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鈴鳴り草の採取の仕方は、風を受ければシャラシャラとした音を鳴らす葉の中でも大きな物のみを、丁寧に摘む。
なるべく多くって依頼ではあるけれど、小さな葉とか、芽まで摘み過ぎると、鈴鳴り草が枯れてしまうから、欲張りすぎは厳禁だ。
まぁ、そういった欲を出して群生地を荒らす冒険者には、そもそもこの依頼は任されない。
このハーバレストの山はそれなりに危険がある為、実力の足りない冒険者は立ち入れないが、こうした後の事まで考える必要のある依頼は、冒険者組合からの信用もなければ受ける事はできなかった。
つまり僕らのパーティは、その信用があるって自慢である。
それから二日後、僕らは籠に一杯の鈴鳴り草の葉をシャガルに持ち帰り、無事に冒険者組合に納品した。
この鈴鳴り草の葉は、乾燥させた後に擦って、効能を高める他の薬草と混ぜられて、粉薬となるらしい。
具体的な事は、僕は薬師でも錬金術師でもないので薬に関しては詳しくないが、鈴鳴り草の葉が物凄く苦い事は、はっきりと記憶に残ってる。
もちろんどんなに味が苦くても、熱と咳の苦しさに比べるとマシなんだけれども。
前回、薬草採取以外にあった二つの依頼は、既に別のパーティが引き受けたという。
ワイマールの国境を目指す対象は既にこの町を出立していて、古い屋敷の異変に関しても、僕らと同じく中堅どころのパーティが仕事中なんだそうだ。
尤も後者の古い屋敷の異変に関しては、移動の必要がないシャガルの町中の依頼である。
それがハーバレストの山まで行って帰ってきた僕らの依頼よりも長引いてるって事は……、恐らくそのパーティは、異変の解決に大いに苦戦しているのだろう。
まぁそちらの成否に関しては、僕としてはどちらでも構わなかった。
解決して依頼が成功となったなら、それに越した事はない。
前にも言った通り、僕らは仕事を選べる程度に、冒険者組合からの信頼と、実績を積み重ねてる。
それに、仮に失敗となった場合も、必ずしも僕らがその次に選ばれるとは限らないし。
僕らのパーティは、僕とルドック、魔法使いと僧侶がそろっている為、ゴーストの類に対しては比較的だが有効な攻撃手段を多く持つ。
けれども今、古い屋敷の異変を解決しようとしてるパーティだって、ゴーストの類に対する対策の一つや二つは持ち込んでいるだろうから、もしも彼らが失敗するなら、僕らにだって解決が難しい依頼である可能性は、十分にある。
もしもそうであるならば、冒険者組合は僕らじゃなくて、もっと格上の冒険者を頼る筈。
今、僕らの懐は、前回の盗賊退治に今回の薬草採取、それからグレイウルフの魔石や、レッドボアの毛皮等を売ったお陰で、それなりに温かかった。
また連続で依頼に動いていた為、近頃はあまり休めてない。
僕は魔法使いとして冒険者をしているけれど、同時に賢者の学院という学び舎、研究機関に所属する魔法使いでもある。
つまりある程度は、自分の研究も進めて、その成果を発表しなきゃならないのだ。
あぁ、それにイクス師に預けてた石塊も、そろそろ割る準備ができてる筈。
「七日か十日程、自由行動の予定にしようか」
僕がそう言いだす事を、仲間達も予測はしていたのだろう。
その提案は実にあっさりと受け入れられた。
町での自由行動となると、まぁ、パーレは稼いだ金を酒に変えながらそれを過ごす事は、想像に難くない。
或いはステラ辺りを誘って、二人で簡単な依頼を請けたりするかもしれないけれど、それも含めての自由行動だ。
ルドックは神殿での奉仕活動、信者に説法をしたり、孤児院の手伝いをするのだと思う。
ステラは……、何をするんだろう?
普段はできない強度の高い訓練をしたり、剣の師のところに顔を出したり、闘技場に出たりだろうか?
空いた日があれば、以前に良くそうしたように、市にでも一緒に遊びに行きたいけれど、何だか最近は、ちょっと気軽には誘い辛い。
別にお互い、何が変わった訳でもないんだけれども。
ただ、予定はあくまで予定である。
例えばその間に、冒険者組合から僕らを名指しで依頼が来れば、それは対応する必要があった。
余程の理由があるならともかく、自由時間だからと名指しの依頼を蹴る事は、流石にできやしない。
いや、もちろん断っても良いんだけれど、その場合、次からはそうやって頼られなくなるかもしれないし、冒険者組合の職員だって、僕らに何らかの融通を図ろうって気持ちは減るだろう。
世の中は持ちつ持たれつ。
ドライの振舞うのは自由だが、その場合は自分がドライな扱いを受ける事を覚悟する必要がある。
そしてそれは、少なくとも僕らのパーティのやり方じゃないから。
仕事を終えた僕らが最初に向かうのは、冒険者組合の中にある酒場の、何時もの席。
明日からはバラバラに自由な時間を過ごすとしても、今日くらいは仲間全員で、自分達の無事と、依頼の成功を喜ぼう。
僕は、恐らくはきっと仲間達も、こうやって皆でテーブルを囲む時間が、とても気に入っていた。
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