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魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


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 冒険者組合が出してくれた馬車に乗って四日。

 僕らは徒歩で行くよりも三日も短い時間で、レーフォム伯爵領の町、パリファントへと辿り着く。

 尤も、徒歩と違って動けない馬車での移動は、何だか体がガチガチに固まって、まるで違う自分になってしまったような気分に陥るけれども。

 今は少しでも早くパリファントの冒険者達に合流して助力する必要があったから、そのくらいは仕方ない。


 馬車での四日間は、主にパーティの名前を何にするかを相談したりして、時間を潰しながら過ごした。

 僕らは町ではバラバラに活動しているし、冒険中も普段は徒歩で、移動に集中してるから、こうして全員が集まって何かを相談できる機会は珍しい。


 僕も、ルドックもパーレも、色々と案は出したんだけれど、最終的に決まったのは、ステラが考えた『四色の尾羽(ししょくのおばね)』って名前だ。

 ステラ曰く、僕らはシュイの目で確認した情報を基に動く事が多いから、自分達は尾羽だと、そんな風に言っていた。

 すると、もしパーティのメンバーが増えたら五色、六色、七色になるんだろうか?


 いずれにしてもこれからは、この名前を僕らのパーティは名乗る事になる。

 でもこの名前が選ばれる際、誰も反対をしなかったのは、まるでシュイがパーティにとって重要な存在だと皆が認めてくれてるみたいで、少し嬉しい。


 パリファントはシャガルと比べればずっと小さな町だが、それでもレーフォム伯爵領の中心で、最も人が集まる場所だ。

 人口はおよそ五千人。

 町の様子はそれなりに活気があって、中央の通りは人で賑わっている。

 どうやら、近くの村が頻繁にゴブリンに襲われてるって話は、町の人々にはまだ伏せられてるのか、或いは知っていても、然程に深刻には受け止められていないのだろう。


 まぁ、町に不安が蔓延しているようなら、レーフォム伯爵も兵を動かそうとするかもしれないから、それが良いのか悪いのかは、僕には判断できないけれど。

 いや、逆に領主である伯爵が動かないくらいだから大丈夫って認識が、町の人々にはあるのかもしれない。

 ……もしかして、だからこそ伯爵は、安易に兵を動かさないんだろうか?

 仮にそうだとしたら、レーフォム伯爵は村よりも町に、かなりの重きを置いているって事になる。


 けれども、うん、僕が勝手に想像して、あれこれ思う意味はない。

 僕らが成すべきは、パリファントの冒険者達を手伝って、村の救援に行く事だ。



「皆さん、ありがとうございます。現在、ゴブリンの襲撃に対して、村に冒険者を派遣して対応していますが、襲撃の回数が多く、彼らにも随分と無理をさせてしまっている状態で、シャガルからの応援は本当に助かります!」

 中央の通りに面した冒険者組合を訪れた僕らは、パリファントの組合長が直々に出迎えられて、彼は頭を深く下げて、そんな風に感謝の言葉を述べる。

 シャガルでは、僕らは組合長に会った事すらなかったので、この対応には些か以上に驚かされた。


 冒険者組合は、冒険者を管理する組織だ。

 依頼を請ける、請けないの判断は冒険者に委ねられるし、冒険者は基本的に自由を好む者が多いけれど、あくまで冒険者は兵士に準じて武装を許可された予備兵力という扱いで、その許可を出しているのは、冒険者組合だった。

 もう少し正確に言えば、国から領地を与えられている領主が、町を守る一環として予備兵力の冒険者に武装を許可し、その管理を冒険者組合に委ねてる。

 なので、冒険者組合と冒険者は対等ではない。

 僕らにも意思があるから、何でも冒険者組合のいう事に無条件で従うって訳ではないにしても、基本的には逆らわないし、まさか組合長の地位にある人物が、こんなに低姿勢に出るとは思ってもみなかった。


 つまり、パリファントの冒険者組合の状況は、それ程に逼迫してるって事なんだろう。

 もちろん組合長の性格や、パリファントの町が小さい分、冒険者組合の規模も小さくて、シャガルよりも組合と冒険者の距離が近いとか、そういう事情もあるのかもしれないが。


「いえ、パリファントの危機はシャガルの危機にも繋がりますから、私達の他にも追加の応援は来るでしょう。この町の冒険者と同じように、精一杯働かせて貰います。それで私達は、どこの村に派遣されますか?」

 僕らを代表してルドックが一歩前に出て、組合長からの感謝にそう答える。

 そう、僕らはここに遊びに来た訳じゃないから、詳しい状況が把握でき次第、すぐにでもゴブリンの襲撃があるという村に移動したい。

 救援が早ければ早い分だけ、現地の冒険者は休んで体力を回復できるし、僕らはゴブリンの数を削れるから。

 一刻一秒を争うって程には焦ってないけれど、そうした状況に陥らない為にも、少しでも早く動き出したかった。


「わかりました。では一時的にですが、この町の冒険者と同様に扱わせていただきましょう。皆さんに行って欲しいのは、西のエーレン村になります」

 組合長の説明によると、レーフォム伯爵領には全部で十二の村があり、そのうちゴブリンの襲撃を受けているのはパリファントから見て西にある四つの村なんだそうだ。

 エーレン村は、その四つの中でも最も西にあり、また最も高い頻度で襲撃を受けてる場所だという。

 そうなると、西の方角にゴブリンの巣があるのはほぼ確実だと思われるんだけれど、レーフォム伯爵領の西側には、高さは然程でもないが三つの山と、それを取り囲む広い森があって、巣の捜索は困難らしい。


 まぁ確かに、村の防衛で手が一杯の状況で、森に入ってゴブリンの巣を探すのは、自殺行為もいいとこだった。

 ただ、元を絶たねばゴブリンの襲撃が終わる事もないから、パリファントの冒険者組合としても頭の痛いところなんだろう。

 ゴブリンと根競べをしたところで、人間に勝ち目はない。

 連中は延々と数を増やし続けるが、人間は戦ってるだけでは、やがて生活ができなくなる。


 レーフォム伯爵領の特産品は、リンゴとそれを加工した酒、シードルだ。

 今はまだ、リンゴが実を付ける時期には遠いけれど、ゴブリンが果樹を荒らせば、今年の収穫は絶望的になってしまう。


 だから期待されるのは、僕らや、更に後からやって来るであろうシャガルからの応援の冒険者か。

 戦力が足りれば、村から脅威を遠ざけて、ゴブリンの巣を探して、災いを根本から絶つ事もできる。

 もちろん簡単な事ではないにしても、状況を打破できる可能性が生まれるというのは、とても大きな希望だ。


 話を終えた僕らは、また冒険者組合が用意してくれた馬車に乗って更に西へと向かい、二日後に、ゴブリンの襲撃を受ける村、エーレンに到着した。



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