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魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


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 シャガルの町を出て十三日目、僕らはドワーフの掘った地下道の入り口に辿り着く。

 地下道と言っても、そこは馬車が悠々と通れるくらいに、いや、すれ違えるくらいに広い空間。

 壁は頑丈そうな石造りで、地面の中央は固めて整備がされていて、両脇には柔らかい光を放つ苔やキノコが植えられていた。

 その光がずっと奥まで続く様は、なんとも言えず幻想的だ。

 地下なのに空気は淀んでなくて、何故だか微かに風も吹いてる。


 でもそれを見て感じて、僕は恐ろしさを覚えずにはいられない。

 何故なら、一体どれだけの労力を注ぎ込めばこんなものができるのか、僕には想像もつかなかったから。


 僕は西方諸国の人間ではなく、草原の出身だからこそ、その二つの違いについてはこれまで生きて来てよく考えた。

 どちらが上、どちらが下って訳じゃないけれど、ただ国力に関しては、西方諸国の方が、……それがどの一国であっても、高いと思う。

 部族と国は違うから、明確に比べられる訳じゃないけれど、仮に部族が国と同じ規模になるくらいに集まっても、やっぱり国力では勝てない筈だ。


 戦力って意味では、引けを取らないと思う。

 僕が育った部族では、男は特殊な例外を除いては全てが戦士になるようにって育てられる。

 まぁ戦士といっても狩人も兼ねるし、家畜の世話もするから、戦ってばかりな訳じゃないんだけれども、戦える人間の数は、人口を同じで考えると部族の方が随分と多い。


 では僕が国力で勝ると思う西方諸国の強みは何かと言えば、生産力だ。

 物を生み出す力は、西方諸国の方が圧倒的に高い。

 この物というのは、武器や食料、衣類なんかの品々だけじゃなく、町から町へと延びる街道なんかも含まれる。

 もちろん町の家々や町を囲う防壁も同じく。

 もしも生産力が戦いに向けられれば、規模が大きく堅牢な要塞が、素早く建設されるだろう。


 ……つまり、僕が恐ろしさを感じたのは、地下にこんなにも広く頑丈な道を作ってしまえる、ドワーフの生産力に対してだった。

 どれだけの時間を掛けてこの地下道を作り上げたのかはわからないけれど、もっと小さな、人が数人通れるか否かくらいの通路なら、ずっと短い時間で、より長く掘れる筈。

 すると、例えばの話だが、ホルム砦の向こう側、シュトラ王国の領地内に、密かに軍を送り込める秘密の通路を、ドワーフは作ってしまえるという訳だ。


 これは実際にする、しないじゃなくて、可能か、不可能かって話である。

 ドワーフとシュトラ王国の関係は良い筈なので、別に僕だってドワーフがシュトラ王国に攻め込むだなんて、思ってない。

 ただ、できてしまうなぁって事に対しての怖さは、どうしても感じてしまう。



 地下道を真っ直ぐに、一日ほど進むと、開きっぱなしの大きな門を抜けると、広い空間に辿り着く。

 いや、地下道も十分に広かったんだけれど、更にずっと大きく広い空間に出た。


 どうやら、ここがドワーフの交易所らしい。

 ドワーフの中でも外の世界と関わる者だけが暮らす、小さな町ほどもある交易所だ。

 もっと多くのドワーフが住んでる黒鉄の国は、この更に奥の道を進んだところにあるそうだけれど、その道を進めるのは彼らの同胞だけだという。


 とはいえ、広い地下の空間に建物が立ち並ぶ様は、それが町規模であっても十分な威容で、実に見応えがある。

 これが見られただけでも、シャガルの町を出て十四日の旅をした甲斐は、十分にあったと思える程に。


 そしてグルーズや隊商の商人達が挨拶をすると、交易所のドワーフ達は、誰もが笑みを浮かべて親し気に歓迎をしてくれた。

 つまりここのドワーフ達とは、……まぁドワーフであるグルーズは当然として、隊商の商人達は何度も取引をしてる顔馴染みであるのだろう。

 或いは、そうやって顔馴染みくらいの知人に対してでも親しげに振舞えるドワーフだけが、交易所に住んで外と関わる事を許されているのかもしれない。


 ドワーフの交易所には、三日間滞在するそうだ。

 三泊して、四日目に帰途に就く。

 取引自体は、運んで来た荷を下ろし、事前に用意された荷を積み、互いに次に欲する品のリストを交換するだけなので、一日もあれば終わるそうだが、ここまで旅をしてきた隊商の、特に護衛の疲労を抜く為に、三日間は休むという。

 宿に関しては外から来る客の為の、大型の宿泊施設が交易所には備わっていて、そこを二部屋、僕らのパーティに貸してくれる。

 ちなみに宿泊施設には、大きな蒸し風呂も付いていて、まずはそこで旅の垢を落とす事を勧められた。


 あぁ、またその三日間で、僕らの装備を預けるならば、ドワーフの職人がそれを整備、手入れをしておいてくれるらしい。

 なんというか、普通の護衛依頼ではあり得ない待遇で、ちょっと驚く。

 危険な場所を旅して疲労するのは、身体だけではなく装備も同じだから、このサービスはかなりありがたかった。

 もちろん、見ず知らずの場所で武器や防具を手放す事が不安ならば、断っても構わないそうだ。

 戦士の中には、自分の武器を他人に触れさせたがらない者もいる為、そこを無理強いはしないという。


 とはいえ、僕らは当然、ありがたくドワーフ達の厚意を受ける事にした。

 冒険者をしている以上、鎧はさておき、予備の武器の一つくらいは、ステラやルドックだって所持しているし、パーレなんて、色んなところに投げナイフやらを隠し持ってる。

 僕に関しては、そもそも魔法こそが最大の武器だ。

 ……まぁ、僕の場合はそもそも、所持しているのも滅多に使わないナイフくらいだし、わざわざ預けて手入れして貰う必要もないんだけれども。


 要するにこの三日間は、大人しくゆっくり休めって事なんだろう。

 そして言われずとも、僕らだってそうしたい。

 特にここ数日は、夜もぐっすりと眠れる日はなかったのだし。

 恐らくこの三日の半分以上の時間は、寝て過ごす事になる。


 折角、遥々遠くのドワーフの国、正確にはその手前まで来たのだから、土産の一つや二つは、選んで持ち帰りたいと思っているけれど、……それもまずは、ゆっくりと眠って、少しでも疲れを抜いてからの話であった。




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ドワーフの里、ロマンしかない。
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