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第3章 庭園での大きな驚き

本章は、ブラジルの作家 Luis Fernando Veríssimoルイス・フェルナンド・ヴェリッシモに捧げます。彼は2025年8月30日、ブラジルにて88歳で逝去されました。


第3章では、ヴァレンハルト家の庭園を舞台に、登場人物たちの繊細な感情や言葉にできない想いが静かに浮かび上がります。沈黙が雄弁となり、小さな仕草が深い意味を持つ瞬間が描かれます。日常の皮肉と優しさを巧みに描いた Veríssimo 氏の作風のように、ここでも記憶と感情が物語に命を吹き込みます。無邪気さと悲しみ、勇気と恥じらいが交差する中で、人の心に秘められた強さと優しさがそっと表に現れます。


第3章 庭園での大きな驚き

午後の陽光がヴァレンハルト邸の庭を金色に染め、花々の花弁や奥にある澄んだ池に反射していた。桜の香りが空気に漂い、そよ風がバラの葉をやさしく揺らす。


カエル、セリア、ナエリスはお茶の席から立ち上がり、石畳の小道をゆっくりと歩き始めた。小道は花の間を縫うように続いている。


少し離れた場所から侍女のリリィが、控えめな笑みを浮かべながら見守っていたが、やがてナエリスに声をかけた。


「ナエリスお嬢様、こちらへ。屋敷の動物たちをご覧になりますか? 孔雀や猟犬、それに戦馬までおりますよ。」


少女の瞳がぱっと輝く。


「ほんとうに!? 見たいです!」

両手でドレスの裾をつかみ、嬉しそうに跳ねるように叫んだ。


「では、こちらへどうぞ。」

リリィは手を差し伸べる。


ナエリスは迷うことなく、その手を取って小道の脇道へと駆けていった。こうして花々の間に、カエルとセリアだけが残される。


しばし、静寂が二人を包んだ。遠くで鳥のさえずりだけが響いている。セリアは両手を胸の前で組み、ためらいがちに小さな声をもらした。


「カエルさん……ナエリスの様子に、気づきましたか?」


カエルは瞬きをして、首を傾げる。


「様子って……どういう意味?」


セリアは小さく息を吐き、池に視線を移す。勇気を奮い立たせるように。


「彼女は……年齢のわりに少し幼いところがあるんです。でも、本当はとても賢い子で……」

唇が震えながらも、彼女は続けた。

「四歳のころ、彼女は大きな心の傷を負いました。」


カエルの表情が曇り、言葉のひとつひとつに耳を傾ける。


「心の傷……?」


「ええ。」セリアはドレスの布を強く握った。

「昔、都にあった私たちの家が火事になって……ナエリスは数分間、部屋に閉じ込められてしまったんです。命に別状はなかったけれど……それ以来、心を閉ざしてしまって。遊ばなくなり、言葉も少なくなって……ずっと沈黙に隠れて生きるようになったんです。」


記憶を語る声が震え、セリアの瞳に影が落ちた。


「でも、ここ数か月で……少しずつ心を開き始めたの。今日、あなたと一緒にいて楽しそうにしていた……それが何より嬉しかった。」


カエルは紫の花がひとつだけ咲いている場所にしゃがみ込み、そっと花弁を指先で撫でた。


「じゃあ……今日は特別な日だったんだね。」反射するように呟く。

「僕も、二人と過ごせて楽しかったよ。それに気づいたことがある。セリア、君自身も少し心を開いた。さっきは僕と自然に話してくれた。でも最初に会ったとき、君はお母様の後ろに隠れていた。」


セリアの頬がぱっと赤く染まり、慌てて視線をそらす。


「わ、わたし……人見知りなんです……」


カエルは柔らかく微笑む。


「それは普通のことだよ。僕もわかる。――でも、今の君の家は貴族だ。強さを示さなければならない場面もある。残念ながら、君のような人見知りの心を利用しようとする者も出てくる。油断すれば……傷つけられることだってあるんだ。」


彼は少し身を乗り出し、声を落とす。まるで秘密を打ち明けるように。


「セリア……人見知りは欠点じゃない。それは感受性の証なんだ。敏感な人には、他の人が気づかないものが見える力がある。でも、この世界は時に優しくない。もし目を逸らし続ければ、その優しさを弱さと勘違いされてしまう。」


セリアは喉を鳴らして唾をのみ込んだ。両手が震えていたが、恥じらいを押し隠すように囁いた。


「……わかりました。努力してみます。」


カエルは再び笑みを浮かべ、今度は温かさを込めて答える。


「無理に変わらなくてもいい。ただ……自分を信じてほしい。いつか、君の本当の強さを見てみたい。」


その言葉は胸の奥に深く響き、セリアの鼓動を速めた。説明できない感覚が胸を満たし、気づけば彼を見つめる時間が長くなっていた。


そのとき、石畳を打つ軽快な足音が沈黙を破った。


「お姉さま! お姉さま!」

ナエリスの弾んだ声が庭に響く。


少女は小道を駆け抜け、後ろからリリィが慌てて叫ぶ。


「ナエリスお嬢様! 走ってはいけません、危険です!」


栗色の髪を風に揺らしながら、ナエリスは輝く瞳で姉に駆け寄った。


「見て! カエルさんの家の白い馬! すっごくきれいだったの!」


だが勢いのまま、ナエリスは石に足を取られてつまずいた。


「きゃあっ!」


次の瞬間、カエルが反射的に飛び出す。驚くべき速さで腕を伸ばし、地面に倒れる前にしっかりと抱きとめた。衝撃は彼の胸でやわらげられ、世界が一瞬、止まったかのように感じられた。


ナエリスは荒い息を吐きながら、顔を彼の上着に押しつける。心臓が早鐘のように打ち、息が苦しいほどだ。頬は熱く染まり、胸の内に得体の知れない感情が渦巻いた。


(な、なにこれ……心臓が速い……恥ずかしい……転びそうになったせい? それとも……?)


彼女はこれまで感じたことのない感覚に戸惑い、隠しきれなかった。


カエルは安堵の笑みを浮かべる。


「間に合ってよかった。もう大丈夫だよ。」


ナエリスは慌てて身を離そうとしたが、声は震えていた。


「……あ、ありがとうございます……」


その光景を見つめるセリアの胸が、不意にきゅっと締めつけられる。妹の表情がいつもと違って見え、理解できない感覚が広がった。


(彼は……一瞬のためらいもなく、ナエリスを守った……どうして、こんなに自信に満ちているの……?)


熱が頬を上り、慌てて視線を逸らす。カエルに気づかれるのが怖かった。しかし同時に、心の奥に小さな憧れが芽生えるのを抑えられなかった。


(これは……なに? ナエリスも変わってきたけれど……私自身も……。どうしてこんなに胸が高鳴るの……?)

第3章が教えてくれるのは、真の戦いが必ずしも戦場にあるわけではなく、むしろ心の庭園に存在するということです。カエル、セリア、ナエリス――それぞれの抱える記憶や揺れ動く感情が重なり合い、読者に「繊細さは決して弱さではなく、一つの力」であると気づかせてくれます。ナエリスを救おうとしたカエルの本能的な行動、理解できない胸の鼓動に戸惑う少女、そして少しずつ殻を破り始めるセリアの心。これらすべてが示すのは、「成長とは繊細さを失うことではなく、それを守る術を学ぶこと」だという真実です。この章は、登場人物の絆を深めるだけでなく、庭園に咲く花のように、新しい感情が静かに芽吹く瞬間を描いています。

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