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 それからの話だが、魔力を限界まで絞り出した僕は三日間寝込み、状態異常と回復、怪我と回復を短い頻度で繰り返したステラも、丸一日立ち上がれなくなったらしい。

 つまり準備を整え迎え撃ち、相手の油断に付け込んで有利な状況を作っても尚、あの戦いはギリギリだったという事だ。


 ワイバーンを討伐したって報告はすぐにシャガルにも届けられて、討伐隊の派遣は中断された。

 その代わり、神殿からはハヴァスの村の状況を調べ、救済する為の人員が来たらしい。

 だから僕らの依頼が遂行された事は、既に確認済みという訳である。

 ルドックの面目も、大いに立った事だと思う。


 ただ、何でもその神殿から来た人員の責任者が、ワイバーンの躯を神殿で引き取りたいと言い出して、ルドックは大いに怒ってそれを断ったそうだ。

 まぁ、うん、僕らからすると断って当然の話だけれど、それでルドックと神殿の関係が悪くならなければいいんだけれども。

 実際、倒したワイバーンの躯を譲るなんて事は、まぁ、どう考えてもあり得ない。

 そんな事を言い出す人員を送って寄越すなんて、神殿の程度も知れたと言ってしまうと、流石に多少は言い過ぎか。


 ワイバーンの躯は優秀な素材の塊だった。

 軽く頑丈な鱗は、革鎧の上に貼れば、防御力は金属鎧に少し劣るが、ずっと軽い鎧となる。

 金属鎧の上に貼れば、重さがほぼ変わる事なく、その防御力を上げられる。


 爪や牙は装飾品の、火炎袋や心臓等の臓器は薬品の素材として使われるし、尾の毒針は武器に加工できるという。

 或いは頭部の牙や鱗に手を付けずに剥製とすれば、屋敷の飾りとして貴族や豪商に高額で売れる事も間違いがなかった。


 僕らのパーティには戦士のステラがいるから、鱗はその防具の強化が最優先の使い道である。

 尾の毒針は、むしろステラよりもパーレの武器に良さそうだ。

 毒針だけを取り出しても、既にワイバーンは死んでいる為、新たな毒は分泌されないが、それでも毒針の形状は、塗られた毒を保持し、傷つけた相手にそれを送り込むのに適しているらしい。


 牙だって、ワイバーンを討伐した記念に、パーティの全員がその牙を使った、揃いの装飾品を持つというのもいいだろう。

 僕らに不要な素材にしても、冒険者組合に卸せば、それなりどころじゃない金になる。


 なので神殿から来た人員の責任者の言葉は、僕らからすると馬鹿の寝言以外の何物でもない。

 尤も、そう言いたくなる気持ちは、百歩譲ればわからなくもなかった。

 今回の件で、神殿は損ばかりしてる。

 魔物のせいで林が使えなくなり、林業収入が途絶えて、村が戦いの場となった事でその修復にも金が掛かり、僕らに報酬も出さなきゃならない。


 その状況で、それらの全てを賄っても収支がプラスになるワイバーンの躯がそこにあれば、欲しくなるのは当然だろう。

 まぁ、欲しくなるのは当然だとしても、口に出すのは馬鹿以外の何物でもないのだが。

 とりあえずその責任者は話にならない為、僕らの報酬に関しては、シャガルの町に戻ってから、ルドックが神殿と直接交渉するそうだ。


 村人からは、犠牲者が出ずに済んだ事を、本当に深く感謝されている。

 眠りから覚めた僕にも、幾人もの村人がお礼を言いに来た。

 僕らはそれに対して、大した事じゃないとか、謙遜するような真似はしない。


 いや、実際に今回は、本当に割と命懸けだったし。

 普段だったらどうにかして回避しようとするくらいには、リスクの大きな戦いだった。

 依頼として、報酬があってそれに挑んだのだから、感謝されて当然とは言わないが、感謝をされればそれを素直に受け取る資格があるくらいには、身を削ったと思ってる。


 僕らのワイバーン討伐は、暫くの間はシャガルの町で語り草になるだろう。

 この辺りはシュトラ王国の中でも比較的魔物が多い地域だが、それでもワイバーン程の大物が、町から然程遠くない場所に現れるなんて、普通なら有り得ない事だ。

 そう、異常事態と言っていいくらいに。

 僕らは運悪く、或いは名を上げたい他の冒険者から見ると運良く、それに出くわしてしまった。


 村人からは感謝され、シャガルの町では名誉だと称えられ、それでめでたしめでたしと終わりにしてしまうには、些か怖すぎる出来事だった。

 ワイバーンの本来の棲み処は、ドワーフ達が暮らすという北部の山脈。

 ハヴァスの村や、シャガルの町の傍を流れる川の、ずっとずっと上流だ。


 確かにシャガルの町はドワーフ達との取引をしてるから、辿り着けない程に遠くって訳じゃないけれど、気軽に行き来ができるような場所でもない。

 なのに何故、ワイバーンは本来の棲み処を離れて、こんな場所に現れたのだろう。

 或いはもしかすると、ワイバーンもまた、棲み処を追われた魔物だったのか。

 ゴブリン、幻蛾、チャージディア、大蛙が、ワイバーンに森を追われて林へとやって来たように、ワイバーンもまた、何かに棲み処を追われて森にやってきてしまったのではないかと、僕にはそんな風に思えた。


 北部の山脈、そこで一体何が起きたのか。

 単なる魔物の縄張り争いの結果、ワイバーンが逃げて来ただけなのか。

 それとも何か、大きな異変が起きているのか。


 ワイバーン一頭を倒すのが精一杯の、英雄ならぬ僕らには、できる限りの平穏を祈るより他にない。




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