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君との恋を、ファムファタルの箱庭の中で  作者:
最終章 箱庭の夜明け
96/104

95 死んでから初めて知る「自分の笑顔」ってあるのかも

 恐怖の幕引きは呆気なかった。

 犯罪者(ソーマ)は、降臨しきる前の安易な拾い食いにより、とっくに自滅していた。彼が企み、準備し、心待ちにしていた性犯罪(ゲーム)実現(クリア)不可能だったのだ。


 「っし。どうよ、レルム?」

草間がバリカンを置いた。鏡を手渡す。

 木綿のシーツを散髪ケープ代わりに上半身へ巻き付けたレルムが、受け取った鏡を覗き込んで安堵のため息をもらした。

「ありがとう。助かった。べりしょって楽だな、頭が軽い」

 草間はベールを顔に垂らしながら笑った。

「なー? でも頭スースーするだろう? 風邪に気をつけろよ、これから寒くなるしなー」

そして、同じ部屋にいるもう一人の男に顔を向ける。

「あんたもありがとな、カイザル。鋏とバリカン(つくってくれて)

 窓際の椅子に座って長い脚を組んでいる男は軽く手を挙げて応えた。ふいに足元で風が起こり、どこからともなく現れた水が、床やレルムを撫でていく。少し温かい水は川のように流れ、切られた髪を内包して浮かび上がるや窓の外へ移動し…4階から、ばしゃんと地に落とされた。勢いよく。

 見守っていた草間の口元がひくっとひきつった。レルムが頭を抱える。

「…いや…そういうとこだぞ…あんた。散らばった髪と濡れた外壁…後始末はどうすんだよ…?」

カイザルはきょとんと目を見張った。ゆっくり外を覗き込み、外壁に人毛がまとわりついた怪奇の館(のろわれたの?)を眺めて「…なるほど?」と呟いた。そして豪快に笑いだした。

「ははっ! またおせっかいだったわけだ。オレの良かれは誰かの迷惑。死んでも治らないとは困ったもんだなぁ?」

 そのまま笑い続ける壮年の男に、草間はげっそりした口調で呟いた。

「だから何で嬉しそうなんだよ…? おかしいな、オレの前世なのに。笑いのツボだけ理解できねぇんだが???」

レルムは散髪ケープ代わりにしていた布を畳みつつ答えた。

「別人なら…そういうものなんだろう。多分。それよりカイザル…(それ)はいるのか? おれは不要に思えるが」

 軽快に笑う壮年の男(カイザル)は鉄格子の中にいた。

 4階の客室に入るなり、カイザルは魔法で檻を作り出したのだ。正面以外は鉄格子を壁に埋め込み、広い客室を面会室と牢のふたつに区切ったのだ。

 ふたりがあっけにとられている間に、カイザルは悠々と鉄格子に歩み寄り、中に入った。歩きながら牢の入口を閉じると、魔法で鍵穴を潰してしまった。もはや出れないし誰も入れない。振り返りもせずに己を監禁状態においた男は、続いて魔法で身なりを整えた。

 一歩歩くごとに無精ひげは消え、濃い水色と白が入り混じる乱れた髪が整いロマンスグレーに、汚れた貫頭衣は上質な紳士服に変わる。足音も、木靴の音から革靴の音へ変化した。ふわりと男物の香水が部屋中にただよう。すらりとした細身の身体と美貌が相まって、まるで演劇の俳優のようだ。それにしては覇気というか畏怖がありすぎるが。魔王が人間に扮しているような雰囲気が漂っているが。発する空気が紫なんだけど…これ何? わかんね。レルムと草間は雰囲気で「分からない」ということを分かりあった。

 魔王さま人間に仮装中(カイザル)は、窓際で立ち止まった。腕を軽くふって黒檀製の椅子を生み出す。窓際に配置するや、堂々と座ってそのまま落ち着いてしまった。


 レルムと草間が「横になれ」「いや髪切るくらい」「いいから寝てろ」「うっせ過保護か」「いい歳して駄々こねるな怪我人」「ほざけ氷像。てめぇは座れ」「おまえは寝ろ」…などとベール越しにメンチきりあう姿を鉄格子ごしに眺めている。その顔には、いつの間にか片眼鏡(モノクル)があった。似合うが…胡散臭さが増していた。

