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魔法の射手(マジックシューター)~この矢はきっと誰よりも遠い場所へと届く~  作者: らる鳥


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 キリキリと、引き絞った弓弦が音を立てた。

 呼吸を乱さず、心を乱さず、遠くの的をジッと見詰める。

 魔法の矢と違い、弓で放つ矢は重力や風の影響を受けるから、ただ真っ直ぐに放てばいいってもんじゃない。


 ひゅうと的に向かって矢を放ち、しかし動きは止めずに右手は即座に背負った矢筒へ。

 狙い違わず的に矢が突き刺さる頃には、僕は既に次の矢を握り、弓に番えようとしている。

 二本目を放ち、三本目を放ち、次々と連続で、計十本の矢を放つ。

 そしてその全ての矢が、狙い通りに一つの的に突き刺さった。


 腕、背中の筋肉に少し熱を感じながら、矢を放ち終えた僕は、大きく一つ息を吐く。

 パチパチパチと、拍手を鳴らしてくれたのは、隣で見ていたステラ。


「やっぱり凄いね。私も、弓はちょっと練習してるけれど、リュゼみたいにはいかないなぁ」

 彼女はそう言って僕を褒めてくれる。

 うん、まぁ、弓に関しては子供の頃から引いてたから、これは自信を持って特技だと言えた。

 まぁ実際には、一つの目標に対して十本も連続で矢を打ち込む機会なんてそうはないから、遊びと言えば遊びなんだけれども。


 実戦で十の矢を動かずに受けてくれる相手なんて、僕にはちょっと思いつかない。

 これが別々の十個の目標に素早く一本ずつ、全て命中させてたとかなら、素直に胸を張れるんだろうけれど、目標を変えながらだと、連続で放てるのは、僕は四、五本が限界だ。

 もし僕が、ずっと草原で生活してたら、今頃は十の目標に、連続して矢を当てられるようになってただろうか。


 ここはシャガルの町の郊外にある、冒険者組合が所有する訓練施設だ。

 故郷の草原ではどこでも弓の練習ができたけれど、シュトラ王国ではこうした特定の場所でしか、弓を練習できなかった。

 そりゃあ練習する場所が少なければ、良い射手が育たないのは当たり前である。


「ステラは剣とか斧とか、近付いて戦う武器に比べたら、弓はあんまりだよね。でも強い弓が引けるのは、それだけで価値があると僕は思うよ」

 何時頃からだろうか、僕が弓を練習していると、ステラも同じように隣で弓を引きだしたのは。

 でも彼女の弓の才、遠距離攻撃のセンスは、近接戦闘のそれに比べて乏しかった。

 恐らく人並みにはあると思うが、ステラは剣や斧を扱う近接戦闘の才能に恵まれてるから、それに比べると弓の扱いはどうしたって見劣りをする。

 ただ、気功で身体能力の底上げができる彼女は、僕じゃピクリともしない強弓だって引き絞る事ができるから、それに関しては心底羨ましいなぁと思う。


 盾や鎧を意に介せず相手を貫けるような強弓は、それで前に矢を飛ばせるだけでも十分な脅威だ。

 当たらずとも、その威力を見せ付けるだけで、相手を容易に威圧しうる。

 

 ステラが弓を握ったので、僕は場所を譲って、後ろから彼女の立ち姿を見詰めた。

 今日のステラは訓練だからと金属の鎧を身に纏っておらず、その立ち方や、彼女の重心の位置がわかりやすい。

 だからだろうか、その立ち姿は、見惚れるくらいに奇麗だ。


 ゆっくりと大きく、ステラは弓を引き絞りながら、構えて狙いを定める。

 あ、ちょっと、立ち方がブレた。

 的に当てたいって気持ちが前に出過ぎて、それが構えを歪なものにしてるんだろう。

 だけど僕は、見守ったまま何も言わない。

 練習は、必ず的に当てなきゃいけない訳でも、外せばこちらが死ぬって状況でもないのだし、余計な口を挟んで彼女の集中力を削ぎたくないから。

 慎重に狙いは定めてるけれど、狙おうとすればするほど、ステラの中のブレは大きくなってる様子で、ギュンと勢いよく放たれた矢は、的を掠めながらも外れてしまった。


「~~~っ!!!」

 その結果に悔し気に、口を尖らせながらこちらを振り向く彼女に、僕は思わず笑ってしまう。

 いや、馬鹿にしてる訳じゃなくて、あまりに悔しそうにするもんだから、その必死さが楽しくて。

 人の真剣さを笑ってしまうのは趣味が悪いんだけれど、ステラにとって弓は余技に過ぎないのだから、それが上手くいかなかったからって彼女の価値は欠片も損なわれない。


 僕とステラは、本当に真逆だ。

 魔法の才能、弓の腕。

 剣の才能、恵まれた身体能力、気功の技。

 だから彼女に何かできない事があったとしても、それは僕が埋めればいいって思ってる。


 ……故に、僕はステラの悔しさを、微笑ましく感じてしまう。

 何だか、可愛いなぁって。



 それから暫く、僕はステラと弓を引いたり、彼女にアドバイスをしながら時間を過ごす。

 弓の練習はしてるけれど、それでもとてものんびりとした時間。


「そういえば、お父さんが最近楽しそうなの」

 ふと、思い出したように、ステラはそう口にした。

 あぁ、イクス師は確かに、ここ最近は楽しそうにしてる。

 その切っ掛けは、あの石塊だ。


 僕らも最初はあまり期待してなかったけれど、割ってみればアダマス製の宝珠なんて出て来て、それがリタシュトル家の地下拠点の鍵じゃないかなんて話になって、更にそこにレイスまで加わって、話がどんどん大きく、おかしな方向に転がっていってる。

 そりゃあ僕らだけじゃなくイクス師だって、期待を膨らませているだろうし、何より今の流れが、面白くて仕方ない筈だ。


「ステラが見つけた石塊だからね。そりゃあ、イクス師だって嬉しいさ」

 だけどイクス師があんなにも楽しそうなのは、きっとその発見者がステラだから。

 以前、探索を諦めた遺跡を、再び探れるかもしれない機会が巡って来るなんて、イクス師にとっては運命のようにも感じるだろう。

 そしてその運命を齎したのは、別の道を歩んでいる娘だった。


 なんだかとてもできすぎで、まるで吟遊詩人が語りそうな話である。

 でもきっと、運命なんてそんなもんだ。

 イクス師が大草原に来て、僕が魔法の矢に巡り合ったのも、シュトラ王国に来てステラと出会ったのも、全てはそう、運命のように。



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