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不死の刑  作者: 原田広


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救済の否定

イシザキは、ユキトの言葉に凍り付いた。彼は、目の前の動かぬ老人が、ただの受刑者ではなく、社会の倫理的基盤を支える生きた柱であるという事実に直面した。

「永遠の証拠…」イシザキはつぶやいた。「しかし、そのために、なぜこれほどまでの罰が必要なのですか? あなたが犯した罪とは、一体何だったのですか? なぜ、あなただけが、死の救済を永遠に禁じられなければならないほど、重いのですか?」

ユキトは、長い沈黙の後、息をするようにかすかな音を発した。

「それはな…イシザキ」

彼は、まるで千年の時間そのものが語りかけているかのような、重く、乾いた声で語り始めた。

「私は…不死を、商売にした」

イシザキは戸惑った。「不死を商売に? それは、誰もが望んだことではないのですか?」

「私の時代、不死身処置は、特権階級の富裕層のみに許された技術だった。それは、病気や老衰からの解放であり、永遠の若さを保つための、究極の商品だった」

ユキトは、その時、この社会が憎悪し、永遠の罰を与えなければならなかった、自身の正体を明かした。

「私は、その不死身処置を提供する、巨大企業の最高責任者だった」

「それが…罪なのですか?」

「罪はそこではない。罪は、私が不死のシステムを、意図的に破壊したことだ」

ユキトの瞳が、一瞬だけ、千年前の冷酷な光を宿したように見えた。

「不死身処置は、完全ではなかった。私たちの初期システムには、重大な欠陥があった。一度処置を施された者は、肉体の老化は避けられないが、精神の摩耗は防げない。何世紀も生きれば、やがて正気を失い、ただの生きた屍となる。私はそれを知っていた」

「だが、私は富と権力を維持するために、その欠陥を隠し、システムを広げ続けた。私自身も処置を受け、永遠の支配を目論んだ」

そして、事件は起きた。

「私は、競合他社を排除するため、全システムにウイルスを仕込んだ。そのウイルスは、処置を受けた人間全員の細胞の再生能力を停止させた。完全に破壊するのではなく、ただ、その時点の肉体状態を永久に固定するように仕向けた」

ユキトは、自らの身体を見下ろした。動かぬ、永遠に老いた肉体。

「その結果、私の処置を受けた数百万人の富裕層が、一斉に死ぬことも、回復することもできない状態に陥った。彼らは、病気のまま、老衰したまま、事故に遭ったそのままの状態で、永遠に、苦痛の中で生き続けることになった」

「私は、人類に『死』の救済を否定する技術を与え、その技術を悪用することで、数百万人の命を、『生きたままの地獄』に突き落とした。さらに、その混乱に乗じて、私は世界を支配しようとした」

彼は、自分自身の身体に刻まれた罰を指し示した。

「私への罰は、私が数百万人に与えた罰を、私自身が永遠に受け続けることだ。老いた身体で、私はその罪の記憶を、彼らの苦痛を、毎日反芻する。救済がないのは、私が救済を否定したからだ」

イシザキは、立ち尽くした。ユキトの罪は、一人の人間を殺したことではない。それは、人類の永遠の命のシステム全体を破壊し、永遠を地獄に変えたことだった。

「…私の罰は、私が生み出した、究極の地獄の責任を取ることなのだ」


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