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魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


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 レーフォム伯爵領に攻めてくるゴブリンの数は、ざっと八千から一万。

 これはゴブリン側としても、全力に近い数だと予測される。

 繁殖力の高いゴブリンであっても、万に近い数を攻めに回すというのは決して容易い事じゃない。

 恐らく前回の襲撃で、八百の軍勢が殆ど生きて帰らなかったのを、余程に脅威に感じたのだろう。


 そうなると、多産の変異種、ゴブリンクィーンが前線に出てくる事は流石にないにしても、軍勢を率いるのはゴブリン側の指導層にあたる上位種だ。

 可能性が高いのは、ゴブリンジェネラルと呼ばれる大きな体躯と高い知能を兼ね備える上位種である。

 或いは、ゴブリンジェネラル以上の能力を備えた希少な上位種が誕生し、軍を率いている恐れもあるけれど……。


 いずれにしても、手強い相手である事は間違いがないが……、それでも人間側が負けるとは考えにくかった。

 何故なら、大軍を動かす戦術、軍略は、無から湧き出す物じゃないからだ。

 高度な戦術、軍略を生み出すには、経験か知識がどうしたって必要である。

 そのゴブリンが本物の天才であっても、実際に軍を動かし、戦を経験しなければ、高度な戦術、軍略は生み出せない。

 基礎となる戦術や軍略の知識があれば、天才は頭の中でそれを発展させられるかもしれないけれど、ゴブリンは文化を持たず、代々知識を受け継いでいたりはしないから。


 ゴブリンの中に生まれてしまった天才は、ある意味、とても孤独な存在だろう。

 仲間のゴブリンはその天才を理解できないし、過去に同様の天才がいたとしても、受け継いだ知識という繋がりを持たない。

 僕は天才という訳じゃないが、自分だけが周囲と違うと感じる環境で過ごす事の辛さは、少しだが知っている。

 尤も僕の場合はステラやイクス師って理解者が身近にいたから、遊牧の民でありながら、定住する民にゆっくりと溶け込めたけれど……。


 まぁ、さておき、故にゴブリンの軍勢は手強く油断できないが、もう恐ろしい相手という訳ではなかった。

 森の中でゴブリンと戦うのはリスクが高いと判断し、人間側の軍は森の外に集結、展開し、ゴブリンを待ち受ける。

 ゴブリン相手に奇策は要らない。

 ハイリスクハイリターンな策を取らずとも基本に忠実に戦えば、軍という規模でぶつかり合えば、人間はゴブリンに負けはしない。



 森を抜けて来たゴブリンに対し、待ち受けた人間の軍から、矢が雨のように放たれる。

 狙いなんて適当だ。

 相手は一万もいるのだから、前に飛びさえすれば、当たる可能性は高かった。


 今回は、前回の戦いのように、上位の攻撃魔法は放たれない。

 何故なら魔法で狙えるゴブリンは、既に弓の斉射を受けているから。

 大勢の兵士が矢の雨を降らせているなら、遠距離での攻撃はそれで十分だ。

 魔法じゃなくてもできる事は、そちらに任せておけばいい。


 では、今この状況で、一体何が魔法にしかできないのか。

 それは前に立って戦う、死なない兵士を作り出す事だった。

 もちろん単に前に立って戦うだけなら、普通の兵士にだって可能だけれど、死なないって部分は単なる人間には不可能だ。

 けれども魔法使いの生み出すウッドサーバントやストーンサーバントなら、破壊はされても決して死ぬ事はない。

 何故なら、そもそもそこに命は宿っていないから。

 元よりないものは失いようがないのだ。


 僕を含む魔法使いは、全ての魔力を振り絞り、ついでに既にゴブリンから得ていた魔石も使って、可能な限り多くのウッドサーバントとストーンサーバントを生み出して、前線に立たせる。

 他の兵士は、ウッドサーバントやストーンサーバントを盾にしながら、槍を突き出してゴブリンと戦う。

 出し惜しみは必要ないし、ウッドサーバントやストーンサーバントは壊されても構わなかった。

 何しろ、ここでゴブリンを殺せば殺した分だけ、小さくとも魔石は手に入るのだから。


 尤も、ウッドサーバントはともかく、ストーンサーバントは、ゴブリン達の持つ木の武器じゃ破壊は難しい。

 なのでゴブリン達の中でストーンサーバントに対抗できるのは力の強い上位種のみとなるのだが、ストーンサーバントが破壊された場所には、腕の立つ冒険者が投入されて、ゴブリンの上位種を仕留めて回る。


 人間側には、ゴブリンを封殺するだけの手札が十分に揃ってた。

 単に数だけで見るならばゴブリンは人間よりも随分と多かったけれど、戦いの結果は人間側の圧倒的な勝利だ。

 万に迫るゴブリンの中には数多くの上位種がいたから、それらが上手く力を発揮すれば、或いはもう少しまともな戦いになったかもしれないけれど、それを可能とする戦術、軍略を、ゴブリン達は有していなかったから。


 総崩れとなったゴブリン達の中の一匹に、僕は一つだけ確保しておいたゴブリンの魔石を握り潰しながら、魔法の矢で狙いを定める。

 そのゴブリンは周囲のゴブリンよりもずっと身体が大きくて、更には獣の皮を鎧のように身に纏う。

 間違いなくそいつが、このゴブリンの軍の指揮官だ。

 故に他のゴブリンはともかく、そいつだけは絶対に逃がす訳にはいかない。

 他のゴブリンは、自分達がどうして敗北したのかを理解もできないだろうけれど、そいつだけは人間の戦い方を理解して、それを克服しうる可能性がある。

 だから絶対に、この場で殺す必要があった。


 尤も、体躯の大きさ、身に纏った獣の皮の鎧を考えると、この魔法の矢の一射で仕留め切れるかどうかは怪しい。

 ゴブリンの魔石から絞り出せる魔力は、所詮たかが知れている。

 ならばどうするかと言えば、僕が狙うのは逃げるゴブリン、恐らくジェネラルであるそいつの、剝き出しの膝裏だ。


 人型の生き物は殆どの場合、関節の内側が弱点になってた。

 何故ならここを強固に守ると、その関節が曲がらずに動けなくなってしまうから。

 ゴブリンもまた、人型の生き物であるが故に膝裏は剥き出しの弱点であり、ジェネラルは他のゴブリンよりも大きな体躯をしているから、その弱点もまた大きく狙い易い。

 僕の放つ魔法の矢は、狙い違わずジェネラルの膝を後ろから貫き、その身体を地に転ばせる。

 後は、まぁ、追撃を掛けた兵士達が追い付いて、転んだジェネラルの首は早い者勝ちの手柄と化す。




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