一章 五話
気がつくと目の前には真っ白い天井があった。おそらく保健室だと思う。
でもどうして保健室なんかに・・・?
考えていると、カーテンが開いた。
「橘さん。気がついた?」
白衣を着ている。保健の先生だろうか?
「あなた廊下で倒れたらしいじゃない。昨日入学式が楽しみ過ぎて寝れなかったとかかな?」
クスクスと笑いながら言った。
そっか。私あの後倒れちゃったんだ。
でも、倒れた理由は睡眠不足というのはあってるかもしれないけど、楽しみとかじゃない。そこだけ誤解を解いとこう。
「いえ、違います。入学式は終わったんですか?」
「いや、それどころかもうみんな帰ったわよ?あなたも帰りなさい。友達が待ってるわ。」
・・・友達?
私に友達なんていないはず。
誰ですか?なんて聞けないから、とりあえず横にハンガーにかけてあったブレザーを着て、かばんをとった。
先生にお礼をいって、保健室をでた。周りを見渡したが、人影は見当たらない。
嘘ついてまで早く私に保健室を出ていってほしかったの?
私はいらついて、速足で下駄箱に向かった。
すると、私の下駄箱の前に寒そうに膝を抱えながら座ってる小さな女の子がいた。
その子は私に気付き、笑顔を見せた。
「美夏ちゃん!大丈夫!?」
美貴、だ。
心配きった顔で私に駆け寄ってきた。
さっき時計を見たけど時間は午後2時半を回ってた。多分下校時間は午前中だったから・・・
どれだけ美貴は待ってたんだろう。
昇降口は思った以上に寒い。日があたってなくて、暗かった。
「美夏・・・?」
心配そうに私の顔を覗き込む。私はそっぽを向いて、自分の靴と上履きを履き替えた。横目で美貴を見ると、下を向いて立ちつくしている。
・・・放って帰ろう。
私はいつものように美貴を無視して、歩き始めようとした。
―――――ガシッ
後ろから腕を掴まれた。
私は美貴だとわかって後ろを向かず、条件だけを聞く。
「何。」
「私・・・どうしたらいいの?」
・・・は?
なんのこと?
「美夏ちゃん・・・どうして無視するの・・・?私、何かした・・・?」
どうして無視するか?
そんなの・・・
「そんなのあんたが一番わかってるくせに。」
私は唇をかみしめながら言った。苛々してくる。なんでわからないのよ。そんなことが。
「わからないから聞いて・・・」
「ふざけんな!」
思わず叫んだ。美貴を見なくても、びくついたのがわかる。
それから、暫く信黙が続いた。
何も、言えないんだ。
「いい加減離して。」
私が冷たく言い放つと、美貴はそっと手を離した。
美貴がすすり泣きしている。
どうして泣くのよ。泣きたいのはこっちなんだから・・・
声には出さず、心にため、私は学校を出て行った。
少し歩いて、美貴に掴まれた腕を見つめる。一部がしわになっていた。
美貴の泣いている姿がまた脳裏に浮かぶ。そして、あの時の記憶が私の頭をぐるぐる回っていた。
忌々しい、あの記憶が。