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君との恋を、ファム・ファタールの箱庭の中で  作者:
第一章 ファム・ファタールの箱庭
1/31

1 知らない世界で受ける最初の洗礼

楽しく書いています。楽しい!

 アウローラがこうして異世界で空から降る羽目になったのは、先祖が持っていた古代遺物をいじっちゃったからだ。


 遺物を預かっていた国の中枢組織から「うっかり盗まれちゃったんだけど、何か不思議なこと起きたらしいよ。でもまた動かなくなっちゃった。魔法が見てみたい、エネルギー切れみたいだから補充してぇ」と聞かされたので、「いいよ」とアウローラがその遺物を起動させてみたところ、原因はまさかのセキュリティロック。どうやら王家と関係ない人が遺物の魔法を発動させたせいで二回目が使えなくなっていたようだった。

 先祖の古代遺物はアウローラの両手のひらを横に広げて並べたサイズの石板で、起動させたら光りだし、空へ照射された光の画面には解説が載っていたので読んでみた。

 古代遺物「神域投影」は、ここじゃない次元の別の世界に通じていて、不思議なその世界に干渉して色々遊べるよ。あと一方通行でよければ人も送り飛ばせるよ! というけったいな代物だった。

 エネルギーの方はしっかり八割は残っていたので「じゃあもういいか」と充填せずに、ロックだけ解除してアウローラは遺物の設定を終了させた。

 

 その結果がこれだ。

 してやられた。悪い大人に。


 「どうしても魔法が見たいです」という欲にまみれた大人たちによって、アウローラは遺物の中の世界へ送り飛ばされちゃったのだ。


(いやもう…帰れないみたいだし、ここでやってくしかないのよ、わたくしは。こうなったらどうしようもないのはわかるけど、…どうしたらいいのよー…)


 フワフワゆっくり白い石床に降り立ちながら、アウローラは内心とても途方に暮れていた。


 『女神さま、女神さま!』『新しい女神さまがいらっしゃった!』

 ワシャワシャという聞き慣れない音が周囲で沸き立ち、見渡してみれば、見たこともない生物たちが、アウローラの立つ丸い祭壇のような石床のまわりに集まってワシャワシャと騒いでいた。

 見たこともない生物には顔がなく、でこぼこした人型の野菜…魚…いや、蛇…ええと、これ何?という不思議な見た目をしていて、色とりどり、長さも様々なツノ?を揺らしてワシャワシャ会話をしている。

 その言語は、アウローラの母国であるツァウヴァーン王国の古語だった。かつて神聖王国を名乗っていた王朝中期までは一般的な言語だったが、アウローラが生まれる前にとっくに廃れている。アウローラの母が王女かつ博識な人だったことが幸いし、たまたま教育を受けていたからこうして困らずにすむが…もし現代語しか使えなかったなら、困惑も今の比じゃなかっただろうな、と肝を冷やす。

 『今回の女神さまは何だか静か!』『荒ぶらぬだろうか、ご機嫌はよろしいだろうか?』『よろしいといいねぇ…本当…よろしいと…嬉しい…』『お優しいともっと嬉しい…』

何があったのか、生き物たちの一部は遠い目をしたり、拝むようなしぐさをしている。

 とりあえず、祭壇の端まで歩いていくと、生き物たちがピーンと硬直し、様々な色のツノを小刻みに揺らして怯えているように見えたので、アウローラは立ち止まって、ゆっくりその場に座った。

『こんにちは、はじめまして。わたしの名はアウローラです』

 使い慣れないが、頑張って古語を使ってみる。猫なで声で話しかけてみると、微細な振動を発して硬直していた生き物たちが、一斉にツノをまるで猫のしっぽのように、ぐでんと滑らかに一周させた。(え、それ柔らかいんだ!?)アウローラが驚いて少し身をひくと、生き物たちは短い脚をワシャワシャと動かして(…あ、それ足音だったのね)踊り始める。

『荒ぶらぬ女神さまじゃー!』老人のような声が響くと、『救われた!』『お優しい様! 荒ぶらぬ様だ!』『ありがたやありがたやありがたやありがたや…』

 突然にお祭り騒ぎになっている生き物たちを呆然と眺めていると、ふと視界の端で、ひときわ小さい身体をした生き物が、他の生き物に押され潰れかけている。ムギュリと音をたてそうなほど祭壇の壁にめり込みかけているので、アウローラはとっさに手を伸ばした。

「え、ええ…あの、大丈夫?」

 祭壇の上から小さい生き物を拾い上げる。怪我はなさそうだな、と膝の上に置いて全体をみていると、ふと周りが静かになったのを感じた。

 『……ご加護じゃ』生き物たちの中から老人の声がぽつん、と響く。それを皮切りに生き物たちがまた微細な振動を発しはじめ、ツノがグネグネと揺れ始め

(…なんか、嫌な予感が…)

アウローラが身構えたとたん、予想通りに生き物たちがワシャワシャと激しくお祭り騒ぎをはじめた。

 『ご加護じゃー』『ぽるぽるの民にご加護が下されたー』『はりはりの王は即刻ツノをほどくべしー』『ぽるぽるの民バンザイー』『はりはりの民はみなツノを垂れよー!』『ぽるぽるの民は王を決めるべきー』『いちばんツノ立派なの誰ー?』『似たりよったり…』『はりはりの民は頭が高い! もっとツノほどいて!』『ぽるぽるの民は王のツノをまとめよー!』『まずはとっとと王を決めよー!』『だからツノのサイズがいちばん重要なんだってー』『色ツヤの良さのほうが大事だよー』

 凄まじい騒ぎに、アウローラは途方にくれて呟いた。

 「…いやいや…本当なんなの、これ…」

 そして、ふと膝の上にいる生き物を見ると、何やらぐったり力を抜いて『喜んで身を捧げますぅ…』だの呟いている。やだ…この子、勝手に生贄になろうとしてない?


