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 シャガルの町を出て徒歩で東北東に向かって二日程移動すれば、ハーバレストと呼ばれる山にぶつかる。

 ハーバレストは北部の山脈程ではないけれど、シュトラ王国の領内で言えば何番目かに大きな山で、街道を大きく迂回させてる要因の一つだ。

 この山がなければ、シャガルからワイマールの国境までの道のりも、何日かは早くなると言われてるけれど、……まぁ、山に人間の都合を押し付けても仕方ない。


 さて、ハーバレストの南の麓には一つの、大きめの村があった。

 村の名前はバードレスト。

 ハーバレストとは名前が似ていてややこしいが、山に入る入口の一つだった。


 僕らはまずこの村に入って、村長に冒険者組合からの書状を渡す。

 というのも、ハーバレストの山に入るには、このバードレストの村長の許可が必要になるから。


 あぁ、いや、少し語弊があるか。

 この南側からの山の入り口を使うなら、ここの村長の許可が必要であるというのが正しい。

 西や東、或いは北側から山に入るなら、別の村で許可を取る事が必要だ。


 何故ならこの山もシュトラ王国の領内である以上は、立派に領土の一部で、領主が納める地であった。

 ただ山は大き過ぎるし、平野に比べれば魔物も多く巣食う為、一人の領主がその四方の全てを見張り、管理する事は難しい。

 故に山の東、西、南、北、それぞれに面した領地を持つ領主がいて、山の管理も分割して担ってる。

 まぁ要するに、その領主が責任を持って、山の魔物が他に流れていかないように守ってるし、山から得られる恵みに対しては税を掛ける権利を持ってるって事だった。


 例えば、ただ単にこの南側から山に入ろうとすると、僕らは町に入る時と同じような、関税、入山税を支払わなきゃならない。

 また魔物を狩ったり、薬草等を摘んで持ち帰ろうとすると、その一部は税として領主に持って行かれてしまう。

 今回は冒険者組合からの依頼だからその辺りの税は免除される、……より正しくは冒険者組合から毎年一定の金額が領主に支払われているから、僕らが気にする必要はないけれども。


「あぁ、鈴鳴り草か。もうそんな季節だね。ご苦労様だよ。あの草は風に吹かれてなる音で、魔物を引き寄せる。群生地には魔物がいるから、気を付けていきなさい」

 村長はサッと書状に目を通すと、ふっと表情を優しく緩めて、僕らにそう忠告する。


 バードレストの村の規模が大きいのは、山の魔物に備えて村に滞在する兵士と、山に入る冒険者が、多く村を訪れる為だ。

 人が多く集まると、それを目当てに商売をする者もやってきて、この村はそうやって大きくなり、潤っていた。

 けれどもそうやって人が集まれば、トラブルの数も飛躍的に増えるだろう。

 特に冒険者は、……僕らはそうじゃないと自負するが、素行の良くない者だって、決して少なくはないのだから。


 なので村長からの冒険者への心証は、恐らく良い物ではないとは思うんだけれど、それでもこうして丁寧に、親身な忠告までしてくれるのは、僕らの仕事が子供の為の物である事と、やっぱり彼が優しい人間だからだろう。



 村から山へと入った僕らは、闇雲に歩いて群生地を探さず、比較的だが安全そうな場所で、すぐに歩みを止める。

 僕は指を輪にして口に咥え、強く強くそれを吹く。


 高く指笛を鳴らしてから、右腕を水平に掲げれば、バサリと翼をはためかせて、空から降りて来た大鷲、シュイがそこに留まった。

 ずっしりとした重みを腕に感じながら、僕はもう片方の手、その指先で、シュイの体をスッと撫でる。

 そこに、僕の意識を乗せて。


 ヒゥヒゥと、シュイは高い声で鳴いてから、シュイはバサリと翼をはためかせて、空に向かって飛び立つ。

 その時には既に、僕の意識は自分の体を離れて、シュイの体に宿ってる。


 ファミリアー、生き物を術者の使い魔にする魔法は、賢者の学院の導師になる為に、最低限必要とされる三つの魔法の一つだ。

 他の二つは、稲妻を放つ攻撃魔法のライトニングと、爆発する火球の攻撃魔法であるファイアーボール。

 そのどれもが達人の扱う上級魔法程ではないが、マジックアローのような初級魔法よりはずっとずっと難しい、所謂中級魔法に分類されていた。

 もう少し具体的に言うと、ファミリアーとライトニングが第三階梯で、ファイアボールは第四階梯になる。

 第一階梯と第二階梯は初級魔法と呼ばれ、第三階梯と第四階梯が中級魔法、第五階梯と第六階梯が上級魔法と呼ばれ、それ以上は超級魔法。

 尤もそれはあくまで難易度による分類だから、初級魔法が中級魔法に比べて絶対に優れてるとか、上級魔法の方が使い勝手がいいとか、そういう訳ではないんだけれども。


 シュイは僕が雛から育て、大草原からこちらの国に来る時に、族長の許可を得て一緒に連れて来た大鷲だ。

 僕は正直、使い魔になんてするまでもなく、シュイとは心を交わせてると思ってたし、シュイの事なら何でも知ってる心算だった。

 しかし実際にファミリアーの魔法を習得し、シュイがそれを受け入れて、僕の使い魔になってくれて、その考えは誤りだったんだと思い知る。


 当たり前の話なんだけれど、翼が風を切る感覚、空から見下ろす大地の色は、体験しなきゃ理解できない。

 使い魔に意識を載せる憑依によって、僕はシュイが生きる世界を知った。

 大鷲の生きる世界を知らずして、シュイを本当の意味で理解する事なんて、できる筈がなかったのに。

 青い空に吹く風の冷たさ、雲に触れても、その感触が無である事。

 僕はそれらを、魔法とシュイによって教えられたのだ。


 ハーバレストの山は大きいけれど、それでも空程には高くない。

 空から見下ろせば、山の全てが……、というのは流石に無理にしても、広い範囲が一望できる。

 故にこうして空から探したなら、目的の薬草の群生地や、そこに至るまでの道程にある危険を、事前に把握する事ができた。


 尤も、ハーバレストの山頂近くにはグリフォン、或いはハーピーといった、空の魔物が巣食う為、この辺りの空は大鷲のシュイと言えども決して油断はできない場所だ。

 地上を見下ろしながらも、周囲の警戒は怠らず、僕はシュイの目を借り、薬草の群生地を見つけ出す。




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― 新着の感想 ―
使い勝手、威力、やはりファイアーボールは中級の切り札でないと。
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