 取っ組み合い寸前で、渋々レルムが引いて(相手が怪我人なので話し合い(わからせ)不可能。あと単純に暴れて服ダメにしたらもう軍服(きがえ)がない)椅子に座り、草間が散髪の準備をはじめると、魔王様はふと思いついたという顔をして「便利な物があるだろう。使え」と魔法をくりだした。

 草間の手に鋏とバリカン(みらいのどうぐ)が現れる。

 バリカンは、草間が使い慣れた電動式の同メーカーの物だった。

贋物(なんちゃって)だ。危険はないが消耗品(つかいすて)だな。まぁ普通に使えるぞ」

カイザルは言い、草間が「ものは試し」とスイッチをいじれば馴染みのある振動が手に伝わってきた。本当に普通に使えた。レルムの後頭部にあるつむじが、なお君(おとうと)と同じ位置と向きだったので、草間はちょっと泣きそうになった。まるで本来の日常が戻ってきたかのようで、郷愁が深まったのだ。そういう意味ではMP吸収魔法(きりょくもってかれ)攻撃かもしれない。魔王さま(カイザル)にその気はなさそうだが。


 カイザルは本当に戦う気がないようで、今も、自宅にいるかのようにわが物顔でくつろいでいる。

 困惑するレルムが「牢いらなくね?」と告げるも、彼は片眉をあげるだけで静かに微笑み続けた。その雰囲気は邪悪。黒ずんだ紫。ラスボスの部屋から漏れ出すアレのごとく。

 草間はちらりと思った。

(古いRPGの最終戦で最初の数ターンは攻撃してこないタイプのラスボスっぽい…「不気味に微笑んでいる」ってやつ…)

いやそんな発想はさすがに失礼だろオレ最悪、と、勝手にダメージ食らう(おちこむ)草間を後目に、レルムは首をひねりながら続けた。

 「実はまだよくわからんのだが…今のあなたが危険でないことはわかる。加害の意思がないことも。

 皆に…特に双子には、出来る限りの説明をしてほしい…が。別に、普通に暮らせばよくないか。

 敵じゃなければ、おれたちは受け入れる。双子だって…なぁ? お仕置きはされるだろうが。そこはガンバレ。

 で、終わったら居場所を作ればいい。おれの勘だが、あなたはそれが出来る人間だろ?」

 カイザルは鷹揚に瞬きをして、口を開いた。

「意味なく甘いのはダメだぞ、レルム? 罪人の居場所は牢。贖う能力すらない無能は何もさせないのが一番だ。なにせ自覚がない。悪気がない。ごく自然にやらかして質が悪い…さっきみたいにな」

 レルムは草間と顔を見合わせた。同時に肩が落ちる。何か違う気がするのだが、言葉にならなかったからだ。

 レルムは告げた。

「…とりあえず、皆に連絡しようと思う。そうだ、辞書のこと…を…」

伝えなきゃ、と言いかけたレルムがピタッと動きを止めた。耳の先がピクッと動く。

 草間が「?」となってレルムを見ると、レルムの顔は急にパァァと輝いて、耳がぺたーんと垂れ下がった。瞬時にドアに飛びつき、草間が「??」と動きを追う間にドアが開かれレルムは消えた。すぐさま廊下の奥から女性の驚くような声が遠く聴こえてきた。次の瞬間にはレルムは戻ってきていた。面会室スペースの豪華なソファに。デートモードの妻(アウローラ)を横抱きにした状態で。満面(デレデレ)の笑顔で。

 「おれの戻りが待てなかったんだ? おれも会いたかった。来てくれて嬉しい。そんなオシャレして…本当にかわいいなぁ、アウローラ」

 びっくり眼のアウローラも、ハッと我に返ってレルムを見て…虹眼をカッと光らせた。

 めっちゃ短髪。見たことない。なにこれすっごく良い。お耳ペタンコまるみえ可愛い。萌える。推せる。最推し(ピッピ)しか勝たん。アウローラはデロンと溶け、甘ったるい高音(ふたりきりのこえ)で応えた。

