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 それから僕らは、先に賢者の学院に向かってイクス師に話を通してから、冒険者組合に今回の経緯を報告した。

 どうしてイクス師への話を優先したかと言えば、リスケラに対する牽制だ。


 僕らはレイスとなったミルコ・ロステと会話をし、彼との戦闘を避ける方向で動いたが、依頼主であるリスケラが強固に討伐を主張すれば、それに従わざるを得なくなる。

 所詮、僕らは雇われた冒険者に過ぎないから、依頼主には逆らえない。

 元々の依頼内容とかけ離れた事を命じられたならともかく、ミルコの討伐は、屋敷の異変を解決するって依頼の範疇である。

 仮にも親類だから、甥であるリスケラが、叔父のミルコをそこまで討伐したがるかはわからなかったけれど、遺産を巡って親類縁者が争うなんて話は珍しくもないから。


 けれども賢者の学院がミルコの提案に乗り気になれば、リスケラもその討伐を主張し難くなるだろう。

 シュトラ王国内で、賢者の学院の立場は強い。

 まともな損得勘定のできる商人だったら、多少の金の為にミルコを強引に討伐し、賢者の学院の不興を買う事は避けようとする筈。


 僕らから話を聞いたイクス師はそれは楽しそうに笑って、その日のうちにミルコに会う為、屋敷に直接赴いた。

 そこで行われた話し合いに、僕も一応は同席したが、どうやらイクス師はミルコが導師の地位を得られるように手を貸す代わりに、自分の研究に協力して貰う事にしたらしい。

 具体的に、今、イクス師が興味を持って調べているのは、シュトラ王国内で最大の古代魔法王国期の遺跡、リタシュトル家の地下拠点に関する古文書等である。

 つまり僕らが持ち帰った石塊の中身、アダマス製の宝珠が関わるだろう話に、ミルコを巻き込もうとしていたのだ。


 あぁ、確かにそれは良い手だろう。

 賢者の学院で導師として認められる為には、実力の外にも功績が必要だ。

 ただこの功績というのが一つではなく色々と必要で、例えば他の導師を手伝って、見習いの魔法使いを指導するなんて事も、その一つだった。 


 導師とは導く師なので、未熟な魔法使いを教え導けなければならない。

 恐らく生前、晩年のミルコが導師になれなかったのも、この教え導くって部分が老いた彼には難しかったからだろうとも、思う。

 そして今のミルコにも、やっぱり教え導く事は、難しいと思う。

 だって、僕のように冒険者をしていたり、ある程度の実力が既に備わっているならともかく、完全に見習いの魔法使いだったら、レイスと関わるなんてそりゃあ怖くて仕方ないだろうし。


 故にミルコが導師になるには、そうした細々とした功績を無視できるくらいに、研究面で大きな成果を出す必要がある。

 もちろんそんなに大きな成果を出す機会は、そうそう転がってるものじゃないんだけれど……、あのリタシュトル家の地下拠点に関わる話は、回帰派であるミルコが大きな功績を得られる、中々転がっていない筈のチャンスである事は間違いなかった。


 ……それにしてもイクス師も、レイスの手も借りたいくらいに調べ物が大変なんだなぁと思うと、ちょっと申し訳なくなってしまう。

 本来ならば弟子の僕が率先してイクス師を手伝うべきなんだろうけれど、僕は冒険者でもあり、また自分の魔法の研究を抱える革新派だった。

 回帰派と革新派の垣根なんて、僕とイクス師の関係性から言えば大した事じゃないんだが、単純に僕はあまり時間の自由がない。

 自分の魔法の研究だけなら、別に急ぐ必要はないんだけれど、仲間と一緒に冒険者をしてる以上、少しばかり古文書の解読に専念する為に一ヵ月は休みを取る……なんて訳にもいかなかった。

 ちょこちょこと隙間の時間で齧るように手伝っても、結局は見落としを生み易くなるだけだろうし。


 さて、そうした動きに冒険者組合、及び依頼主のリスケラは、レイスとなったミルコを無理矢理にでも討伐しろとは言ってこなかった。

 その後、僕らはミルコが生前、晩年に作ったという魔法の道具、リスケラに譲渡されるそれを預かって、冒険者組合に届けた事で依頼の完遂を認められる。

 実際には、屋敷に起きた異変は未だにそのままなんだけれど、ミルコとイクス師、賢者の学院を繋げた事で、その未練が祓われる筋道をつけたと判断されたらしい。


 後一つ、神殿に対しても、ルドックが今回の経緯やミルコの害意のなさ、その未練が祓われる予定だと報告済みだ。

 その結果、賢者の学院との関係も考慮されて、ミルコに対して神殿が何らかの手出しをする可能性も、ほぼなくなった。

 個人の僧侶が信仰心から暴走する可能性はあるかもしれないが、神殿がレイスの討伐隊を組む、なんて事態にはならないだろう。

 そして個人の僧侶では、あの屋敷の魔法の仕掛け、特に魔法で封じられた扉がどうにもならない事は、実証済みである。


「あまり、胸を張って誇れる話じゃないんですけれどね」

 苦笑いを浮かべたルドックは、迷える霊をそのままにしておく事にどうしても引っ掛かりがあるみたいだったが、それでも折り合いをつけて受け入れてくれた。


 今回の件は、色々と考えさせられたし、得るものも多かったように、思う。

 僕ら、パーティの中にだって意見の違いはあって当たり前だし、何も言わずとも仲間が自分に合わせてくれると思うのは、傲慢で酷い考え方だ。

 より話がスムーズに進み、また利があるからとルドックは折れてくれたけれど、これを当たり前だと捉えたならば、パーティの関係は何時か破綻する。

 これで借り一つだとか、そこまで堅苦しく考える必要はないにしても、感謝はすべきだし、埋め合わせも必要だろう。


 明日から数日はまた休みだから、その間にルドックに、昼食でもご馳走するとしようか。




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