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 目的地がわかれば、後はそこに向かうだけだ。

 シュイから自分の体に意識を戻した僕は、仲間に薬草の群生地の位置と、そこまでに障害となりそうな地形、魔物の存在を伝える。


 幾ら場所を見つけたからって、僕が先頭に立って案内をするような事はしない。

 実のところ、幼い頃は部族で狩りの訓練を受けてるから、斥候の真似事くらいはできるけれど、専門家のパーレや、優秀な前衛であるステラがいる前で、妙な我を張る意味はなかった。

 この地に来たばかりの僕なら、そりゃあ、進んで前に立とうとしたかもしれないけれど、今の僕は仲間の役割、自分の役割をちゃんと理解してるから。


「道中で問題になりそうな魔物はグレイウルフの群れ。鼻の利く連中は、風向き次第だけれど、恐らく避けて通れない。他には、避けられるけれど討伐した方が旨味があるのはレッドボアだね」

 僕が挙げた魔物の名前に、パーレが納得したように頷く。

 グレイウルフは大人の男と同程度の体重はある、大型の狼だ。

 動きが速く力も強く、更に鼻が利いて群れで連携して狩りをするという、実に厄介な魔物である。

 討伐報酬や魔石はそれなりだが、毛皮等の素材に人気がない事もあって、強いグレイウルフは割に合わない、冒険者から嫌われる魔物だった。


 一方、レッドボアは赤い毛皮の大きな猪で、その毛皮の価値はかなり高い。

 レッドボアを一頭狩れば、グレイウルフの群れを一つ殲滅したのと同じくらいには、素材の売却で金が得られる。

 タフで力は強いけれど、動きはあくまで直線的である為に狩り易く、実に美味しい獲物だった。

 ちなみにきちんと血抜き等の処置をして解体すれば、肉の味もかなり美味い。

 本当に、色んな意味で美味しいのが、このレッドボアという魔物である。


 今回の目的はあくまで薬草の採取だから、その達成を第一に考えたなら、無駄な戦いは避けるべきだ。

 しかし避けられない可能性が高い敵に関しては、最初から戦う心算で有利な態勢を整えてぶつかった方が、結果的に消耗が少なくなる場合が多い。

 また旨味がある敵に関しても、今回は冒険者組合の仕事で入山してる為、税がかからないという利点があるから、できれば狩っておきたかった。

 もちろん、本来の目的を忘れて狩りにばかり勤しむようでは、冒険者組合からも、バードレストの村からも、評価や心象が著しく悪くなってしまうけれども。


 ……まぁ、道中の障害の排除だと言い訳できる範囲で狩るくらいが、今回はちょうどいいだろう。


「いいんじゃないか? いるとわかってる敵を狩るだけなら、アタシ達なら簡単さ」

 きききっと、何時も通りに猿のような笑い声を出して、パーレが僕の意見に賛同する。

 他の二人も、特に異論はなさそうだった。


 方針が決まれば、漸く移動だ。

 パーレが少し先行し、ルドック、僕、ステラの順に続く。

 どうしてパーレが先行するのかと言えば、ステラやルドックが身に着ける金属の鎧の出す音が、敵の耳に届くよりも先に、彼女が敵を見つけ出す為。

 戦士であるステラが最後尾なのは、万一背後から奇襲をされた場合に備えて。

 いざ戦闘になればパーレが下がり、ステラとルドックが前に出るけれど、移動時はこれが僕らの基本の隊列だった。


 暫く歩けば途中でシュイが戻ってきたから、切った干し肉を与えてからもう一度飛ばし、僕らに上空から付いてくるように指示を出す。


 ハーフリングであるパーレの感覚は、とても鋭い。

 大草原で育った僕は、大体の西部諸国の人間よりは目も耳も優れてると自負するが、それでもパーレには遠く及ばない。

 恐らく僕が育った部族の戦士の中にだって、パーレより優れた目を持った者は居なかっただろう。

 尤も、酒が入ってなければの話だけれど。


「おっ、いたぜ。確かにグレイウルフが、四頭だ」

 故に予めいるとわかっていれば、パーレが敵を見つけ損なう事は、まずあり得なかった。

 引き返してきたパーレが、僕らにグレイウルフの発見を告げる。


 パーレがこうしてゆっくりと戻って来たって事は、グレイウルフはまだこちらに気付いていない。

 指を一本、軽く咥えてから空に翳せば、冷たく感じるのは前方。

 幸運にも、僕らのいる側が風下だった。

 つまりこれは、先制攻撃のチャンスって事だ。


 僕らは慎重に、なるべく物音を立てないようにしながら、パーレに案内されて、グレイウルフの姿が見える位置まで移動する。

 あぁ、いた。

 確かにグレイウルフが四頭、僕がシュイの力を借りて上空から見つけた時と変わらず、岩場の上に寝そべって休息を取っていた。

 あそこが彼らの巣なのだろうか?


 まぁ、いずれにしてもこの距離は、僕の独壇場である。

 人はもちろん、魔物だって、視線がギリギリ届く程度の超遠距離で、攻撃手段を持つ種は殆どいない。

 あるとすれば、人の場合は大魔法使いと呼ばれる人が扱う、周囲を纏めて破壊するという隕石を落とす上級魔法や、エルフの中でも特別な存在とされるハイエルフが扱う、上位精霊による大規模破壊攻撃くらいだろう。

 それらは視界の範囲外も全てを吹き飛ばす大規模な攻撃なので、僕の魔法よりも間違いなく射程は長かった。

 魔物の場合は、それこそ巨大な竜の吐息で辺り一帯が薙ぎ払われるとか、そういう場合しか思いつかない。


 要するに遥かに上澄みの世界だ。

 今の僕には関係ないし、今の状況が僕の独壇場である事も、変わらない。

 僕は心を整えて、弓を引く仕草を取った。

 魔法を使う為に集中すれば、本当ならそこにはない筈の弓の張力まで、僕の右手はハッキリと感じる。


 今回の目標は四つ。

 一射目を受けて、グレイウルフがこちらを探してもたついてくれればいいが、流石にそんな間抜けな真似は期待できない。

 すぐさまこちらに駆けてくるとして、その間に幾つ落とせるだろうか。

 僕の魔法は、速射性で言うならば、弓に比べて幾らか劣る。


 二頭は確実。

 三頭落とせたら上出来。

 四頭とも全ては、流石に望み過ぎだろう。


 グレイウルフの強みの一つは連携だ。

 数を減らせば減らすほど、その脅威は減少していく。


 僕の放った魔法の矢、その一射目は、グレイウルフの一頭の、大きな欠伸をした口の中に飛び込んで、息の根を欠伸ごと貫き止める。




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