「ええ、会いたかったの、レルム。あなたこそ素敵。髪型を変えたのね、その儀仗服も久しぶり。やっぱりすっごく似合うわ。もうメロメロ。これが、りこん状態の効果なのね…今とてもレルムだけを見ていたい気持ちなの…」

 レルムも爽やかに微笑みながら(瞳孔をエッロくバッキバキにしたまま)頷いた。

「わかる…おれもアウローラしか見たくない。その服もコートも似合うな。可愛い。脱がすのがもったいない」

 アウローラは恥じいって頬を染めた。見つめ合った目はそらせず、しかし顔だけを背けたため、流し目になる。雌豹モード。

「もう…レルムったら」語尾ハート

 レルムも耳先から顔を染めた。爽やかさが増す。

「…アウローラ」語尾ハート

 今夜は寝かさないモード肉食夫婦(バカップル)の視野には互いだけ。奇跡の虹髪だろうと伝説の聖剣持ちだろうと鳥頭は鳥頭。時も場所も場合もなにもかも忘れてふたりは囁き(さえずり)はじめた。

「レルム」「アウローラ」「レルム」「アウローラ」「レルム」「アウローラ」「レルム」「アウローラ」「レルム」「アウローラ」語尾ハート省略


 草間は感想をもたぬよう、ゆっくり目をそらした。開きっぱなしのドアをじっと見つめることに集中する。声? 雑踏(?)にまぎれてっからオレには何も聴こえねーなぁ!?

 カイザルはというと、ニヤニヤ笑いながらじっくり観察していた。憧れの動物の生態を肉眼で目の当たりにしたような表情で。鉄格子ごしなので余計に動物園にいる気分なのかもしれない。面会室(てんじスペース)を堂々と観賞(でばがめ)していた。バカップルのほうも堂々と繰り広げているので、野暮はお互いさまといえる。


 そこにひょこっとスペルモルが顔をだした。まず草間とベール越しに目が合ったので少年は目礼した。

「うちの者が悪いな、迷惑をかける。放っておいていいぞ、実害はない。そのうち慣れ…る…から…」

 スペルモルはすん、と鼻を鳴らした。表情が見る間に困惑し、香りの発信源を探すように室内を見渡す。

 そして鉄格子ごしにカイザルと目が合い、固まった。室内に一歩を踏み入れた状態で立ち尽くす。

 スペルモルは固まり続け、目があったままのカイザルは邪悪(ぶきみ)に微笑み続ける。草間は思った。

(…倒すつもりでいた怨敵の正体が、かつて自分を庇って死んだはずの師だったパターン…的な…ちょっと違うな? うーん…)

考え込みかけて、草間ははたと気付いた。苦笑する。

(いや…アンナかよ。ダメだ、あの独り言に染まりつつある。最初の頃からずっとスペルモルが聞き耳たてているから…現代語がわかる分、オレのほうがアンナの思考に馴染んでる気がすんだよなぁ)

 草間はアンナ的思考を振り払い、気持ちを切り替えた。とりあえず、今にもキスシーンに入りかねない18禁(モザイク)夫婦の元へ歩み寄り、咳払いをひとつ。…全然まったく注意をひけなかったので、カチンときた草間(チンピラ)はソファの肘置きを軽く膝で蹴り上げた。

 かすかな振動を喰らって、夫婦はようやく「自室でふたりきりじゃなかった」ことに気付いた。夫婦は慌ててワチャワチャ移動をはじめ、ソファで横並びに座る。

 姿勢良く座った(おぎょうぎいいね)夫婦の手前で仁王立ちした草間が告げた。

『当事者が揃った。この際だ、女子に報告する前に(ケジメ)つけておこうぜ』

 全員の視線が草間に集まる。

 草間は、椅子を引きずってきて牢に対面するように置いた。スペルモルを見て「座れ」と親指で指示をだす。

 レルムはソファを片手で持ち上げて、アウローラが指先で指示した位置に置き直した。兄弟を一望できる場所…交渉人(ネゴシエーター)の位置にあたるが、少々スペルモル寄りだった。未成年(スペルモル)のために、いざとなったら代理人(アトーニー)を兼ねる気なのかもしれない。

