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 結局、僕らがシャガルの町に帰って来たのは、依頼を請けて出発してから、四十日目の夕方だった。

 というのも、あのサイクロプスとの戦いの後、念入りな傷の治療や、ぐしゃぐしゃになった大盾の代わりを手に入れる為に、ドワーフの交易所に引き返したりしてたから。

 基本的にそれらが必要だったのは黄金の愚者のパーティだったけれど、あの時は僕やルドックも魔力を使い果たしてたし。


 ドワーフ達にとっても、流石に地下道の出入り口でサイクロプスのような魔物が襲ってきたという事態は見逃せなかったらしく、引き返してきた僕らの報せを受けて、ドワーフの戦士団が黒鉄の国より派遣される。

 背丈は小さくとも、がっしりとしたドワーフの戦士達が頑丈な鎧兜に身を包み、大きな得物を手に列を成す様は、実に勇壮で、同時にとても恐ろしかった。


 僕らは彼らが地下道の周辺の敵を掃討してる最中に、再び交易所を出て、そこからまた二週間ほどかけて、シャガルの町に帰って来たという訳だ。

 帰り道は、あのサイクロプスの襲撃を除いては、行きよりも随分と楽だったと思う。

 一度は通って道を把握した事も大きいだろうし、また疲れの出る旅の後半が、シャガルに近い見知った場所になるというのも、精神的な負担が少なくて済む。


 報酬は、魔物の襲撃が頻発した事もあって、かなりたっぷりと貰えた。

「こんなに大きなトラブルのある交易は珍しいよ。君達がいなければ危なかった。また機会があれば、護衛をお願いしたい」

 なんて風に、商人達から言われたし、グルーズも似たような言葉を口にしたけれど、……正直、暫くはもう、ドワーフの国はいいかなぁって気分だ。

 これは依頼が割に合う合わないの話じゃなくて、遠くて危険な場所までの護衛は、そう、単純に疲れるから。

 シャガルに帰ってきた僕らの意見も、休みたいで一致する。


 ただ冒険者組合には遠出の間に更に個人向けの指名依頼が溜まっていたので、それを幾つか請けながらにはなるけれど、パーティとしての活動を、二週間は休むと決めた。

 今回の休みは、魔法の研究だけじゃなくて、新しい魔法の習得にも挑戦したい。


 強い魔物との戦いを重ねて、僕の魔力は以前よりも増えている。

 それが必要に駆られて魔力を身体から絞り出す事により、容量が大きくなってるのか、それとも生死の危険がある戦いを経て、生存本能がより強い魔力を欲して成長するのか、それとも魔物を倒すって行為自体に、魔力の成長を促す何かがあるのか、それはわからないけれども、僕は間違いなく、以前よりも成長をしていた。

 けれども、幾ら魔力が増えたと言っても、それで唐突に新しい魔法が使えるようになる訳じゃない。

 新しい魔法の習得には、それなりの手順が必要だ。


 今、パーティの中で実力が頭一つ飛び抜けているのが、戦士のステラだと思う。

 もちろん、戦士、僧侶、盗賊、魔法使いは、それぞれに役割が違うから、一概に比べられるものではないけれど。

 だからってそれに甘えていたら、僕は彼女についていけなくなる。


 故に、僕は今、新しい魔法を欲してた。

 まだ火球と拘束の二つしか使えない、第四階梯の魔法を新たに習得するか、それとも取りこぼしが幾つもある第三階梯以下の魔法を、ちゃんと習得しておくか。

 いずれにしても二週間の間に、一つは新しい魔法を得ておきたい。


 町では常に酒を飲んでるパーレはさておき、ステラは剣の教官の依頼を請けるという。

 シャガルの衛兵を相手に戦い方の指導をするという内容だが、……僕やイクス師等の身内とか、仲間以外に対しては、彼女はあまり口が上手い方じゃない。

 だから自分より年上の衛兵に、ステラがどれだけ教えられるのかというのは、少しばかり心配ではあるけれど……、でもこれは、僕が口を挟んではいけない事だ。

 何らかの危険があるならともかく、町の衛兵に、冒険者組合を通した依頼で、彼女が得意とする剣を教えるだけなのだから。

 これを心配し、過保護に否とするのは、ステラが経験を得る機会を奪うだけ。

 彼女の一番近くで育ったとはいえ、親であるイクス師でもあるまいし、僕にそんな権利はない。


 それからルドックは、衛兵と一緒にステラの指導を受けるそうだ。

 彼は僧侶ではあるけれど、僕らのパーティではステラと共に前衛を担う機会も多かった。

 故にステラが黄金の愚者のパーティと一緒に戦う姿を見た事で、ルドックも色々と考えたのだろう。


 正直なところ、回復魔法を使うルドックはパーティの生命線だから、彼を前衛として危険に身を晒すのは、あまり正しくはないのかもしれない。

 ルドックは僕らの傷を癒してくれるが、彼が倒れた時に、僕らが行える治療には限りがある。

 一応は、僕も第三階梯にある、魔法使いの回復魔法は習得しているけれども、僧侶であるルドックのそれに比べると、回復の効率はとても悪かった。


 戦士をもう一人パーティに追加すれば、ルドックは後ろに下がれるけれど、今、上手く回ってるパーティの空気が、新しい人員の加入で崩れるかもと考えると、安易な追加は躊躇ってしまう。

 特にステラと並んで戦える戦士なんて、そうはいるものじゃない。

 腕がよく、己に自負がある戦士程、彼女の才覚は眩く、目に突き刺さる。

 あぁ、そういう意味で言えば、黄金の愚者のグルーズは、ステラと並んで戦って、少しもひけを取らない稀有な戦士だった。


 ……ドワーフの戦士だったなら、或いは種族が違うからこそ、僕らのパーティの中に居場所を見つけられるかもしれない。

 尤も、人間の国に出てきてるドワーフは、そう数が多い訳じゃないから、やっぱり見つけるのは難しいんだけれど。


 話は逸れたけれど、なのでルドックが戦士としての訓練を積むというのは、必ずしも正しいかと言えばそうじゃないが、助かる事ではある。

 ステラだって、知り合いが訓練に混じっていれば、全てが見ず知らずで教えるよりは、精神的な余裕もあるだろうし。

 まぁ、こんな風に思う時点で、やっぱり僕は無駄に過保護か。


 皆が、自分にすべき何かをすればいい。

 パーレだって、町では常に飲んだくれているように見えるが、やるべき事はやっている。

 半分以上は本当に飲んだくれているんだろうけれど、残る幾らかは、僕らにそう見せてるだけって部分も、あるとは思う。

 盗賊の技術は、初歩的な斥候としての訓練ならば冒険者組合でも受けられるそうだが、それが全てじゃないと聞く。

 当たり前の話だけれど、盗賊の技術は本当に悪い事にも使えるから、大っぴらに教えられてる訳じゃない。

 パーレが一体、どこでどんな風に盗賊の技術を学んで鍛えているのかは知らないが、僕らはそこに立ち入ったり、追及してはいけないし、彼女もそうされない為に、自分の一部を僕らに隠してる。


 だから僕も、この二週間は、繰り返しになるけれど、自分のすべき事をしよう。



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