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 カイルとルナリア、二人に対する初回の講義はこれで終わりだが、用意された魔法陣は後三つ残ってる。

 そのうちの一つは、バイレンの為に用意されたものだった。

 今回、年下の二人の為に手本を見せてくれた彼に、何も与えずに今日を終わらせる事はできない。


 バイレンは賢者の学院に在籍して二年目になる魔法使いだ。

 今日の振る舞いからもわかる通り、真面目な気質で頭の働きも早い彼は、賢者の学院でも真面目に学び、術式の知識に関しては同じ世代の魔法使いの中でも、間違いなく優秀な部類に入るという。

 けれども実践が、初歩を抜け出した応用、第二階梯の魔法の習得に手間取り、伸び悩みを見せている。

 第二階梯の魔法の習得は、魔法を学び始めてから二年、三年、或いはそれ以上に掛かるのが当たり前なので、別に焦る必要はないんだけれども……、第一階梯の魔法をスムーズに習得できた分、周囲に掛けられた期待が大きくて、それに応えられない事がバイレンを苦しめているとの話だった。


 これは魔法使いにはよくある類の悩みである。

 魔法というのは、やはり特別な力なので、その使い手である魔法使いも、やはり特別なのだと周囲からの期待は大きい。

 それに応えられぬ苦しみは、大なり小なり、多くの魔法使いが味わうものだ。


 ただ、これに関しては僕らがどうしてやる事もできなかった。

 仮に何らかの方法で第二階梯の魔法を習得させられたとしても、次は第三階梯の魔法で同じように躓くだろう。

 より正確には壁にぶつかるのだけれど、それはごく当たり前の事である。

 そこに壁があるからこそ、わざわざ魔法のランク分けがされているのだ。

 一つ一つの魔法に対する思い入れや適性も関係するから、ランクが全てな訳ではないけれど、多くの者がそこに明確な違いがあると感じるから、第一階梯の魔法は初歩で、第二階梯の魔法は応用なんて風に言われていた。


「今日は儂が騒霊の魔法陣を用意したが、バイレン、お主はこの屋敷に自由に出入りし、地下室を魔法の練習場所として使って構わん。自分で魔法陣を描いても良いし、必要ならば儂も描いてやろう。思い悩むところがあれば儂かリュゼに相談せよ」

 だから結局、僕らに……、というか主にミルコに用意できるのは、バイレンが魔法の習得に集中できる環境くらいだ。

 彼の苦しみに関しては、自身が折り合いをつけて、答えを出して納得していくより他にない。

 尤も、賢者の学院では、バイレンのようにまだ成果を出せていない魔法使いは、魔法を練習する場所も取り合いになるので、自由に使える場所を手に入れられる事は、彼の成長に大きな意味を持つ。


「ロステ先生、リュゼ先生、ありがとうございます。この御恩には、必ず報いて見せます」

 胸に手を当て一礼をして、ミルコと僕に感謝の言葉を述べるバイレン。

 やっぱり彼は、そう、真面目過ぎるくらいに真面目だ。

 もっと肩の力を抜いても構わないのに。

 その気負いが、ミルコを苦しめなければいいんだけれども……。



 ……バイレンが魔法陣の真ん中に立って魔法の練習を始めると、それを見ていた僕の隣に、すぅっとミルコが寄ってきた。

「リュゼよ。良い生徒を連れて来てくれたな。お主の都合も絡んでの話とはいえ、感謝するぞ。いや、今回の件だけじゃなく、賢者の学院に繋いでくれて、何よりも儂を化け物として退治しようとせなんだ事にな」

 そして彼が口にしたのは、僕に対する感謝の言葉。

 ミルコの言葉に、僕は笑って頷く。

 何を大袈裟な、と謙遜したりはしない。

 実際、彼の存在を通す事が、結構な無茶であったのは紛れもない事実だから。

 尤もそれに対して最も骨を折ったのはイクス師で、僕は二人を繋ぎ、幾らか手伝った程度ではあるのだけれども。

 まぁ、ほら、その事もあってワイバーンと戦ったりもしたのだから、流石に謙遜をする必要はないと思ったのだ。


「あの魔法陣は、ささやかではあるが礼の心算じゃ。二つとも、儂が使い易いようにしたサーバントの術式が描いてある」

 ささやかな礼と言いながら、結構とんでもない言葉をミルコは口にする。

 複雑な動きをするサーバントの魔法は、当然ながら扱う術式は複雑になるし、発動に必要な魔力も多くなるだろう。

 だから使い易いかどうかは、人によって違うだろうけれど、それでも改良した魔法の、未発表の術式なんて、気軽に他人に譲る物じゃない。 

 それは謂わば、生前のミルコが魔法使いとして生きた証、人生の一部だ。


 ……いや、もしかしたら死後、レイスとなった後に魔法を改良した可能性もあるけれど。

 いずれにしてもそれ程に価値があるって話である。


「お主があのイクス導師の弟子でありながら、どうして革新派に属したか。何を目指して魔法の研究をしているのかは、イクス導師より聞いておる。……その事に関して、儂が言える事は何もない。ただ、少なくともこの術は、何らかの形でお主の参考になるかと思っての」

 あぁ、うん、そうか。

 イクス師は、ミルコにそれを話したのか。

 どうやらイクス師は、まだ僕の事を心配してくれてるらしい。


 床の魔法陣は、一つはウッドサーバントを動かす木の従者の魔法。

 もう一つはストーンサーバント、或いはそれを巨大にした物、ストーンゴーレムを動かす石の従者の魔法だった。


 なるほど、これの習得は、少し苦労をするだろう。

 第三階梯である木の従者の魔法は既に習得済みだが、第四階梯である石の従者の魔法はまだ未習得なのだ。

 故に改良された魔法を覚える前に、まずは大本の魔法を習得する必要がある。


 まぁ、どのみち第四階梯の魔法は何かを習得する心算だったから、石の従者の魔法は丁度いいか。

 改良された石の従者の魔法で、ストーンサーバントやストーンゴーレムがどれ程動けるかにもよるけれど、僕らのパーティに足りないもう一人の戦士の穴を埋められる可能性があった。

 そこまでの性能じゃなくても、動く障壁が一枚あれば、それなりに戦いの役には立つ。

 また元の魔法と改良された魔法の術式を比べれば、僕が作ろうとしてる照星の魔法の術式を整える参考にもなる筈だ。


「ロステさん、感謝します」

 このお礼は、一体どんな風にすればいいだろうか。

 流石にこれは、僕が貰い過ぎである。

 ミルコが一番喜ぶのは、導師の地位を得る事。

 レイスとなった彼にとって、もはやそれは存在理由だった。


 けれどもその事に関して僕ができるのは、共に生徒たちの面倒を見て、必要な実績の一つを埋めるくらいだ。

 尤もそれは、僕にとっても実績になるから、それがお礼になるかといえば、ちょっと微妙なところである。


 ……まぁ、おいおい考えればいいか。

 一緒に生徒の面倒を見る事になったし、また例の、イクス師が調べてる遺跡の件にも、ミルコは協力をしてくれていた。

 なので関わる機会は多いから、何らかの礼をする機会も、いずれは来る。

 既に一度は死を迎えた彼が、ずっとそこにいる訳じゃないのは、僕もわかっているけれど。

 いずれ来る別れの前に、今回の礼は忘れずに返そう。



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