 草間はというと、檻のすぐそばに椅子を置き、背もたれに抱きつくように跨いで座った。猫背。

 それを見たアウローラはハッと気付いてクッションをひとつ掴んだ。スペルモルのもとへ急ぐ。少年の「ここでもかよ」という視線も構わず、彼の背と背もたれの間にクッションをねじ込んだ。

 最近のスペルモルは猫背ぎみなので。一気に身長が伸びているので。小柄な女子と視線を合わせるべく、身をかがめてくれるのだ。しかし癖になると身体に悪い。それを憂うアウローラは、座るスペルモルを見かけるたびにクッションをねじ込んでいる。

 今もしっかりねじ込んで、スペルモルに呆れた目で見られたが、ニコッと笑って誤魔化した。

 スペルモルはため息をついた。

 スパダリで助かる、そうアウローラが思った瞬間に、クッションは引っこ抜かれた。あっけにとられるアウローラの目の前で、スペルモルは素知らぬ顔で引き抜いたクッションを腹に抱えこみ、前かがみになった。

 アウローラが頬を膨らませて半眼で圧をかけるが、スペルモルからすれば知ったこっちゃないので無視だ。両足を開いて肘をつき、クッションに顎を乗せて兄を見据える。

 アウローラは諦めてソファに戻った。すごすご戻るアウローラを後目に、草間は(お母さんって何でみんなああいう感じなんだ? 生態がよくわからん)と思いながら口を開いた。


 『あー…そうだな。まずは情報の共有。スペルモル、2度目ましてだが改めて、オレは草間。カイザルの生まれ変わりだ。何故か前世がフツーにココにいるけども』

『?!』

 ギョッとする少年に、草間は打ち明けた。

 レルムに話した内容を同じように。疑問も含めて。牢の中で邪悪に微笑む本人(カイザル)の前で洗いざらい喋った。

 『…つーわけで、謎が謎を呼んで今に至る。

 大事だからもっかい言うぞ。スペルモル、お前の中に遺っている「憑依」、それは発動しないはずなんだよ、本来なら。

 だって、そうだろ? ハンドベル鳴らそうが、応える軍人が死んでいたなら発動し(たすけ)ようがない。遺された側からすれば不要な持ち物でしかないし、意味があるとしたら死者(わたした)側だ。助けにいけないのに、弟の防犯ブザー(ハンドベル)が鳴るのなら…兄としては安らかではいられないだろ…未練になっちまう。

 未練を消すために、草間(オレ)は不用品を回収したかったんだ。まともに説明せず無理に押し付けた「憑依(ハンドベル)」だ、今のスペルモルには明らかに必要ないしな。

 だから、レルムから「憑依」が発動したって聞いて、仰天した。ありえないってな。

 憑依して、喋って、操る。それはもちろん草間(オレ)の仕業じゃない。…何となく、カイザル(このヒト)が怪しいんだけど。…実際どうなんだよ?』

 草間がカイザルを見る。全員の視線が集まると、邪悪に微笑んでいたカイザルがニカッ!と笑った。

 とたんに消える畏怖。際立つ愛嬌。

 片眼鏡(モノクル)の似合う壮年の男(ダンディ)の魅力的な笑みに危機感を抱いたレルムが恐る恐る隣を伺う。そして(あれ? 意外に効いてない…?)と目を見張った。

 アウローラが真顔で目を細めていたからだ。珍しく、明らかに警戒を強めていた。

 カイザルはしれっと頷いた。

『それはオレの仕業だな。スペルモルが一定条件を満た(ハンドベルをなら)した。だから応えた。死んだ後もここに()()()()できたことだな。

 表に出れたついでに、アンナに小言を食らわせた。レルムの腹を探ったのもついでだ。いらぬおせっかいだったわけだが、不肖の兄心だ、許せ』

 悪びれないカイザルに、草間がため息をついた。

 静かに聞いていたレルムが手を挙げ、口を開く。

「…カイザル、聞きたいことがある。スペルモルが申し出た「対話」にまともに応えなかったのは何故だ? 夢の中とはいえ、話し合いの機会だ。諸々の誤解を含めて意思疎通のチャンスだったはずだ。ただの悪夢(だいなし)にした理由を聞きたい」

