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 シャガルに限らず西部諸国連合の町は多くがそうだけれど、その役割に応じて幾つかの区域に分かれていた。

 例えば多くの住居が立ち並ぶ居住区、宿屋や商店が多い商業区、役所や領主の館、大きな兵士の駐屯所がある行政区といった具合に。

 もちろん居住区に店が一切ないって訳じゃないし、商業区に人が住んでないって訳でもない。

 しかし町を効率よく発展させる為には、そうした大きな区分けは必要になるそうだ。


 そう、発展。

 西方諸国連合の定住する民は、今日と同じような明日を求めながらも、それに満足せずに緩やかにでも発展を求める。

 まるで平らな石を選んで積み続けるように。


 定住をせず、常に居場所を変化させ続けていた僕の部族では、そうした発展を求める心は乏しかった。

 交易をしたり、奪い合ったりして、短い間に富んだり貧したり、そういった変化を喜びはしたが、あぁ、あそこで求められたのは、そうした刹那的な大きな変化だったから。

 別にどちらが良いとか悪いって訳じゃないんだけれど、今の僕は、そうして緩やかに発展しようとする町を、案外気に入っている。

 この町で暮らして六年経つが、来た頃にはなかった美味しいパン屋が、居住区に新しくできたりしたし。


 ……話が逸れたが、他には遠方から運ばれて来た荷や、川を使って下流に運ぶための荷を収めておく倉庫街。

 酒場や娼館等が多い歓楽街といった区分けもあるし、あぁ、居住区以外にも、人が多く住む場所がある。

 例えば特に治安が良い行政区の近くには、富裕層が住む屋敷街があって、歓楽街の近くには粗末な家が並ぶ貧民街があった。


 さっきも言ったけれど、これは大きく区分けをしたらの話であって、行政区にも高級な酒場があったりするし、特定の日には居住区近くに市も立つ。

 娯楽に関する施設だが、闘技場は行政区にあって、冒険者組合は役所の一種ではあるけれど、商業区の近くにある。


 後は、僕が在籍してる賢者の学院や、ルドックが手伝う神殿も行政区。

 なのでルドックとは、時間が合えば時々、一緒に昼食を食べに行ったりしてた。

 年齢は彼の方が幾つも上だけれど、僕はルドックをパーティの仲間であると同時に、友人だとも思ってる。



 僕の今の住まいは、居住区にある集合住宅の二階の一室だ。

 以前は屋敷街にあるイクス師の邸宅にお世話になってたけれど、去年、十五歳になった時に、独り立ちすると決めてここを借りた。

 イクス師からもステラからも、大いに反対はされたけれど、あの家族の好意に甘えたままじゃ、僕は何時までも一人前になれないだろうと、そんな風に思ったから。


 尤も部族にいた頃に思い描いてた一人前の、大人の自分と違って、こちらでの一人前は、色々とあり過ぎてどうやったらそこに至れるのか、未だにちょっとわからない。

 そりゃあイクス師のようになれたら、自分も一人前だって胸を張って言えるけれど、あの人の背中は少し、いや、あまりに遠すぎるし。


 朝、目を覚ました僕は、まずはシュイに食餌を与えてから、窓を開ける。

 するとシュイは一度窓枠に留まってから、外に飛び出て空を舞う。

 町で過ごす時、食餌の時間以外は、シュイと僕は別行動だ。

 まぁ、もちろん呼べばすぐに来てくれるんだけれど、地上と空、住む世界が違う僕らは、四六時中は一緒にいられない。


 僕の分の朝食は、部屋の貸主、大家のクレンスさんが用意をしてくれているから、訪ねて行ってそれを受け取った。

 今日のメニューはパンと焼いたハム、それからヤギのミルク。

 依頼で町の外に出たり、研究が忙しければ賢者の学院に泊まり込む僕は、必ず部屋に戻ってくる訳じゃないから、毎日朝食が用意されてる訳じゃない。

 ただ前の日にちゃんと言っておけば、クレンスさんはこうして朝食を用意してくれる


 朝食を摂ったら、僕は鞄に幾冊かの本を入れ、賢者の学院に向かう。

 この鞄は、冒険者として町の外に出る時の物とは別の、町で過ごす時用だ。

 あまり多くは入らないが、軽く丈夫で、動きの邪魔にならない。

 服も野外を歩かないから、今日は賢者の学院のローブを羽織る。

 こちらも丈夫ではあるけれど、やや動きの邪魔だった。


 まずは、イクス師を訪ねて、例の石塊の中身を調べる。

 昨晩、ステラが家に帰ってるから、イクス師も僕が町に戻ってる事はわかってて、恐らく石塊を割る準備を済ませてくれている筈。


 居住区から商業区を経由して、行政区へと向かう。

 屋敷街からなら行政区は近いのだけれど、居住区からだと少し歩く必要があった。

 町の様子は相変わらずだ。

 全体的に人通りは多いし、活気がある。


 賢者の学院は、行政区の中でも少し外れた位置にあった。

 中に入れば見慣れた顔とすれ違うから、軽く手を挙げたり、頭を下げて挨拶をしながら、イクス師の部屋に向かう。

 この町には何人かの導師がいるけれど、イクス師はその纏め役であり、賢者の学院の顔役だ。

 尤も王都であるヴァロスにも賢者の学院はあって、そちらにはイクス師よりも立場が上の魔法使いがいるらしい。


 でも僕はヴァロスには行った事があるけれど、それは冒険者の仕事で訪れただけであり、賢者の学院には顔を出さなかったから、……僕が知る限りで、最も偉い魔法使いはイクス師だ。


「リュゼです。失礼します」

 コツコツコツとノックをして声をかけ、反応を待ってから中に入る。



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