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 ミューリの、生きて空を飛ぶグリフォンを見たいからハーバレストの山頂まで護衛をして欲しいという依頼を断ったりして、それから数日後には、鍛冶屋に任せていたステラの鎧の強化が終わった。

 ワイバーンの鱗を割ったり削ったりして形を整え、金属の上に貼り合わせて強化された鎧は、打撃や斬撃に対しての防御力が増したのはもちろん、炎や酸に対しても強くなったたそうだ。

 いや、素材があっての事だとしても、見事な出来栄えだと、そう思う。

 僕は戦士ではなく魔法使いなので、鎧の善し悪しを見分ける目は持ってない。

 だがそんな僕が見てもわかるくらいに、強化を終えたステラの鎧には、風格のようなものがある。

 その分、動くと熱がこもり易かったり、修理にも金が掛かるようになるらしいけれど、そこは身の守りには代えられないので仕方がないところだろう。

 何事にも、一つの欠点もなく完璧なんて事はあり得ないから。


 これを身に纏ったステラは、誰もが認める一流に足を踏み入れた戦士だった。

 元より彼女の実力は一流に近いところにあったから、装備がそれに追いついて、少し押し上げてくれた形になる。


 でもこれで僕らのパーティが一流の仲間入りかというと、それは些か気が早い。

 ステラが一流に足を踏み入れたと言っても、全員がそうなった訳じゃないのだ。

 例えば僕は、第四階梯の魔法を幾つかは使えるようにはなったが、第五階梯、上級魔法に手が届くのは、もう暫く先だろう。

 僧侶の魔法や基準に関しては詳しくないので、ハッキリしたところはわからないけれど、ルドックも似たようなものだと言ってた。


 パーレはちょっと、盗賊という役割が実力を露わにする事はあまりないから、なんとも言えないところである。

 もしかすると一流に届いているのかもしれないけれど、彼女は自分の実力の底を見せたりはしないから、結局僕にはわからない。

 ただ、パーレが信頼できる盗賊である事だけは知ってるから、パーティとしてはそれで十分だ。


 他にも、メンバーの実力だけじゃなくて、コネクションやら自前の拠点やら、足りないものが多かった。

 尤もこの辺りは、冒険者としてのスタンスも関係してくるから、一概には言えないけれど。


 冒険者として手広くやるなら、大きな拠点を構えて経理等をサポートしてくれる人間を雇い、更に多くの冒険者を抱え込んで、パーティの域を超えて隊、団を組織する場合もある。

