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不死の刑  作者: 原田広


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8/9

思考の地獄

イシザキの問いは、身体の苦痛から解放されないユキトにとって、最後の希望、あるいは最後の絶望を突きつけるものでした。


イシザキは、救いの道がすべて塞がれていることを理解し、最後の、最も恐ろしい疑問をユキトに投げかけました。

「終焉がないのなら…せめて、意識だけでも。脳を休ませることはできないのですか? 眠ること、思考を止めること、全てを忘れること…千年も続く、この記憶の嵐を、止めることは…」

ユキトの目は、わずかに、しかし確実に、動揺しました。それは、肉体の衰弱した彼に残された、最後の人間的な領域でした。

「お前は…最も恐ろしいことを尋ねたな、イシザキ」

ユキトが禁固不死刑を受けるにあたり施された処置は、彼の身体を固定しただけでなく、彼の意識と精神状態にも及んでいました。

「私の刑罰は、単なる肉体の固定ではない。それは、罪の意識の永久固定なのだ」

「刑務所の初期の段階で、ユキトの脳には微細なナノマシンが埋め込まれ。これは、記憶の減退や錯乱を防ぎ、彼が犯した罪の記憶、そして被害者たちの苦痛の記憶を、常に鮮明に、臨場感を持って再生させる機能を持っている」

「通常の人間が睡眠によって脳を休ませ、記憶を整理し、精神的な苦痛を軽減するメカニズムがある。私の脳活動は、常に低レベルながらも明瞭な覚醒状態に維持され眠ることができない」

「私は、千年間、一度も夢を見ていない。一度も、意識が途切れていない」

ユキトの声には、疲労ではなく、永遠の覚醒による拷問が滲んでいました。

「肉体は動かない。目も、まばたきすらおぼつかない。だが、私の脳の中では、千年前のあの日の光景が、数百万の悲鳴が、毎秒、毎瞬、再生され続ける。私は、自分自身の記憶という名の地獄から、逃げることが許されない」


最初の数百年間、ユキトは何度も試みました。

「無になろうと試みた。壁の模様を数え、音を無視し、意識を宇宙の果てに飛ばそうと試みた。全て無駄だった」

「ナノマシンは、脳の活動レベルが危険域に低下すると、微弱な電気パルスを放出し、思考を強制的に再起動させる。それは、脳の自己防衛本能を利用した、完璧な拷問だ」

ユキトの刑罰は、最終的に、人間の精神の最も深遠な部分を、自発的な休息から隔離するという、極めて非人道的なものでした。

彼の身体は、老いて動かない。しかし、彼の精神だけは、千年前の罪を背負ったまま、永遠に若々しく、そして永遠に苦しみ続けるように固定されていたのです。

「私は、肉体的な不死を得たのではない。私は、永遠に続く後悔という、精神的な不死を与えられたのだ」


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