 カイザルはレルムをじっと見て、ゆっくりスペルモルを見やった。

 兄弟は再び目を合わせた。雰囲気がよく似ている。

『よぉスペルモル。追放以来だな? 顔を合わせるのも、対面(こう)して()()()()

 レルムが眉を顰め、草間が首をひねる。困惑の空気が広がるなか、アウローラは静かに様子をうかがっていた。

 虹眼の色は移ろうも、さきほどから暖色系でまとまっている。カイザルの魔力色に周波数(いろあい)を合わせるように、アウローラの虹眼はカイザルを捉えて観察していた。

(カイザルは嘘を言っていない。…今のところは。まだ画面を使うタイミングじゃないから確定ではないけど、この男は多分…。

 だとすると、スペルモルの「対話」は…「憑依(まほう)」には干渉していなかった? それならスペルモルは()と対話していたというの…?)

 スペルモルは動じない。無言で兄を見据え、ゆっくりと親指を唇に押し当て始めた。


 『レルムはああ言うが、オレは「対話」を知らない。察するに魔法だな? 夢を介して内密な話(タイマン)ができる? へぇ…やるなぁスペルモル。

 元はアレだろ「ゆめまじないの魔法」。児戯だとオレも軽んじていたが…魔法は奥深い。組み替えれば恐ろしいなぁ。いや、便利だ。オレが欲しかった』

 レルムが()()使()()()を思いつきハッと警戒するも、ベールの下で半眼になった草間が突っ込んだ。

「本っ当やめろよ、そういう意味深な言い方。いちいち誤解を招くんだよ、あんたのそれはよ」

レルムの視線を受け、草間は安心させるように頷いてみせる。

『物騒な意味じゃない。生前、悪趣味な父親(おう)に忖度するしかなかったから、兄弟で殺し合いに見せかけたギリギリの「殺し合わない」を演じてきたんだよ。

 憑依を受け入れた弟たちとは連携がとれていたが、カイザルこの調子だろ? 妹たちからはガチ警戒されて保護に手こずったんだよ。

 だから「対話(ゆめ)」で妹たちと話せたら良かったなぁ、って意味だよ、コレ』

 全員がカイザルを見る。カイザルはニカ!と笑った。

『なるほど? そう言えば伝わったのか。来世は口が上手くて助かる。通訳を頼めるか?』

やはりオレでは誤解を招くようだ、とカイザルは鷹揚に頼み、草間は頷いた。

「フツーに笑えなくもないのに…何でこう企んでそーな表情(ツラ)になっちゃうんだろうな…? 客観視すると可哀そうに思えてきた。

 別に挑発してねーのよ。率直に感想を述べているだけ。単なる雑談。けど真顔(らく)にしていると相手が怯えてピリピリしだすし臨戦態勢とられるし…ならばと愛想よくしたつもりなんだよ…淑女ならぬ紳士の微笑みのつもりで。

 まともな鏡のない時代だったから…自分の顔なんざ自分で確認できねーもんな…」


 レルムはふと思い出した。アウローラが双子に己の全身鏡を譲ったときのことを。

 そういえば神聖王国時代の鏡といえば、磨いた銅か水面だったはず。双子は、はっきりと映る現代の鏡におおはしゃぎして、しばらく鏡で遊んでいた。

 以来、双子の身なりは整いはじめた。歯の仕上げ磨きもやらせてくれるようになり、今ではほぼほぼ手が離れている。えらい。

 レルムがしみじみ双子の成長を噛みしめる間に、草間のぼやきがまとめに入った。

 『生前に皮肉った言い方が直せたとして、そんで夢で対話ができたとして…でも、その表情(ツラ)じゃ誰からも信じてもらえなかっただろうな? 話がこじれたかも…。

 ま、今回はオレがいる。こうなりゃとことん付き合ってやるよ。

 スペルモル、言いたいことあんだろ? どんどん言え。知りたいことも好きに聞け。

 ちゃんと通訳してやっから成仏(マジメ)しろよ、カイザル?』

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