることも、思考を止めることも許されない。では、この罰は……この地球が、この宇宙が存在する限り、続くのですか?」

ユキトの目は、動かない肉体の限界を超えて、イシザキにまっすぐに向けられました。

「理論上は、そうだ」


ユキトの処置を設計した科学者たちは、彼に施された「再生と固定」のシステムについて、一つの仮説を立てていました。

「私のシステムは、私個人の生命エネルギーに依存しているのではない。それは、宇宙全体のエントロピー(熱力学の不可逆性)が崩壊しない限り、機能し続けるように設計されている」

彼に埋め込まれたナノマシンは、極めて微量な周囲のエネルギー、たとえば、宇宙背景放射や地球の地熱、さらには分子の振動までも取り込み、生命維持システムの自己修復に利用し続ける。

「私が完全に停止するのは、宇宙が熱的死を迎える時だ。全てのエネルギーが均一に拡散し、活動も思考も不可能な絶対零度の状態になった時、初めて私のナノマシンはエネルギー源を失うだろう」

それは、人類の歴史が始まる遥か未来、数十億年から数兆年後の話です。


ユキトは、かすかに、しかし力を込めて続けました。

「私の処罰は、私が生み出した『永遠の地獄』の責任を、人類の歴史を超越した時間軸で取り続けることなのだ。私は、人類の科学が犯した究極の傲慢の、最後の生き証人として、ここに固定されている」

イシザキは、頭上の天井を見上げました。この分厚い鋼鉄とコンクリートの向こうには、太陽があり、銀河があり、そして遥かな未来の熱的死が待っている。彼の職務は、その途方もない時間の一部に過ぎないが、その重さは宇宙の終焉まで続く。

「私は、地球が滅び、太陽が膨張し、太陽系が消滅しても、このシステムが機能する限り、老いた身体のまま、暗闇の中で意識を保ち続けるだろう。これが、私という存在に課せられた永遠の管理なのだ」


イシザキは静かに立ち上がりました。彼の中の絶望は、いつの間にか、受け入れに変わっていました。彼の職務は、ユキトに救済を与えることではない。彼の存在の「永遠の証拠」を、淡々と管理し続けることだ。

彼は、深呼吸をし、看守の制服に刻まれたエンブレムに触れました。

「わかりました、大塚ユキト」

イシザキは、声を張り、看守としての職務を全うする声に戻しました。

「私は、あなたの担当看守として、定められた任務を遂行します。あなたの監視記録は、私の次の世代、さらにその次の世代へと、引き継がれるでしょう」

彼は独房の扉に背を向け、最後にユキトに語りかけました。

「あなたは、永遠に生き続ける。そして、私は、この地球が存在する限り、あなたの永遠を管理する、人類の責任を背負います」

イシザキは重いドアを閉め、金属的な音がエテルニタスの廊下に響き渡りました。独房の中には、老い、動かず、眠ることも許されない大塚ユキトが、ただ一人、数兆年先の宇宙の終わりまで続く、無限の時間を待つだけでした。


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