二章 三話
私と美貴は同じクラスだった。席も私が前で、美貴が後だった。
私はすごく喜んだ。美貴も喜んでくれた。
私はすぐに友達ができた。それも美貴のおかげ。私に話しかけてくれる人は殆どいなかったけど、美貴が私を紹介してくれた。
たまに聞かれた。
『二人って同じ名字で似た感じの名前だけど、・・・双子とか?』
でも、美貴は全否定した。私もした。
美貴は
「ちがうよーぉ!でも、運命感じるっ」
みんながあははと笑う。
運命。
確かにそうかも。
私はうれしくてたまらなかった。
中学校生活への不安は、いつのまにかどこかに消え去っていた。気付いたら、みんなと遊んだり、話したりしていた。
小学校の低学年の時のように。
時は過ぎて、私たちは2年生になった。
勿論、クラスは2人とも同じ。本当に運命なのかもなんて浮かれてた。
私と美貴は互いに抱き合って喜んでいた。その時は、死んでもいいってくらい嬉しかった。
でも、それが最悪の事態を招く。
中学2年生の夏、私は初めて好きな人ができた。
名前は浅田圭介君。
好きになったきっかけは、本当に単純だった。
私が日直の日、ちょうど隣の席の男子が休みで、私一人で日直の仕事をやらなければならなかった。
しかもその日は、すでに短縮授業で学校が早く終わるから、友達のみんなと遊ぶ約束をしていたのだ。
美貴と一緒に帰って、早く遊びたい。
そう思ったけどサボるわけにもいかず、美貴と友達には先帰ってて。と告げておいた。
美貴は心配そうに
「手伝おうか?」
と聞いてきた。でも、さすがにここまで美貴に頼ってはいけない。もう私は中学2年生だ。
私は笑って遠慮した。
半ば無理やり、私はみんなを帰した。
日直の仕事は、黒板を消したり、日誌を書いたりと、大体それくらい。
だれもいない、静かな教室で私は黒板を消そうとした。
下の方は消し終わり、上の方を消そうとする。
・・・あれ?
一生懸命に手を伸ばすが、どうしても一番上まで届かない。背伸びを頑張ってしたが、足がすぐ攣りそうになり、断念。
私は懸命に消そうとした。
すると、横に誰かがいた。
急いで横を向くと、少し背の高い男の子。
この人確か・・・同じクラスの・・・
私がその男子をじっと見ていると、目があった。
「あっ!・・・」
二人揃って声をあげてしまう。
「えっと・・・届かないの?」
男子がしゃべりだす。
「あ、えっと・・・はい・・・」
私ははずかしくて俯いた。顔が熱い。あんな無様なところを見られてたのか私・・・!
すると目の前に手が見えた。
「それ、貸して?消してやるよ。」
それとは、黒板消しのことだろうか?
私は無言で黒板消しを男子に渡した。
男子はらくらくと、上のほうに描かれている文字を消していく。
そして、黒板が綺麗になった。
「ふーっ。終わったよ。」
黒板消しをおいて、私に笑いかけてきた。
「あっ・・・有難うございます。じゃあ、さようなら。」
私は深深とお礼をした。そして、自分の机につき、日誌を開いた。
少し彼の足が視界に入る。足が動かない。
・・・帰らないのかな?私てっきり『さようなら』とか言っちゃったんだけど・・・
疑問に思っていると、彼は教卓の上に座りだした。
「え?」
私が顔をあげる。
「日誌一人で黙々と書いてるのって暇でしょ?俺話相手になってやる。」
え、えぇえぇ!??!?!?
「いっ・・・いいです!せっかくの短縮授業だし、もったいないですよ!?」
私は必死に両手の顔の前で振る。
「いいよ。つかさ、同い年なんだし、敬語とかやめようぜ。かたくるしいよ橘」
「あ、えっと・・・ごめんなさ・・・」
「ごめん!」
「あっ!ごめん!」
私は『ごめんなさい』ということを禁止された。というか、敬語禁止令を彼にだされた。
「あはは!おもしろいね橘って。」
おなかを抱えながら笑う彼。無邪気な笑顔が目に焼きついた。
それに、男の子に『橘』なんて呼んでもらったことないかも・・・
というか、褒められたよね今!褒め返さなくちゃ!
「そっそちら様も・・・おもしろい・・・よ!」
必死に伝えた、褒め言葉。
彼は目を丸くしてこちらを見ている。
私・・・変なこと言ったかな・・・
暫くすると、彼はまた笑いだした。
「あははっ!そちら様って・・・!もしかして俺の名前しらない?」
っっ!図星!
「あー・・・すみませ・・・」
私は視線をそらす。改めて自分最低だと思った。
こんなまだたない私の名前を知っていてくれたのに・・・
「いいよ。今話したのが初めてだもんな。俺浅田圭介。圭介でいいよ。」
「いやっ!浅田君にしとく・・・」
「まぁなんでもいいけどね。俺の名前覚えてくれたら」
そういって、浅田君は窓の外を眺めた。
横顔が、綺麗。
私は暫く浅田君を見つめていた。いや、浅田君に見とれてた。
すると浅田君はこちらを向いてきた。
「日誌、書いちゃいなよ。」
「あ、うん・・・」
私は日誌を書いた。
なぜか、ゆっくりと。
多分、浅田君と少しでも一緒にいたいから。
その間、私は浅田君と沢山お話をした。
いろいろなことを浅田君に聞かれた。
誕生日、血液型、家族構成・・・数え切れないほど。
その間に私は日誌を書き終えた。
「あ、有難う。書き終わった。」
「そう。じゃああとは担任に出すだけだな。」
これで本当のさようなら。多分これから私は浅田君と話すことはないと思う。
浅田君が話しかけてこない限り。
「じゃあ・・・ありがとう。じゃあね。」
私はかばんと日誌を持って浅田君に手をふり、教室を出て行った。
少し寂しいけど・・・これでいい。
私は担任に日誌を渡して、昇降口に向かった。
すると、信じられない光景。
「あ!早かったね。」
「あ・・・浅田君?」
「そう浅田君。送ってってやるよ。」
浅田君はそう言って立ちあがった。
「えっ!いい!まだ明るいよ!?」
「いやーいまどきかなり物騒だぜ?俺様が送っててやるよ」
言葉に甘えたいのは山々。でも・・・
「ううん。平気。その心配だけで十分だよ。それに私を襲う人なんていない。」
私はそう言って、浅田君の横を通り過ぎた。
少し歩いて後ろを見てみるけど、浅田君の姿はなかった。
送ってもらいたいけど、それはそれで家がばれる。そこで美貴と会っちゃったら・・・
私が言いだした約束は私の手によって破くことになる。
「・・・・」
自然と涙が頬と伝った。
ごめんね浅田君。
今はその気持ちでいっぱいだった。少し気を抜くと、浅田君の笑顔、声、仕草が頭をぐるぐる回っている。
そして私の胸はきゅぅと締めつけられる。
変なの。
私はまだこのときは、彼が好きだと気付いていなかった。
それに気付くのは、『死にたい。』そう思ったあの日。
こんにちわ、ゆいです。
ここまで見てくださっている方、
お疲れ様です、そして本当に有難うございます。
こんな駄文ですが、どうか最後までお付き合いください。
では。