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ルドックとステラに話をすれば、二人は即座に一緒に行動する事を了承し、僕らのパーティの休養期間は数日早く終わってしまった。
まぁ、北部でデモンパウダーが生産されてるなんて話を聞けば、放っておけないのは当然だろう。
さてパーレが持ってきた依頼で僕らが調べなければならない場所は三ヵ所ある。
一つはシャガルから北西に四日程行った場所。
一つはシャガルから西に二日程行った場所。
一つはシャガルから南西に三日程行った場所だ。
それぞれの距離はそれなりに離れているが、これらの場所にはある共通点があった。
シャガルの傍を流れる川には複数の川が合流し、下流に行くほど広くなる。
北の山脈からやってくる流れを本川とし、そこに合流する他の流れを支川と呼ぶが、今回調べる場所は、全てがその支川の近くで、木材を下流に流してる場所なのだ。
そしてその支川が本川に合流する場所は、シャガルよりも下流である。
つまり、シャガルで検査、値付け等がされていない木材に、デモンパウダーは隠されていたのだろう。
今回、これらの地域を調べるにあたって、僕らにはある名分が与えられた。
何故なら、冒険者というのは依頼があって動くもので、宿場町ならともかく、村を訪れた時は、何の要件で訪れたのかをほぼ間違いなく問われる。
しかし近くにデモンパウダーの生産拠点があるかもしれないから……、なんて風には間違っても答えられないし、何も理由がないと答えたり、沈黙しても疑われてしまう。
故に僕らに与えられた名分とは、北部で増えつつあるゴブリンの目撃情報の収集依頼だ。
これが驚いた事に、ちゃんと冒険者組合を通しての、僕らに対する指名依頼である。
どうやら盗賊達が属する組織は、冒険者組合に対して強い影響力があるらしい。
あぁ、でも、考えてみれば当然か。
その盗賊達も冒険者なのだから、組織と冒険者組合に繋がりがない筈がなかった。
ただ、この指名依頼の説明をしてくれた冒険者組合の受付によると、今、北部では実際にゴブリンの目撃例が増えているそうだ。
確かに、僕らも少し前にはなるが、ワイバーンの騒ぎがあった時に、ゴブリンを退治している。
これがゴブリンの大繁殖の予兆かもしれないと冒険者組合は考えていて、ある程度以上の実力のあるパーティに、ゴブリンの調査を依頼しているという。
まぁ、僕らに任される調査の場所が、デモンパウダーの生産拠点が存在する疑いのある場所と奇麗に重なっているのは、ちょっと笑ってしまいそうになるけれど。
僕らはひとまず北西から、次に西、南西の順で調べていく事にする。
シャガルから北西に四日行った場所にあるのは、小規模な村だ。
人口が五十にも満たない、開拓されてからまだ然程の時が経ってない、新しく小さな村。
この村の特徴は、農業等は必要最小限で、主に林業で生計を立ててる事だった。
その為、村の規模の割には、住人は比較的だが裕福そうに見える。
食料も他所から買い付けていて、足りない分を補う程度に、農業や狩りをしているらしい。
もちろん狩りに関しては、林の安全を確保するって視点もあるんだろうけれど。
村の近くを流れる川は、シャガルの傍を流れるそれに比べるとずっと小さく、木を組んで筏にして流すって事ができない為、一本ずつ流してる。
その一本の丸太に一人の村人が乗って操作して下流に運び、支川が本川と合流する場所で、商人にそれを売り払い、食料等を買いながら村に戻ってくるという。
……村の規模の割に村人が裕福そうなのは、如何にも怪しく見えるけれど、果たして林業に生活を依存する彼らが、それを脅かすデモンパウダーの生産に関わるだろうか?
いや、人間は後の事は考えず、目先の裕福さに手を伸ばす生き物だから、関わってる可能性は十分にあった。
そもそも、自分達の行いがそうした致命的な事態を及ぼすと、想像するだけの知識がない場合だってあるし。
僕らは、村人達にゴブリンの調査をしに来たと告げて、ルドックとパーレが実際にその聞き込みを行う間に、僕は村の宿で意識を大鷲のシュイに乗せて、大空へと舞い上がらせる。
ステラは、その間の僕の護衛だ。
使い魔に意識を乗せている間、魔法使いの体は全くの無防備になってしまう。
それを嫌って、使い魔に意識を乗せるなんてとんでもないと考えたり、そもそも使い魔を持とうとしない魔法使いは、かなり多い。
むしろこうして、頻繁に使い魔の意識を移す魔法使いの方が、ずっとずっと少数派だった。
実際、僕だって雛から育てた大鷲、シュイが居なければ、使い魔を持とうとはしなかったと思うし。
さておき、空から調べるのは、まずは村の様子。
空から見下ろせば、村の全体が一目で把握できる。
用途のわからない怪しい建物はないか、村人に何らかの怪しい動きはないか、村人以外の何者かと接触していたりはしないか。
次に木材の集積所や、実際に木々を切り出している林。
木材に何かを仕込んで隠してないか、林に何らかの施設が隠されていないか。
更にはもっと広い範囲を。
今回、シュイを飛ばすにあたって、僕が最も気を付けているのは、魔力の気配がないかどうかだ。
見慣れない建物があるとか、空飛ぶ魔物が襲ってくるとか、そういった事ならば、シュイは自分で見たり気配を察して、僕に伝えたり対処をする。
しかし魔力の気配に関しては、シュイに乗せた僕の意識が積極的に探さなければ、シュイは自分じゃ気付けない。
デモンパウダーの生産側に魔法使いがいるとしたら、防衛には魔法を用いている事が考えられるから、それに引っ掛からないように、僕は魔力を警戒し続ける。
ゴブリンの目撃情報の聞き込みを名目に、村に滞在できるのは精々が一日か二日。
決して長い時間じゃないけれど、シュイの翼で辺りを探るなら、それで十分だろう。
結局、最初に訪れた北西の村とその周囲では、空から探しても怪しい何かは見つからなかった。