 僕らも、そうした一流冒険者が主導する団からの勧誘は何度も受けたし。

 逆に身軽に動く事を望むなら、敢えて一つ所に落ち着かず、シュトラ王国の大きな町を転々と移動しながら、難易度の高い依頼ばかりを請けるパーティもあるという。

 流石にそこまで極端なスタンスは取らないにしても、僕らもそろそろ、自分達がどのような形で冒険者をしていくのか、考え始める時期には来ているのかもしれない。

 或いは、お互いに進みたいと思う道が、違う事だってあるかもしれないから。


 さて、恐らくはそれを大なり小なり頭の片隅には抱えながら、僕らは何時も通りに冒険者組合の酒場のテーブルに集まって、請ける依頼を吟味していく。

 当たり前の話だが、幾らステラの鎧の強化が終わったからって、ミューリの護衛依頼はなしだ。

 ハーバレストの登頂は僕らだけでもまだ難しいのに、誰かを護衛しながらだなんて猶更に不可能だった。

 そりゃあミューリだって魔法使いではあるけれど、戦闘経験が碌にないなら、魔法が使えたところで戦力にはならないどころか、危なっかしいだけである。


「指名の依頼は、家庭教師に剣の教官、色々ありますが、パーティではなく個人向けが多いですね。闘技場への招待なんてのもあります」

 この一ヵ月の間に来ていたらしい指名の依頼を確認しながら、ルドックが一つ溜息を吐いた。

 冒険者が貴族や商人とのコネクションを求めるように、貴族や商人もまた、優秀な冒険者との縁を求める。

 例えば何らかの問題が生じた時、優先して依頼を請けて貰えるようにと、繋がりを持っておこうとするのだ。


 その為の方法として、自分の子供の家庭教師や、私兵の教官をさせるというのは、割とよくある事らしい。

 特にステラは、父親がイクス師という賢者の学院の重鎮で、生まれ育ちがハッキリとしてるから、そうした依頼が集まり易い傾向にある様子。


 あぁ、でもこの家庭教師って、僕宛か。

 商人の三男に魔法使いの才能があるから、賢者の学院に入る前に基礎知識を教えて、魔法の手ほどきをして欲しいという依頼だ。

 その三男は八歳で、賢者の学院に籍を置くのは、来年を予定してるらしい。


 うぅん、これは個人的に請けてもいいかな。

 僕を通じてパーティと縁を持ちたいのだとしても、或いは僕を通じてイクス師との接触を望んでるのだとしても、その三男が魔法使いになる気があるというなら、魔法の面白さは教えてやりたい。

 ただパーティで請ける依頼や、自分の魔法の研究もあるから、本当に手が空いた時くらいしか、教えには行けないだろうけれど。


 個人向けの依頼に関しては、どうするかは自己判断だ。

 もちろん個人向けの依頼を請けすぎて、パーティでの行動ができなくなるようだと困るけれど、そうした無理をしない限りは、口を挟む事はあまりない。

 ……でも闘技場への招待って、ステラ向けてなんだろうけれど、ちょっと気になるな。

 彼女は剣の腕は一流だけれど、人の悪意には少しばかり弱いところがあるから、闘技場での戦いを生業にしてる狡猾な闘士が相手だと、思わぬ不覚を取りかねなかった。

 どんどん実力を伸ばしてる今、ステラの足を、そんな連中に引っ張られたくはない。


 でもこれも、口を挟むのは過保護というか、過干渉というか。

 そうしていいものかは、悩んでしまう。


「後は、隊商の護衛依頼は既に町を発ってるものばかりですが……、あ、一つ、三日後に町を出発する隊商に、追加の護衛が欲しいというのがありますね」

 あぁ、町から町をいく隊商の護衛の仕事は、パーティ向きの仕事だろう。

 というよりも、僕らだけじゃ足りない仕事だ。

 当たり前の話なんだけれど、隊商の護衛というのは四人ぽっちじゃどうにもならない。

 守る馬車が一つ、とかならともかく、何台もの馬車が荷を満載にして動く隊商は、前も後ろも、可能だったら真ん中も、全てを守る必要がある。


 例えば、僕ら四人は、賊の十くらいなら軽く、仮に二十いても盛大にファイアボールなんかの魔法を使えば、どうにか相手できるだろう。

 けれども十の賊が前から攻めてきて、その相手をしている間に残る十の賊が後ろから隊商を襲ったら、僕達だけじゃどうにもならない。

 四人でなら多数を相手できる僕らも、パーティを二つに割ると発揮できる力は激減するから。


 なので大きな隊商は一つの戦闘単位であるパーティを、複数雇うのがセオリーだった。

 実際、雇った冒険者が頼りになるかは運次第のところもあるし、一つのパーティに隊商の運命を託すのは賭けが過ぎる。

 特に裕福な商会に属する隊商の場合は、護衛を基本的には直接雇用している私兵に任せ、危険な場所を通る時など、戦力が足りないと思われる時にのみ、冒険者を雇うって事もあるそうだ。


「報酬は……、これは悪くないですね。何らかの障害を排除したり、襲撃から隊商を守れば、追加の報酬もあるそうです」

 感心したように言うルドックに、僕も依頼書を確認して頷く。

 確かに、護衛としての基本報酬以外に、危険手当の類が付くのはありがたい。

 魔物を討伐した際は、素材の権利は隊商のものとなるが、代わりに護衛の全員にボーナスが出る。

 これは誰が魔物を倒して、その権利を持つかで護衛が揉めたり、独断専行をしないようにする為のルールだろう。


 でもこれだけの条件を出せるって事は、それは隊商がこの取引でそれ以上の大きな利益を出せると考えているのだ。

 多くの報酬を支払っても、それ以上に儲けられるから好条件で腕のいい冒険者を集めてる。

 そうしなければ、目的地に辿り着いて取引する事ができないかもしれないから。


「ただ目的地はドワーフとの交易所なので、一筋縄ではいかなさそうですけれども、ね」

 つまり護衛する隊商の目的地は、行き来をすれば確実に大きな利益が出る、厄介な場所って事だった。



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