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 吹く風を翼で捕まえて、ばさりと羽ばたき、高度を上げる。

 空から見下ろす大地は、地に足を付けて見るそれとは全く表情が違う。


 中にいると、どこまでも木々の連なりが続くように思える森も、空からならその途切れ、森の終わりがはっきりと見えた。

 けれども、今探しているのは、その森の出口じゃない。

 ぐるりと方向を変えて目指すのは、木々よりも背が高く、森の中からにょきっと姿を見せている朽ちた塔。


 あの手の塔は、古代魔法王国期に力ある魔法使いが建てた物だ。

 昔はあそこにも、多くの英知が集められていたんだろう。

 しかし古代魔法王国期が終わればそれも荒らされ、今では枯れた遺跡として放置された挙句、賊の棲み処になっていた。


 旋回しながら確認すれば、朽ちた石造りの塔の周りは、木々が切り開かれて、木製の柵で囲われている。

 恐らく、住み着いた賊が、森の獣や魔物への防備として、柵で塔を囲ったんだろう。

 道を踏み外さなければ、そんな柵なんて作らなくても、もっと安全な村や町に住めるのにと思ってしまうが、それは言っても仕方のない話だ。

 生まれつきの性質が邪悪で賊をやってるのか、働くのが嫌で、楽に稼ぎたくて賊になったのか、真面目に生きてきたが止むに止まれぬ事情で賊に落ちざる得なかったのか。

 そのいずれであったとしても、賊である以上は捕まれば一切の区別なく縛り首で、その境遇を考える事は無意味でしかない。


 そんな後のない連中だからこそ、自分達の拠点である塔にいる時も、見張りは欠かさず外に配置をしてた。

 尤も配置された見張りは、油断しきって昼間だというのに大きく欠伸をしているけれども。

 見張りの数、拠点の規模、塔の周囲にある生活の痕跡から想定される賊の数は、十人前後。

 これは近くの村を襲った賊の数と一致する。


 後は、塔の屋上にも見張りが一人いて、近くには弓と矢が置いてあって、いざという時はこれで、屋上から下を狙うんだろう。

 塔の中に入り込んでしまえば無意味だが、柵や下の見張りの突破に手間取れば、高所から降る矢の脅威が待っていた。


 空から見えるのはこれくらいか。

 朽ちた塔は裂け目から中の様子が伺えそうだが、流石にそれはリスクが大きい。

 こうして空から見下ろしてるだけなら、賊も鳥が飛んでいるくらいにしか思わないだろうが、中を覗いて不自然に思われれば、連中を警戒させてしまう。


 可能なら攫われた娘の居場所を突き止めたかったけれど、その救出は必ずしも必須ではなかった。

 今回、最も重要なのは賊の排除だ。

 優先順位を間違えちゃいけない。

 娘を助ける為に賊の大多数を取り逃がしたりしたら、再び村が襲われて、より多くが死ぬだけの結果になりかねないから。


 塔の位置と見張りの存在、それから防備が確認できたから、今はこれで十分だ。

 ばさりと大きく羽ばたいて、向きを変えて空を飛ぶ。

 戻るべき場所はわかってるから、一足先に、僕は心を自分に戻す。



 空を舞う鳥から、地に立つ人間へ。

 全く違う存在に心を戻した僕は、あまりに大きな感覚の違いに、眩暈を感じて一瞬よろめく。

 そんな僕の体を、がっしりと肩を掴んで支えたのは、鎧兜を身に纏った女戦士のステラだった。


「リュゼ、大丈夫?」

 心配げに顔を覗き込んで問う彼女に、僕は気恥ずかしさを感じてその手から逃れ、しっかりと立ち直してから、一つ頷く。

 問題は、うん、全くない。


「ききき、うちの男どもは軟弱だからなぁ。……で、どうだった?」

 まるで猿のように笑うのは、ハーフリングの女盗賊のパーレ。

 こちらを馬鹿にするだけじゃなくて、しっかりと仕事を忘れてないから、僕も怒るに怒れない。

 僕は、僕と一緒くたに軟弱と称された僧侶のルドックに視線をやるが、彼は肩をすくめるのみである。


 実際には、ルドックは戦闘となれば盾とメイスを構えて前に出る事も多いから、パーレが言う程に軟弱ではない。

 正面からの戦いだったら、そりゃあ戦士のステラには敵わないとしても、ルドックはパーレには勝るだろう。

 ただ盗賊のパーレが正面からの戦闘なんてする訳がないから……、いや、仲間内で誰が強いとか、考えても仕方ないんだけれども。


 戦士のステラ、盗賊のパーレ、僧侶のルドックと、魔法使いのリュゼこと僕で、四人の冒険者のパーティだ。

 あぁ、盗賊といってもパーレは犯罪者じゃなくて、冒険者の役割としての盗賊である。

 昔、大きな事件を解決する際、捕まった高名な盗賊がその技術を買われ、特別に罪を許される代わりに斥候として組み込まれた名残で、鍵開けや罠の感知を行う特殊な技術を持った斥候を、今も盗賊と呼んでいるんだとか。

 もちろん、そうした技術を持つ者には、今も後ろ暗いところがあるって奴も決して少なくはないんだけれども。


 まぁ、それはさておき、今回の仕事は、この近くの村を襲い、食料を奪って村娘を攫った賊の討伐。

 こちらは本当に犯罪者の賊だ。


「賊の人数は多分村で聞いてた通り。別動隊がいる様子は、少なくとも塔にはなかったよ。塔の周りは木の柵で囲ってあって、見張りも立ってる。……でもまぁ、油断はしてたね」

 僕はそう言って、適当な枝を拾ってしゃがみ、地面に空から見た地上の様子を描いていく。

 残念ながら絵心はないので、見栄えのする図は描けないが、状況を伝えるだけならこれでも十分、の筈である。


「後は塔の屋上にも見張り、というか射手がいたね。腕は、そんなに良くなさそうだったけれど」

 ふと、それに気付いた僕は地面に描く手を止めて、立ち上がって左腕を翳す。

 するとそこにバサバサと、空から舞い降りてきて留まったのは、僕が先程まで心を移していた使い魔、大鷲のシュイ。

 僕は空いた右手でシュイを撫でてから、懐を探って肉を一切れ取り出し、与える。


 その干し肉をひょいと飲みこんだシュイは、満足気に一声鳴いてから、再び空へと飛び立った。

 自分の仕事は果たしたからと、今度は僕らの仕事が終わるまで、邪魔にならないように待っている心算らしい。


「残念ながらリュゼが言う射手の腕が良くないは、あんまり信用できません。貴方の射手の基準は高すぎるので、そう呼ばれる時点で私達にとっては大きな脅威ですから」

 ルドックが首を横に振ってそういえば、パーレも同意するように頷く。

 仲間達の物言いに僕が唇を尖らせて、ちらりとステラの方を見れば、彼女は困った顔をして、けれどもスッと視線を逸らした。

 どうやらこの場に、僕の味方はいない様子。


 確かに、高所に陣取った射手は侮れない脅威である。

 でもその存在を聞いても仲間がこうして冗談を言って笑ってられるのは、多分その射手は僕が排除するって信じてくれているからだろう。




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