 アウローラが慌てたその時、祭壇に一人の少年が乗り込んできた。

『おい…うるさいぞ。新参者が勝手なことするな。誰だ、お前』

 金髪の、とんでもない美少年だった。見た目は10才ほどで、しかし年齢にそぐわない堂々とした歩みでアウローラの傍までやってきた。腕を組んでふんと鼻で笑う姿も勇ましい。着ている服は、資料でみた神聖王国時代の貴族を彷彿とさせる。

 『はじめまして。わたしの名は『なんだ、お前は喋れるんだな。まぁでもどうでもいいよ。それより、こいつらに心寄せるなんて馬鹿な真似は二度とするな。いちいち騒いでうるさいんだよ…なんだよ、そんな貧相なのをわざわざ選んで…初めて見る種類だな。うまいのか?』

 アウローラの名乗りを遮って話しながら、少年はアウローラの膝にいる生き物をひょいとつまみ上げ、ごく自然な動作で齧った。

「!?」

アウローラは驚愕のあまり声を失って少年を凝視する。

『いまいちだな…食うなら赤いやつかツノが長いやつを選べ。甘いのが好きなら白い斑点があるやつだ』

咀嚼して飲み込み、平然とアドバイスまでしてくる。そして手に残った生き物のあまりをアウローラの膝に投げ返してきた。

 「…た、たべ…っ!?」

 恐る恐る生き物を見れば、齧られた箇所は根菜の断面のような状態だ。血らしきものも見当たらず、動かないため、もはや形の悪い野菜にしかみえない。


 でも確かに動いて喋っていたのだ、この子は。


アウローラの両目に涙がこみあげる。胸にそっと抱き寄せる。

それを見た少年は少し怯んだように顔をしかめた。

『…なんだよ。まさかお前も愛玩動物にしようとしたのか? あほくさ。こいつらは食い物だよ』

『ですが、生きていました…! しゃべっていました…っ!』

混乱したアウローラが半泣きで訴えると、少年ははっと声をあげてアウローラを嗤った。

『喋る? 鳴いているだけだ、豚や牛や植物と同じようにな。

こいつらの鳴き声の意味がわかるからって意思疎通ができると勘違いしたな、愚か者め。

こいつらは俺たちの姿なんて見えちゃいない。この会話が聞こえているわけでもない。

上位種の存在とだけ認識して、関心を向けられたことだけは感じとれるから、それを勝手に神だの加護だのと崇めて、選ばれた王がどうこうと騒いでいる。滑稽だよな。』

「…う…うう…」混乱して言葉がでないアウローラを、少年はじっと見つめて「…ふぅん?」とつぶやいた。そして、アウローラの顎を細い指先ですくいとり、顔を近づけてきた。

『…なかなかいいな、お前。ぶざまで。よく見せろ…ふうん。なぁ、名前は?』

『…アウローラです。あの…手を離してください』

首を振って指先を外そうとするが、やたら力が強い。指の腹が硬く、まるで剣を使う人の手のように…見た目は華奢で幼いが、もしかしたら武人なのかもしれない。あごに食い込んでジンジンと痛みがでてきた。

 『俺の名はスペルモル。すでに察しているだろうが、ツァウヴァーン神聖王国の王子だ。ここへ来たならお前も王家のゴミなんだろう…喜べ、名を呼ぶことを許可する。

 アウローラ。そうやって醜態さらすうちは可愛がってやるよ。

 …いいことを教えてやろうか』

 少年がニヤァリと嗤った。

 ものすごく意地悪な表情だ、とアウローラがぞっと背筋を冷やしたとき、鼻先が触れ合うほどに顔を寄せた少年が、愛らしい声を低くひそめ囁いた。

 『この世界にこいつら以外の食い物はないぞ。食わないと死ぬなぁ? お前は何日耐えられる? 飢えて我慢しきれなくなったら俺を呼べよ。お前が胸に抱いたそいつを貪るさまをこの距離で見ていてやるよ。なぁアウローラ…?』


いやなにこの子。怖すぎる。


 指先だけなのに、顎をしっかり固定されて身動きがとれない。至近距離で見る少年の目は美しいのだが瞳孔が開いていてらんらんと威圧を放っている。桃色で愛らしいその口元は禍々しく吊り上がり、心底嬉しそうな表情がこれまた邪悪な雰囲気で…アウローラは混乱と恐怖で正直、気絶してしまいたかった。


(…あああ神経が図太いせいで気絶できないぃ…こんなに怖いのに…わたくしが図太いせいで…っ)


アウローラが心のなかで助けを求めた瞬間、その脳裏に浮かんだのは、父でも母でもなく、温和に笑う一人の青年の顔だった。

ファム・ファタールその①

どんな環境でも生きていくぜ!根性のアウローラ(19)育ちが良いのでドSへの耐性ゼロ。


人生狂わされちゃった男その①

ドS美少年スペルモル(10)バチバチ権力闘争していた時代に、冷酷な兄らと女傑ぞろいの末っ子として育つ。劣等感の塊。高慢な態度は双子の姉の真似。根はわりといいやつ。面倒見も良い(無自覚)

「こんなカワイイの食べられないよう」とべそべそ泣き出すお姫様タイプの女を初めて目の当たりにし、虐める快感に目覚めてしまった。魔法の力はとっても弱い。

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