二章 四話
次の日、私は教室にはいると、一番最初に声をかけてきてくれたのは浅田君だった。
「おはよう橘!」
私はびっくりして、固まってしまった。横で美貴も驚いて声もでないらしい。
すると、一人の男子が浅田君の腕をひっぱった。
「何いきなり挨拶してんだよ!おどろいてるじゃねーか!しかも『橘』て、どっちかわかんねぇだろ!」
・・・確かに。
私はフッと思わず笑ってしまった。
「あ・・・」
浅田君がこちらを見ている。
やばっ!私超失礼!
急いで謝ろうとした。
「おはよう。美夏。」
―――――――『美夏』
「おっ、おはよう・・・!」
顔が熱い。きっと私の顔は真っ赤なんだ。はずかしい・・・・。
「あれ、いつのまにお前橘美夏の方と仲良くなったの?」
男子が浅田君に問う。
「え、ああ。お前には関係ねーよ!」
そういって浅田君は男子の足を蹴り、その場から逃げた。
「いってぇ!待てよ畜生!」
そのあとを男子が追っていった。教室の中で追いかけっこしている。
私はそんな浅田君をずっと見つめていた。
すると誰かに肩を叩かれた。
「美夏。もしかして昨日私たちを無理矢理帰したのって・・・」
美貴!?
「ちっ!違う!!黒板消すの手伝ってくれたの!」
私は必死に誤解を解く。でも、難しそう・・・
美貴はにやにやしながら私の頭をなでてくれた。
「あはは。なんかあったらすぐ報告しなよ?」
「席に着こう。」といって、美貴は自分の席に向かっていった。
なんかって・・・何?
私は疑問で頭がいっぱいだった。
~~~~~~~~~
「ただいまーっ!」
今日半日はとても長かった。浅田君のことが頭から中々離れなくて。
その割に、美貴は元気に家のドアを開ける。
私もそのあとに「ただいま」と小さく言った。
のどが渇いたのでリビングに向かうと、珍しくお父さんがいた。
「あれ?お父さん今日休みなの?」
私の後ろからひょこっと顔をだす美貴。
「ああ、美貴。おかえり。」
お父さんは美貴ににこっとした。
当然、私に『お帰り』は言ってくれない。
私はお父さんを見ないように冷蔵庫に向かった。
「美夏。」
・・・びくっ!
「この間のテスト、なんだこの結果は!」
振りかえると、お父さんが私の定期テストの解答用紙を持っていた。
こいつ・・・私の部屋から勝手に・・・!
私はお父さんのもとに向かって、解答用紙を取り戻そうとした。
その手に近づいて手を伸ばすと、私はお父さんに突き飛ばされた。
――――ガコンッ!!
その拍子に電話台に頬をぶつけた。
「ちょっ・・・!美夏!!」
「美貴!」
あわてて私のもとに駆け寄ろうとする美貴だが、お父さんに腕を掴まれ部屋の外に出されてしまった。
「美貴は部屋で大人しくしていなさい。」
それだけ言い残して、リビングのドアを閉めた。
美貴はどこに行ったのかわからない。まだ部屋の前にいる?それとも・・・
考えているうちにお父さんが私に歩み寄ってきた。
「おい、答えろ。なんだこの点数は!!」
解答用紙を私に投げつけた。
・・・五月蠅い
そう言いたくても、ぶつけた頬が痛くてうまく喋れない。
ただ、歯を噛み締めるだけ。
「今度こんな点数とったらこれだけじゃ済まさないからな!」
そう言って私の腹部を蹴り、部屋を出て行った。
「ぐはぁっ!!」
蹴られたのと同時に唾が口から出る。
「げほげほ」と蹴られたおなかを支えながら息を整える。
痛い・・・痛い・・・
涙が出てきた。
痛みに耐えられなくてでた涙じゃない。
悔し涙。
悔しい。あんなに言われて何も言い返せない自分が弱くて・・・抵抗することさえできなくて。
惨めな自分に苛つく。
「・・・・」
私は暫く電話台の横に横たわっていた。
苦しさに、辛さに耐えながら。