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 昼過ぎ、賢者の学院を出た僕は、神殿でルドックと合流して、近くの食事処で個室を借りて、少し遅めの昼食を摂る。

 行政区には、こうした内緒話に適した店が、ちょくちょくあった。


「それで、結局あれの中身は何だったんです?」

 皿の上の豚肉を切り分けて、フォークで口に運びながら問うルドックに、僕はどう答えるのがより正確で、必要以上に期待をさせずに済むかと、少し悩む。

 石塊を割った際に発動した魔法は、中身もろとも周囲を消し飛ばす分解魔法。


 もちろん即座に対抗呪文で打ち消したから、その分解魔法は効果を発揮はしなかったが、僕もイクス師も肝を冷やす。

 イクス師も、ここまで過激な魔法の掛けられた遺物は、そう簡単に目にする事はないって言っていた。

 だが殺意の高さもさることながら、他者の手に渡るくらいなら消し去ってしまおうとする辺りは、この遺物の重要さをうかがわせる。

 もしかすると同様の物が複数、このような偽装を施していろんな場所に隠してあるから、一つや二つは消えてしまっても構わないって事なのかもしれないけれども。


「あー、えっとね。小さなアダマスの宝珠だったよ。親指の爪よりちょっと大きいかなってくらいの」

 僕が小声でそう言えば、ルドックは驚いた顔をする。

 アダマスというのは古代魔法王国期に用いられた金属で、非常に強度が高い事で知られていた。

 別名は、金剛鋼。

 しかし古代魔法王国の崩壊と共にその製法、加工技術も失われており、今では幻の金属に近い扱いだ。


 すると当然ながら、今では非常に高値で取引をされる。

 もしもアダマス製の剣でも遺物として見つければ、僕、ステラ、ルドック、パーレの四人ともが、死ぬまで遊んで暮らしてもまだ余るくらいの金になるだろう。


 とまぁ、実に夢のある話だが、今回見つかったのは小さな宝珠だから、仮に好事家に売ろうとしても、恐らくそこまでの値はつかない。

 製法だけでなく加工技術も失われているという事は、鍛冶師に渡しても別の形には打ち直せないのだ。

 つまりこれを単体で見るならば、期待外れって話になるんだけれど……、ただ今回は、それだけで終わる話でもなかった。


「石塊の中身は何かの鍵かもしれないって話はしたでしょ。……宝珠には、リタシュトル家の紋章が刻まれててね」

 更に声を潜めて、僕はルドックに囁く。

 リタシュトル家は、古代魔法王国期にこの辺りで勢力を誇ったとされる、有力な魔法使いの家系だ。

 今でいえば、伯爵や侯爵といった、上級貴族にあたるだろう。


「リタシュトルといえば、あの大きな遺跡が見つかったけれど、そこにはドラゴンが棲み付いていたから、ずっと放置されてるっていう……」

 ルドックも冒険者だから、その手の話には詳しいか。


 シュトラ王国の南西、ホクセント協商国との国境付近に二十年程前、大きな遺跡が見つかった。

 それを発見したのが、古代魔法王国期の研究で名を知られ始めていた若い頃のイクス師だ。

 何の目的かはわからないけれど、リタシュトル家が築いた、今でいう町一つ程の大きさの地下拠点だと推測され、探索が成功すれば莫大な富と力がシュトラ王国に齎されるだろうと期待されたという。


 けれどもその探索は、遺跡に中央にも達せずに中断される。

 何故ならそこには、眠れる巨大なドラゴンが棲み付いていたからだ。

 それが、リタシュトル家が拠点のガーディアンとして配したものか、それとも自然にそこに棲み付いたものかも、ハッキリとはわからない。

 ただ安易に探索を進めてドラゴンを目覚めさせれば、場合によってはシュトラ王国が滅びる事にもなりかねないと、探索は中断されて、遺跡も封じられてしまった。


 故にイクス師はその遺跡の発見で名声を得たが、その業績は不完全なものにしかならなくて、もうシュトラ王国内にはあれ以上の遺跡はないと判断した彼は、国外の古代魔法王国期の遺跡を探すようにもなったんだとか。

 そのお陰で、イクス師は僕の故郷であった大草原にもやってきて、僕は魔法に出会えたんだけれども。


「そうなんだけれど、イクス師はあの宝珠が、もしかしたらドラゴンを避けて通れる隠し通路の鍵じゃないかって、そう考えたみたいでさ」

 もし本当にそうだとしたら、あの宝珠の価値は途轍もないものになる。

 しかし仮にそうだとしても、ドラゴンを恐れるシュトラ王国が、あの遺跡の探索許可を出すかはわからない。

 ドラゴンを避けて通れるのと、ドラゴンを目覚めさせない事は、決してイコールではないからだ。


 それに本当にその遺跡の鍵であるかどうかも、今はまだ不明である。

 イクス師はその可能性が高いと思ってる様子だったけれど……、彼があの遺跡に残す未練が、そう見せているって可能性もなくはなかった。


「だからあの宝珠の価値は、石塊だった頃よりは跳ね上がったけれど、まだハッキリとはわからないから、売るのは保留にしてるよ。今の段階でも結構な値で買い取ってくれるだろうけれど、そうする?」

 僕がルドックにそう問えば、彼は何を馬鹿なと言わんばかりに、苦笑いを浮かべて首を横に振った。

 まぁ、そりゃあそうだろう。

 パーレに聞いたって、同じ反応をする筈だ。


 そんな大きな話に関われるかもしれない権利を、どうしてこんな中途半端なところで手放せようか。

 僕やステラは、なんだかんだでイクス師の身内だから、半ば当事者の気持ちで事態を見守り、追いかけられる。

 けれどもルドックやパーレは、宝珠を早々に手放せば、もはや他人事として、依頼された仕事を請けるくらいになってしまうから。


 割って中身の価値がハッキリすれば、売ってしまう心算だったけれど、ハッキリとしなかったのだから、仕方ない。

 金の事はさておいて、もう少しばかり、あの偶然手に入れた石塊の中身がどうなっていくかを、僕らは特等席から見守ろう。



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