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 次の日、ルドックが村人に、神殿があるなら挨拶をさせて欲しいと言ったところ、困った顔をして村長を訪ねるように言われ、同様の事を村長に申し出ると、

「あの神殿の神官様は今は修行に専念したいと仰ってまして、誰も近付けたがらんのですよ。申し訳ないですが……」

 なんて風に断られてしまったそうだ。

 ルドックはそこで素直に引き下がったけれど、彼曰く、それは随分とおかしな話らしい。


 確かに三神教の聖職者は、使徒、神官、僧侶を問わず、より深く神の声を聞く為に修行を重視する傾向にある。

 だがこうした村の神殿では、訪ねてくる他の聖職者と対話をするのも修行のうちなので、ルドックの訪問を歓迎こそすれ、断るなんてどう考えてもおかしいという。

 昨日見た光景から考えると、あの小さな神殿は、デモンパウダーの加工か、或いは保管場所に使われてるんじゃないだろうか。

 その場合、あの神殿を管理していた聖職者、村長の言葉を信じるならば神官が、加工、保管に協力しているのか、或いはすでに始末されてしまっているのかが、少し気になるところだけれど……。


 するとあの林の中にあった広場や建物は、デモンパウダーの素材となる、悪魔のキノコの栽培場所か。

 いずれにしてもこの村が、デモンパウダーの生産に関わってる可能性は極めて高かった。


 どうしてそんな事をしでかしているのかと、思わずにはいられない。

 何故ならこの村は、先に調べた二つの村と比べても、ずっと豊かそうだったから。

 一体、何が不満で、デモンパウダーの生産なんかに関わってしまったのか。


 さて、後はこの事をシャガルの町に戻って報告するだけだが、残念ながらこの村を訪れた名分、ゴブリンの目撃情報に関する聞き込みが、まだ終わっていなかった。

 だから今日は、疑われない為に僕とステラも宿を出て、パーティの全員で、村人に対して聞き込みを行う。


 この聞き込みに対しては、村人達もかなり協力的で、……いや、もしかしたら単に早く出て行って欲しかっただけかもしれないけれど、色々と素直に教えてくれる。

 そうやって聞き出した話によると、この一ヵ月で二回程、十匹程のゴブリンの群れが村の近くで目撃されて、自警団が出動して倒したそうだ。

 相手がゴブリンとはいえ、魔物を相手に積極的に戦いを挑める自警団も凄いけれど、それはさておき、一ヵ月に二回というのは、僕らが話を聞いた他の村よりも格段に頻度が高かった。


 これは単なる偶然だろうか?

 もしかすると、デモンパウダーの生産拠点だけじゃなく、ゴブリンを生み出している大型の巣も、この近辺にあるのかもしれない。

 尤も、だからといって僕らにできる事は今の段階では何もないから、素直に聞き込みを続けて、今日もこの村に一泊し、次の朝にはシャガルに向けて出発しようと、そう決める。


 けれども聞き込みを追えて日が暮れて、宿で夕食を取っていると、俄かに村が騒がしくなった。

 宿を出て、走る村人を捕まえて、一体何事なのかと尋ねてみると、

「あぁ、林にゴブリンが出たんだよ。全く、アンタらが聞き回るから、ゴブリンがやってきちまったんじゃねぇか?」

 なんて言葉が返ってくる。

 尤も彼も、本気で僕らがゴブリンを呼び寄せたと思ってる訳じゃなくて、急いでいるところを呼び止められて、少し苛立ってそんな言葉を口にしたのだろう。


 しかしこれでこの村の近くにゴブリンがやってくるのは三回目か。

 明らかに、偶然で済ませられる頻度は超えていた。


「それは大変ですね……。まさか、噂をしたからゴブリンが湧いたって訳でもないでしょうが、私達も退治を手伝いましょう」

 ともあれ、ゴブリンといえども魔物が現れたのなら、冒険者の出番である。

 ここの村人がデモンパウダーの生産に関わっていたとしても、僕らのやる事に変わりはない。

 そう思ってのルドックの言葉だったのだが……、

「いや、要らねえよ。アンタらには稼がせてやれなくて悪いがな。うちの村には自警団がある。ゴブリン程度で冒険者の力を借りる必要なんてねえさ」

 まさかの、すげない断りの言葉が返ってきた。


 しかも村長でもない、単なる村人の一人からだ。

 念の為、村長にも同様の申し出をしたが、忙しそうな村長は首を横に振って、やはり断りの言葉を口にする。

 あまりに頑なな態度に少し驚いてしまうが、不要だと断られた以上は、僕らも引き下がるより他にない。

 本当ならば、僕らが村に滞在をしていた幸運を喜んで、力を貸してくれと向こうから言ってきてもおかしくない場面なのに。


 ……という事は、ゴブリンが現れたのは、林で樵達が木々を切り出している場所じゃなく、もっと奥の、悪魔のキノコを栽培していると思わしきあそこなのかもしれない。

 確かのあの場所にゴブリンが現れたのなら、そりゃあ僕らの手助けは受けられないだろう。

 村人達は、あの場所を既に僕らが突き止めているとは知らないから、そりゃあ見られたくない筈だ。


 結局その日は、何があるかわからないからと、パーティの全員が同じ部屋に集まって、警戒しながら交代で睡眠をとり、翌朝、予定通りにその村を後にして、シャガルの町への帰路に就く。




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