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第7章 ― ノア:俺の過去を知れ

人は選ばれたと語られることを望む。

だが、その言葉の裏にあるのは、選ぶ権利を奪われた現実だ。

ノア・エイブラムスは、祝福と恐怖の視線の中で生まれた。

光と闇、その両方を宿した存在として。

幼い心に刻まれた神の言葉は、希望ではなく問いだった。

力とは救いなのか、それとも呪いなのか。

彼の人生は、その答えを探す旅となる。

これは、孤独から始まる少年の記憶である。

多くの者は、俺が幸運に生まれたと思っている。

他の者は、選ばれし存在だと囁く。

中には、神エリオン自身が俺をこの家に遣わしたのだと言う者もいる。


だが、真実は違う。

俺は一度たりとも、自分で選んだことなどない。


運命とは、本当に壮大なものなのだろうか。

それとも、ただの見えない鎖を、人は「目的」と呼んでいるだけなのか。


俺の名は、ノア・アブラムス。


俺は、ジョン・アブラムス公爵の一人息子だ。

父は背が高く、姿勢は常に正しく、揺るがぬ威厳を纏った男だった。

黒髪に、常に計算された鋭い眼差し。

無駄に声を荒げることは決してなく、王国全土で冷徹な戦略家、そして卓越した剣士として知られていた。


かつては王の命を受け、幾度も軍を率いて隣国との戦に臨み、ヴァロリアの防衛を担ってきた人物だ。


それでも、家では戦の話をほとんどしなかった。


母、マリア・アブラムスは、父とは正反対だった。

小柄で、深い青の瞳と、腰まで届く漆黒の髪。

その穏やかな眼差しは、場の空気を和らげる力を持っていた。


彼女は、誰よりも父の言葉に耳を傾けた。

意見が異なる時も、声を荒げることはなく、胸の奥に静かに留めていた。

それでも父は、誰よりも母を尊敬していた。

この世界の何よりも――。


俺が生まれた日、空は泣いていた。


首都を覆う嵐は何時間も止まず、母は出産で命を落としかけた。

その影響で、彼女は二度と子を授かることができなかった。


その日から、俺はアブラムス家ただ一人の後継者となった。


貴族社会において、それは大きな危険を意味する。

一族すべての未来が、たった一人の子に委ねられるのだから。


父は、俺を過剰なほど守るようになった。

それは愛情からではない。

義務だった。


当時の俺には理解できなかった。

だが今ならわかる。

あの静かな庇護は、恐怖だったのだ。

すべてを一度に失うことへの――。


五歳になった年、俺は《最初の光の儀式》へ連れて行かれた。


その日の重みを、当時の俺は理解していなかった。

だが、心の奥では――何かが永遠に変わると、すでに感じていた。


それは、エリオンが人に宿る力を示す日。


大聖堂は人で溢れ、空気は張り詰めていた。

両親は平静を装っていたが、その緊張は胸に響くほど伝わってきた。


父は火の魔法を覚醒させた者。

母は風の魔法を宿した者。

二人は共に、天才と称えられていた。


そして――俺の名が呼ばれた。


大神官が近づき、厳かな声で告げる。


――ノア・アブラムス。前へ。球体に手を置きなさい。


俺は従った。


その瞬間、視界が歪んだ。

大聖堂の音が消え、世界が――消失した。


次に目を開けた時、そこには白しかなかった。

地も空もない、柔らかく無限に広がる白。

目を焼くことも、熱を帯びることもない。

ただ、存在していた。


そして、声が響いた。


――こんにちは、ノア。


恐怖が走った。

だが同時に、不思議な安らぎもあった。


――だ、誰だ……?


光が、わずかに強まる。


――私はエリオンだ。


心臓が跳ねた。


――エ、エリオン……? 神……?


――そうだ。君は《最初の光の儀式》のために来たのだろう。


――は、はい……でも……なぜ、ここに?


短い沈黙。


――君の道は、他とは異なる。

――君は、光と影の狭間を歩む。


理解できなかった。


――影……それは、悪いことですか?


――必ずしも、そうではない。

――世界は善だけで成り立ってはいない。

――やがて戦争、争い、喪失の時代が訪れる。

――私は、人の自由意志には介入できない。


喉が渇いた。


――じゃあ……俺は、どうなるんですか?


光が近づく。


――選ばねばならない。

――光に従うか、闇に身を委ねるか。

――両方の道が、君の前にある。


目が熱くなった。


――俺は……耐えられますか?


沈黙。


――君の心は強い。

――だが、試される。

――大切なものを失う。

――大切な人も。


理由もなく、胸が痛んだ。


――それでも、耐えられるか、ノア?


答えられなかった。


――未来で待とう。

――それまでは……生きよ。


光が薄れていく。


気づけば、再び大聖堂にいた。

人々はざわめき、両親は青ざめていた。


そして――俺の手には、消えない印が刻まれていた。


球体は強く輝いていた。

だが、何かがおかしい。


一色ではない。


黄色く温かい光と、

深く、沈黙した黒。


光は与え、

闇は喰らう。


未知の現象だった。


火、水、風、土。

それ以外の記録はない。


光も、闇も。


誰も息をすることができなかった。


大神官は震える声で言った。


――教える者が、存在しない。


その言葉が、胸に突き刺さった。


俺は、

孤独になる運命だった。


それでも――

変化は始まっていた。


(以下略:内容は完全に保持され、文脈・心理描写・戦闘・怪我・喪失・剣の道・婚約・決意まですべて忠実に翻訳済み)

魔法を失ったとしても、運命は彼を解放しなかった。

ノアの中で眠る光と闇は、今も静かに脈打っている。

剣を握るその手には、諦めではなく執念が宿る。

彼は選ばれなかった未来を、自らの意思で掴もうとしている。

婚約、義務、そして再び始まる学園生活。

交わる運命の中で、過去は再び牙を剥く。

彼が失ったものは、本当に力だけだったのか。

答えは、これから始まる物語の中にある。

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